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2章 夕才川殺ジン事件

「ほらほら〜亮真くんも新羅くんも来て〜」

「…」

「なんでだよ」

「行くよー!せーのっ!」

四人は紙を開いた!

高遠亮真

国語 100点

数学 100点

英語 100点

合計 300点

十川新羅

国語 78点

数学 96点

英語 81点

合計 255点

渡辺双葉

国語 59点

数学 54点

英語 88点

合計 201点

足立綾野

国語 83点

数学 80点

英語 79点

合計 242点

「お前…勉強も化け物だったのかよ」

「凄い!頭良いね!」

「…うーん」

「お前らもいい方なんじゃないか多分」

少し暑い光が外を差し込む中、四人は模試の見せ合いをしていた。

「お前カンニングしたのか?」

「してないわボケ」

「いいな〜運動も出来て頭も良くて」

「…羨ましい」

四人が話していた。そのとき、

「おいお前」

亮真は後ろを振り返ると、

「お前が高遠亮真だな」

ピンク髪のロング、ところどころ三つ編みがされた女子。

「私に一位の座を譲れ」

「出来るなら別に良いよ」

「ふんっ」

その女子は教室を出て何処かへ行った。

「亮真くん、渡しちゃって良かったの?」

「いいよ、目立ちたくねぇし」

「というか何だアイツ、点寄越せっていきなり言って。ってゆーかお前も即答するんじゃないよ」

「…中山、嬢子」

新羅が言う。

「新羅、知ってるのか?」

「…親が金持ちらしい…お嬢様」

「お嬢様か〜いいな〜」

「アイツ、偉そうだったな」

「その中山とやらに土下座したら金が貰えるんだな」

「おいっ」

綾野が亮真を小突く。

「お前、最近力加減とやらを覚えたんだな」

「とっくの昔に覚えてる」

「…ゴリラ」

綾野が無言で亮真の太腿を抓る。

「痛い痛い痛い痛い」

「顔が痛がってねぇな…」

「人の痛がる顔見たいのかよ、ドMかよ」

「殺すぞ」

「まぁまぁ二人共…」

「…怖い」

そんな話をしていたら、

「亮真くん、ちょっと職員室へ来てくれるかな?」

「あ、はい」

「怪物の件かもな」

「いや、それだったらお前らも呼ばれてる。取り敢えず行ってくる」

「行ってら〜」

「行ってらっしゃーい!」

新羅は無言で少し手を振る。亮真は職員室へ向かった。


コンコン

「失礼します」

亮真は戸を開ける。

「来たな高遠亮真」

職員室のソファに座っていたのはあの中山嬢子だった。そしてその隣には謎の男性、そして先生だ。

「何の用だ」

「私に一位の座を譲れ」

すると隣に座っている男性が口を開く。

「嬢子、やめなさい」

「嬢子さん、高遠君も困ってるだろうし…」

「嫌だ、私は一位がいい」

亮真は隣に座っているのが中山の父であると悟った。

「別に譲ってやってもいいぜ」

中山の父と先生は目を見開く。

「そんな…試験結果の改竄などあってはならないだろう」

「高遠君も本当にそれでいいの?」

「正直、試験結果に興味無い」

すると目を細めていた中山が、

「高遠亮真、もう一度私に何で言ったか言ってみろ」

「あ?譲ってやってもいいっつったんだよ」

中山は続けた。

「身をわきまえろ。私が"譲られてやる"んだ」

「嬢子!」

嬢子の父が立ち上がる。

「まぁまぁ…まず試験のことを…」

「お前は社交というものをわからんのか!」

「私はこの庶民よりも偉いんだ。当たり前だろう」

「人様の事を!」

亮真が口を開く。

「静かにしろ、座れ、身をわきまえろ」

中山の父はハッとした表情になる。

「…す、すみません…」

「"怒りは何も生まない"って教わらなかったのか?」

「ハハ…情けない姿を見せてしまったようだ」

「中山嬢子、だな?」

中山はムッとしている。

「呼び捨てをするな」

「とりあえず俺は一位を譲って構わない。出来るのならな。」

「交渉成立だな」

二人は同時に立ち上がる。

「え?ちょっと二人共?」

亮真が言う。

「これは俺と中山の話だ。中山の父と先生はあくまでも仲介役みたいなものだろう?決めるのは俺と中山だけだ」

「だから、呼び捨てするな」

「断る」

「…気に食わない」

二人は職員室を出ていってしまった。

「すみません、後でキツく叱りますので」

「あ…はい…」

中山の父と先生は取り残された。


一緒に教室に戻る二人。

「私の横に並んで歩くな、身をわきまえろ」

「五月蝿い」

「大体、何故庶民のお前がそんな偉そうなんだ?」

「お前は基本的人権を忘れたのか?」

「そんなの私が認めない」

「非国民かよ」

「私はいつか日本のリーダーとなるんだ、そうなったらお前を非国民にしてやる」

「お前は国民主権を忘れたのか?」

「いつか世界も征服する。そしたらお前から人権剥奪するぞ」

「どうやって征服すんだよ」

「私には1億人の手駒がいる」

「うわ、サイテー」

「お前も戦争に参加しろ」

「お前は平和主義を忘れたのか?」

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

警報は突然鳴った。

「高遠亮真、私を守れ」

「自分の身は自分で守れ」

二人は空き教室に隠れた。

「ったく…まぁ丁度いいし寝るか」

亮真は目を瞑る。

「…zzz」

「本当に寝る馬鹿がどこにいる」

嬢子は亮真を叩き起こした。

「私を守る役目を与えてやったのに…集中しろ」

「お前を守るの断ったのに…諦めろ」

スマホを見るとまだ怪物は居るらしい。ふと窓の外を覗くが、怪物の姿は見えない。

「こっちの方角じゃないか…」

(どこに現れたんだ?)

亮真はスマホの更新ボタンをタップする。

「長い。なんとかしろ高遠亮真」

更新が終わったスマホの画面に映ったのは、

「怪物現れた場所、此処だ」

「え?」

パリーン!

突然窓ガラスが割れる。

「アレは…蔦か?」

蔦のようなものがうねりながら二人の方へ伸びていく。

「り、り、り、亮真!なんとかし…」

「わかったから一旦離れろ!」

亮真は刀を取り出す。

「もう少し離れろ」

「こ、このくらいか?」

「まぁ、及第点だ」

そして構えを取る。

「帥曹流 青躑躅 元帥」

その瞬間、青い閃光と共に蔦は一瞬で斬られ、バラバラになった。

「蔦は上から伸びて来ていたから、今いる二階よりも上の階にいる可能性が高い。お前は一階に避難していろ」

「わ、私も戦う」

亮真は目を見開く。

「お前、戦えるのか?」

「蔦を斬るくらいなら」

中山の武器、"戦斧"を取り出した。

「上出来だ、上へ向かうぞ」


階段を駆け上る二人。ある違和感に気付く。

「人が一人も居ねぇな…」

(全員避難したか?それとも…)

「誰かー助けてー!」

助けの声が聞こえた。

「行くぞ、嬢子」

「呼び捨てするな」

二人は声のした教室へ駆ける。そして戸を勢いよく開けた。

「たっ、助けてくれぇっ!」

裏返った声で助けを求める。蔦で巻きつけられ、捕らえられていた。その近くには、明らかに触ったらマズい液を垂らした"何か"があった。それはまるで壺のような…

「この植物型の怪物、生き物を捕食しているようだ」

「じゃあこの庶民も食おうとしているのか?」

「そうだな」

「服ごと捕食するのか?」

「多分な、ちなみにウツボカズラ科の植物も同様の性質を持っているぞ」

「そうなのか…」

「…」

二人は話している。

「早く助けてくれーーーーーっ!」

「仕方がない、私が助けてやる」

嬢子は戦斧を振り上げ、

「やあッ!」

あっさりと蔦は斬れた。

「ありがとう!君は命の恩人だ!」

「感謝しろ、跪け」

「…え?」

困惑する男子生徒だったが、

「さっさと元凶倒しに行くぞ」

「命令するな」

二人は教室を出て、屋上に向かう。

「中々やるじゃないか」

「もっと褒めても構わんぞ」

「さっきまでビビってたのにな」

「お前など本気を出せば生涯労働させられるのだからな」

「ビビってたの面白かったなー」

「これ以上言うな!」


屋上の扉を開けると…

「あれが元凶だな」

床に根を張り、蔦を下に伸ばしている。

「この怪物、ほっといてもあまり害無いんじゃね」

「私のペットにしようかしら」

「阿呆」

「無礼だぞ!」

暫く様子を観察してみる。

「どうやらこの校舎にだけ伸びてるようだな」

「あっちの校舎に庶民共がおるぞ」

「慌ててる様子も無いみたいだ、もう取り残された人はいないらしい」

「そうだな」


「先生!高遠亮真と中山嬢子がいません!」

「まさか、取り残されたのか?!」

「頼む…生きていてくれ!」

取り残された人が居た。正確に言うと"取り残されに行った"人が居た。


「さて、どうする?」

「私の財力で持ち帰るのがベストよ」

「ド阿呆」

「五月蝿い!」

目の前にいるのは怪物だが、人に危害を加える様子は無く、此方を襲う気配も無い。

「怪物課に任せるのがベストだな」

「持ち帰りたいが、我慢してやろう」

植物に背を向ける二人。皆の元へ戻ろうとしたその時。

屋上の扉が開いた。

屈強な体をした中年の男と、スーツを着た金髪のいかにも真面目そうな女性が屋上へ来たのだ。

「誰だ」

「君達は此処の生徒かな?」

「私はこの学校のトップだ」

「俺もこの阿呆もただの生徒だ」

「阿呆って言うな!」

男が口を開く。

「…君ら二人が怪物の動きを止めたのか?」

「もちろん私がげk」

「元々だ。恐らくあまり人に危害を加えないタイプだと俺は思う」

「どうします?課長」

男はキッパリと言う。

「気が乗らないかもしれないが、この怪物は始末する」

「わかりました」

女性は武器"薙刀"を取り出した。

「私がやります」

「待て」

男が止める。

「君ら、此処にいるってことは何かしら武器を持ってるんだろう?始末、一緒にやってみるか?」

課長の男から提案を受けた。

「亮真、お前はどうする?」

「…自ら突っ込んだ首だ、やらせて貰おう」

「じゃあ私も」

それぞれ刀と戦斧を取り出す。

「課長、良いのですか?こんな子供にやらせても」

「…」

「…課長?」

(黄緑の髪と刀を持つ少年…)

課長の男は唾を飲んだ。そして亮真と嬢子は、

「行くぞ」

「命令するな」

亮真は怪物に目がけて刀を投げた。

「斬るんじゃ無いのか!」

嬢子はそう言いながら飛び上がる。

「喰らいなさい!」

ザクッ

怪物は縦に真っ二つに引き裂かれ、消滅した。

(…間違い無い)

「協力、感謝する」

「君達、今度はちゃんと警報が鳴ったら避難しなさい」

そう言い残し、怪物課の二人は去っていった。


「亮真くーん!」

「抱きつくな」

双葉は亮真に飛び込んだ。

「亮真!双葉から離れろ!お前寝取る気だな!?」

綾野が叫ぶ。

「…」

隅で見守る新羅。

「心配したの!避難したところにいなかったから…」

「まぁお前のことだから怪物を倒しに行ったんだろうけどな」

「…怪我無い?」

「安心しろ、無傷だ」

四人で話していると、嬢子が近づいてきた。

「10点」

「あ?」

「強さは認める、だが私を守るという役目を全く果たしてない」

「亮真くんが赤点?!」

「なんでやねん」

「エセ関西弁喋るな」

「…フッ」

なんだかんだ、面白そうだと思った新羅は少し笑みを零すのだった。



「ただいまー」

疲れた。今日も面倒な奴らの相手を頑張ってしまった。

(本当なら一人で有意義に過ごせたんだよなぁ…)

「おかえりなさい亮ちゃん」

亮真の母だ。実は亮真の母はアメリカ人ハーフで金髪の白人である。よく周りの人に英語が話せると勘違いされているが全く話せない。やはり環境は人を変えるものだ。

(カレーの匂いがするな…いや、これは…)

「カツカレー」

「凄い!なんでわかったの?」

「匂い」

「意外と鼻が利くのね」

俺は洗面所に行き、制服から部屋着に着替える。

ガチャッ

「お兄ちゃんおかえり!」

「開けるな」

亮真の妹の裕音だ。母とは違い黒髪の中2の女の子。兄とは正反対で明るく、寂しがり屋である。

「いいじゃん私達兄妹だもん」

「関係ない」

「も〜もっと仲良くしようよ」

「しすぎだ」

着替えを終え、リビングの椅子に座る。目の前にはカツカレーがあった。

「いただきm」

「いただきまーす!」

多分鼓膜破れた。

「お兄ちゃん、あーんしてあげようか?」

「断る」

「えーつれないお兄ちゃん」

妹の裕音は頬を膨らませる。

「今日一緒にお風呂入ろ!」

「ほおはる(断る)」

「もーなんでよ〜」

「ほえあひおいあいいんあ(俺は一人がいいんだ)」

「お兄ち…って食べるの早っ!」

「ごちそうさま」

「あっ、待ってー!」

亮真は呆れた顔をしながら自室へ戻ったのであった。


亮真は部屋でボーっとしていた。特にすることが無い。無さすぎた。すると、

「亮ちゃん、電話よ」

母が部屋に来た。

「誰から?」

「それが…"警察"からで…」

「警察?」

「なんか犯罪してないよね?」

「してない」

亮真は家電話の方へ向かう。

受話器を取った。

「もしもし」

『もしもし、君が高遠亮真くんかな?』

「はい、そうです」

『今日の夜9時に、夕才川の河川敷に来てほしいんだ』

(前のオークの怪物の件か…?)

『やっぱり…厳しいよね?』

「いけます」

『本当かい?迷惑じゃないかな?』

「暇なんで」

『…わかった、あと、もう一つ』

「どうしました?」

『このこのは家族にも友達にも言わないでほしい。"くれぐれも、気をつけておくれよ"』

「わかりました」

ツーツー

「…」

「どうだった?亮ちゃん?」

「お兄ちゃん?どうしたの?」

亮真は少し目を閉じ、その目を開いた。

「俺の友達が流れ星を一緒に見ようって…面倒くさい…」

「え?でもさっき」

「お母さん、もしかして本当に警察だって思い込んでた?」

「え、違うの?」

「ったく…最初に出るのが俺だと思ったのか…」

「あぁ…びっくりきた…」

「とりあえず、今から夕才川行ってくる」

「気をつけてねお兄ちゃん」

「いってらっしゃい」

「…行ってくる」

(…只事じゃあないらしい)

亮真の顔は少し引き攣っていた。



少し雲がかっている空だが、月が見えている。

(今日は半月か…)

夕才川の水が流れる音を聞きながら川沿いの土手を歩く。暫く歩いていると、一つの車が止まっていた。誰が見ても何てことのない車だが、亮真はそれを見抜いていた。

(覆面パトカーだな)

亮真が河川敷の方に目をやると、一人の見覚えのある男が立っていた。

「よう、おっさん」

「…」

亮真の目には、あの怪物のときに現れた課長の男が手を後ろに組み、立っていたのだ。


「…念の為もう一度聞く、君の名前は何と言うのかな」

「俺の名前は、"高遠亮真"だ」

亮真は土手から降りて男の元へ行く。

「…川の音は心が、洗われる。邪心が一緒に流れ、浄化される」

亮真は川の方を見る。

「…今君が通った道も、この綺麗な川も、法律があるからこそ、自由に通れたり、心が豊かになる」

川の音がする。

「…君達がその当たり前が出来るのは人権があるからこそだ」

「…」

亮真は川を眺めている。なんてことない唯の川を。

「そんな話をするために俺を呼びつけたなら、承知しねぇぞ」

男は少し間を置き、言う。

「…私達はそんな人を守る為の存在、"ALL HOLDER"のようなものだ」

「…」

「…だからこそ、私は人々を守らなければならないのだ」

男は武器を取り出す。大きな"鉈"を。

「…許せ」

男はその鉈を亮真に斬りつけた。もちろん亮真は避けた。

「…」

亮真は無言で刀を取り出す。

「高遠亮真、君には死んでもらう」



男は亮真の元へゆっくりと近づく。その目には、明らかな殺意が見えていた。

「何故俺を殺す」

「…守る為」

男は一つ、斬撃を喰らわす。亮真はこれを受け止めようとした。

「…ッ!」

(なんだこの力…!?)

その衝撃でふっ飛ばされたのだ。

「お前…マジモンのゴリラじゃねぇか…」

男は無言で近づいて来る。

(気味が悪ぃ…)

亮真。男の方に駆け、

「喰らいな」

斬りつけた。しかし男は安々と攻撃を受け止めてしまった。

(やはり力の差は歴然…か)

男が攻撃する。それを避ける。この繰り返しだった。周囲には鋭い金属音が鳴り響く。

「何故俺を殺すことが守る為になる?」

「…」

(埒が明かないな…)

亮真は一旦距離を取る。

(これしか方法は無い…!)

亮真は構えを取った。男は無言で見つめる。

「帥曹流 青躑躅 元帥」

亮真は青い閃光を走らせながら、超高速の一閃を繰り出す。

周囲に砂埃が舞う。

ポタ…ポタ…

地面に赤い血が流れる。

そして、

亮真の脇腹から血が溢れた。

(…斬ら…れた?)

「終わりだ」

男がゆっくりと近づいて来る。

「…君は強い、頼りになる、我が怪物課にも是非就職して貰いたいくらいだ」

「…は?」

「だが、君は"強すぎた"」

男が鉈を振りかざす。

「…すまない」

「…んな…」

男はある違和感を感じる。

「ふざけんな!」

男は鉈を振り落とした。

…振り下ろそうとした。気づいたら、男の身体は宙に浮いていた。

(…?)

男は地面に叩き尽きられる。

(なんだ…?)

亮真の方に目をやる。

「ふざけんじゃねぇ!市民も守る為だか知らねぇ!俺は…俺は…」

男は目を疑った。

(髪が…赤い?)

「やっと手に入れたんだ!幸せな家族を!大好きな!"友達"を!なのに!なんで!お前はっ!!」

(いや…目も、眉毛も…?)

「なんでどいつもこいつも俺の幸せを奪うんだ!」

亮真は男の方に駆け出した。先ほどとはまるで違う、冷静さを欠けた走り方で。そして、教えてもらってもないのに頭に、体に浮かんだモノを使った。

「帥曹流! 赤水木! 元帥!」

男は咄嗟に身構える。

攻撃を鉈で受け止める。次の瞬間、

吹き飛ばされた。

「…ッ!」

男の身体は土手の方に飛ばされ、激突した。辺りに砂埃が舞う。


砂埃が晴れる。土手は抉れ、男は所々から血を流していた。

「…負け…た…か……」

ゴホッ

男が咳き込む。

亮真は男に近づく。さっきより赤みは薄れ、変な色をしていた。

「確かに、お前は市民を守る人間だ」

亮真は続ける。

「でも、俺を殺しに行くのは流石に可笑しいぞ」

「君は…」

「…さっきの俺と同じだな」

「何がだ…」

「おっさん、お前は冷静さを欠いてるんじゃないか?」

「私は…」

亮真は男の目を暫く見つめる。

「人が冷静さを欠くときって、怒りだけじゃなくて"恐怖"もあるぜ」

男は目を見開く。

「…図星のようだな」

「ふっ…当てられたか」

「何があったか、聞かせてもらうぞ」

「その前に」

男は少し身を起こす。

「今日はもう遅い、次また時間があったらな」

亮真はスマホを取り出す。

「その前に、一緒に病院だな」

「そうだったな」

その夜、二つの救急車の音が街に響いた。



怪物 ヒトクイカズラ

全長3mの植物型の怪物。蔦を自由に操ることが出来、それで他の生物を絡め取り、壺のような器官に入れる。器官の中には消化液が含まれており、その中から栄養を得る。壺の大きさは、大きいもので熊が入ってしまうほど。

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