第48話 そういう意味なら俺は異端者かもしれないな
しばらくは四人で普通にカラオケを楽しんでいた俺達だったが雨宮先生がお手洗いで部屋の外に出ようと立ち上がったタイミングでトラブルが発生する。
「うぉ!?」
床の何かに躓いた雨宮先生はバランスを崩して盛大に俺の方へと倒れてきたのだ。咄嗟に倒れてくる雨宮先生を受け止める俺だったが残念な事に不運は重なる。
豊満な胸が顔に押し当てられたと同時に雨宮先生の右手が俺の下半身に思いっきり触れたのだ。そんな突然の刺激に耐えきれなかった俺は不覚にも勃起してしまった。
「すまない沢城、大丈夫か? あれっ、何か手に固い感触がするような気が……」
玲奈と叶瀬、雨宮先生の視線が俺の下半身に向けられる。そして三人は俺の下半身が元気になっている事に気付いてしまう。
あっ、これは割とガチでまずいかもしれない。上手く言い訳出来る未来が全くと言って良いほど思い浮かんでこないのだ。すると何故か俺以上に三人が慌て始める。
「き、きっとポケットに入っていた何かの感触だったに違いない」
「ず、ズボンがもっこりして見えるのは履き方の問題です」
「じ、潤は勃起なんてしてないから」
玲奈と叶瀬、雨宮先生は過去に俺が勃起した事を知っているため誤魔化そうとしてくれたようで同時にそんな言葉を口にした。
だが全員明らかにわざとらしかったためむしろ逆効果だ。そこでようやく三人は色々と察したらしい。
「……もしかして玲奈先輩と雨宮先生はこの事を知ってました?」
「そういう叶瀬こそ知ってたのか?」
「えっ、華菜ちゃんと雨宮先生も知ってたの!?」
この中で自分だけがその事を知っていると思っていた三人だったがようやく他の二人も知っていると気付いたようだ。
「なるほど、この様子を見る感じだと私以外も知ってたんですね」
「みたいだな」
「せっかく私と潤だけの二人の秘密だと思ってたのに違ったんだ」
今の言葉が答え合わせになったようで玲奈と叶瀬、雨宮先生はそう反応していた。かなり面倒な事になってしまったため頭を抱えていると叶瀬が口を開く。
「それにしてもこんなに頻繁に勃起するって事はもしかして先輩はここ最近ネットとかの噂で聞く異端者って奴ですか?」
「異端者……?」
聞き慣れない単語が叶瀬の口から出てきたため俺はそう聞き返した。玲奈と雨宮先生も聞き馴染みがなかったようで顔に大きなクエスチョンマークが浮かんでいる様子だ。
「何故か貞操逆転の影響を受けてない人達男女問わず一部いるみたいでネット掲示板とかSNSでは最近そう呼ばれるようになったんですよ」
「そういう意味なら俺は異端者かもしれないな」
「あっ、やっぱりそういう人もいるんだ」
「相変わらず貞操逆転現象って本当に謎な事だらけだな」
叶瀬の解説を聞いて玲奈と雨宮先生はそう声をあげた。やはり俺以外に同じ境遇の人間がいる事に少しだけ安心感を覚えたがまずい状況には変わりない。
「……お願いですから俺の件はくれぐれも秘密でお願いします」
「分かってるよ、潤が変な女から狙われるようになっても困るし」
「ああ、自分の生徒の安全を脅かすような事はしないから安心してくれ」
「私も優秀な後輩なので先輩に迷惑をかけるような事はしません」
三人はそう約束してくれたたためひとまず俺の件については四人だけの秘密にするという方向で何とか話がまとまった。
その後は先程の話題には一切触れず特に何事もなかったかのようにカラオケを続け、割と満足したため特に時間を延長する事もなく部屋を出る。
「いよいよ来週からは楽しい夏休みだね」
「だな、来年の夏休みは間違いなく受験勉強とかでめちゃくちゃ忙しいだろうから今年はしっかり遊ばないとな」
「先輩や玲奈先輩とは違って私はぴちぴちの一年生なのでまだ余裕です」
「学生は良いよな長い夏休みがあって、分かってるとは思うが社会人になったらそんなものないからな」
夏休みの話題で盛り上がる俺と玲奈、叶瀬に対して雨宮先生は将来やってくるであろう現実を突きつけてきた。すると玲奈が文句を言い始める。
「ちょっと雨宮先生、嫌な事を言わないでくださいよ」
「流石に今回だけは玲奈先輩に同意です」
「雨宮先生も愚痴りたい気分だったって事だよ」
「ナイスフォローをありがとう」
俺達はそんな話をしながら帰った。それにしても今回の夏休みは貞操逆転現象が起きてから初めてのため日本全国で色々な事件が起こってもおかしくはなさそうだな。
俺も面倒なトラブルには巻き込まれたくないが果たして大丈夫だろうか。俺が異端者だと知った玲奈と叶瀬、雨宮先生の目が心なしがギラついていたため少し不安だったりする。
いくら三人が美人だとしてもロックオンされた挙句ギラギラした目で迫られたらかなり怖いだろう。流石にそんな事はしてこないと思いたい。
【読者の皆様へ】
お読みいただき、ありがとうございました!
これにて第2章は終わりです。
第3章からは夏休みのエピソードになります、他作品の書籍化作業が落ち着いてきたらまた一気に更新します。
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