第41話 そうだな、地球と月みたいな関係な気がするぞ
その後もしばらく二人で頑張って資料室を整理し続けたわけだがこれでようやく半分が終わったと言ったところだろう。残りの半分も同じくらいかかると仮定すると帰れるのはかなり先になりそうだ。
「だいぶ綺麗になって来たしそろそろ休憩にしよう」
「そうですね、流石に疲れました」
「とりあえず外に出ようか」
冷房を付けて作業をしていたというのに完全に汗だくとなっておりちょっと気持ち悪い。それは雨宮先生も同じだったようで色白の肌がピンク色になっている。
ひとまず資料室を出た俺と雨宮先生はそのまま自動販売機へとやって来た。ポケットから財布を取り出して自動販売機に入れようとしていると雨宮先生に止められる。
「ジュースは私が奢るぞ、資料室の整理を手伝わさせてしまったお礼だ」
「えー、それなら回らないお寿司の方が嬉しいんですけど」
「いやいや、あまり無茶を言うな。そんな事をしたら私の財布の中身がすっからかんになる」
「流石に冗談ですよ、雨宮先生の懐事情がそんなに潤ってない事くらい知ってますから」
以前雨宮先生は給料から税金などが強制的に引かれて、そこから家賃や水道光熱費なども引かれるため手元にはあまり残らないみたいな愚痴を授業中に吐いていた。だから生活にあまり余裕がない事くらいちゃんと知っている。
「それはそれでちょっと複雑なんだが……」
「とりあえず雨宮先生のお言葉に甘えさせて貰いますね」
「ああ、何でも好きなものを買ってくれ」
俺は雨宮先生からお金を受け取ったお金を自動販売機に入れてコーラを購入した。ちなみに雨宮先生は紙パックの抹茶オレを買ったらしい。
それから俺達は近くにあったベンチに二人で腰掛けてそれぞれ飲み始める。かなり喉が渇いていたため冷たいコーラと炭酸の刺激がめちゃくちゃ心地良い。
「そう言えば大丈夫ですかね?」
「ん、何がだ?」
「ほらっ、汗だくの男女が二人きりの密室から出たところを誰かに見られてたら変な誤解されそうじゃないですか?」
「き、急に何を言い出すんだ!?」
俺の言葉を聞いた雨宮先生は慌てふためき始めた。相変わらず良いリアクションをしてくれるため雨宮先生いじりは辞められない。
「そもそも私達が資料室を出た時には確か周りに誰もいなかっただろ」
「えっ、そうでしたっけ。近くに誰かいたような気もするんですけど」
「……そう言われると急に自分が信じられなくなってはくるが、もし見られていたとしても普通は変な誤解なんてされないはずだ」
「確かに普通の先生ならそうかもですけど、雨宮先生は性に飢えた猛獣じゃないですか」
いじるのが楽しくなってきた俺はそう追撃する。すると雨宮先生は全力で否定し始める。
「いやいや、そんな事はないぞ。私ほど真面目な人間はいないからな……」
「でもこの前も本屋で変装してまでエロ漫画を買おうとしてましたし、なんなら部屋の中にもたくさんあったじゃないですか」
「な、何でそれを知ってるんだ!?」
「知ってるも何もこの間雨宮先生を家まで連れて帰った時に床にエロ漫画が転がってるのをこの目で実際に見ましたからね」
「……最悪だ」
雨宮先生は羞恥心で押しつぶされそうな表情を浮かべながら力無くそう呟いた。てか、あれだけ盛大に散らかしていてなぜバレていないと思ったのか逆に不思議なくらいだ。
「って訳なので部屋の中はちゃんと綺麗に片付けておいた方が良いですよ、俺はもう二度と雨宮先生の部屋には行く機会なんてないと思いますけど友達を家に呼んであれを見られたら間違いなくドン引きされますし」
「あの日はたまたま片付けてなかっただけだから。それにまた沢城に来られるのも普通に困る、ぶっちゃけこの前の事も学校側に知られたらかなり面倒な事になるしな」
貞操逆転前であれば俺が雨宮先生の家に行った事は恐らくそこまで問題にはならなかっただろうが今の世界では違う。例えるなら貞操逆転前に男教師が女子生徒を家に招き入れる行為とほぼ同じだ。
世間的一般的には性的な目的があったと捉えられかねないため雨宮先生的には致命傷になりかねない。この前のあれは事故だったため仕方なく家まで送って行っただけだ。
「そう考えると生徒と教師って近いようでめちゃくちゃ遠い存在ですね」
「そうだな、地球と月みたいな関係な気がするぞ」
「確かに月は空に浮かぶ身近な存在ですけど手が届かない遠い場所にあるのでめちゃくちゃピッタリな表現だと思います」
「そうだろう、我ながら中々上手い表現だったと思う」
「まあ、ある日突然貞操逆転するような不思議な世の中なので何かの拍子に手が届くようになるかもしれませんけどね」
ニヤッとした表情で雨宮先生にそう話しかけると明らかに挙動不審になった。うん、やっぱり雨宮先生と一緒にいると飽きないな。
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