第40話 えっ、私はそんなとんでもない事を口走ってたのか!?
玲奈と叶瀬が家に押しかけてきた週末のあの日からあっという間に一週間近くが経過した。今回の期末テストは今日の午前中で全て終わったためようやく自由の身だ。かなり手応えがあったので成績は期待できると思う。
玲奈も英語はそこそこ出来たらしいので赤点は回避出来たはずだ。夏休みまでまだ日はあるが期末テストさえ終わってしまえば後は消化試合みたいなものだろう。
ようやくテストから解放されたため今日は特に寄り道などもせずにまっすぐ帰って家でゆっくりしようと思っていた俺だが帰りのホームルーム終了後に雨宮先生に捕まってしまいそうは行かなくなる。
「テスト終わりだというのにこんな面倒な事を手伝わせてしまってすまないな」
「悪いと思ってるなら俺を巻き込まないでください、本当なら今頃家に帰ってましたよ」
「頼めそうな相手が沢城くらいしかいなかったんだ」
現在俺は雨宮先生と二人で職員室横にある資料室の整理をしていた。この前の赤本を倉庫まで運んだ時と同様で雨宮先生は若手というだけで面倒事を押し付けられたらしい。
ちなみに他の先生からは忙しいから手伝えないと言われてバッサリ断られたとか。貞操逆転する前であれば若い女性という事でその辺は優遇されていたはずなので今の世界になって一番被害を被っているのは雨宮先生のような層な気がする。
性被害に遭わなくなって今の世の中の方が生きやすいという声がある一方で雑に扱われるようになったという声もあり女性の意見は割れている状況だ。
これは男性も同じでチヤホヤされるようになって嬉しいという声と身の危険を感じるようになったという二種類が混在している。
「ちなみにこれって終わるのにあとどのくらいかかるんですか?」
「それは私にも分からん、とにかく綺麗に整理しろと言われてるから少なくともそれまではかかる」
「うわっ、マジかよ。この散らかりっぷり的に絶対めちゃくちゃ時間かかるやつじゃないですか」
「若手ってだけで自分達が今まで放置してきた負の遺産の後始末を私に押し付けるのは勘弁して欲しいぞ」
資料室の中は整理されず適当にダンボールに入れただけで放置されて埃を被った資料があちこちに散乱しておりとにかく酷い状態だった。
さっきから雨宮先生と手分けして資料を整頓しながら並べていっているというのに全く終わりそうな気配がない。間違いなく長期戦になる予感しかしないし一体いつになったら終わる事やら。
「……そう言えばこの前保健室では芦田が来て結局聞きそびれいたが、私は本当に君に手を出してないんだよな?」
「まだそんなしようもない事を気にしてたんですか?」
「私にとっては人生が終わりかねない特大の爆弾なんだから気にするなって方が到底無理な話だ」
「まあ、日本全国で女教師の淫交事件も実際に起こってますもんね」
「ああ、私も含めた若い女教師は校長や学年主任から耳にタコが出来るくらいそういう話は聞かされてる」
貞操逆転前であれば男教師が女子生徒に手を出すパターンがほとんどだったがそれが今は女教師と男子生徒に置き換わっている。
しかも事件を起こしているのは年齢的に性欲旺盛な二十代と三十代で性欲に負けて手を出してしまう傾向にあるらしい。だから雨宮先生も他人事とは思えないのだろう。
「心配しなくてもあの日は何もなかったですよ、真昼間から酒に酔った雨宮先生を家まで連れて帰って汚部屋を掃除しただけなので」
「その言われ方をすると私がどうしようもない駄目人間にしか聞こえないんだが」
「えっ、事実じゃないですか?」
「いやいや、真昼間から酒に酔ったのは烏龍茶と間違えて烏龍ハイを持ってきた店員の落ち度であって私の責任ではないだろ」
俺の言葉を聞いた雨宮先生はそう自己弁解を始めた。まあ、確かに酒に酔った事に関しては雨宮先生の責任ではなかったが問題はその後だ。
「でもその後自分が処女なんていつでも卒業出来たみたいな話をしてましたよね?」
「えっ、私はそんなとんでもない事を口走ってたのか!?」
あの日の記憶がないらしい雨宮先生は明らかに狼狽始めた。まさか自分がそんな事を言っていたとは夢にも思っていなかったらしい。
「ええ、しかも最後の方は棒を穴に入れた事があるかないかだけでこんなに馬鹿にされる理由が分からないみたいな事を店中に聞こえるくらいの大声で言ってましたよ」
「何で私を止めてくれなかったんだ!?」
「頑張って止めようとはしましたけど無理だったんですよ、おかげで周りから見られまくって顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったんですからね」
「もうあの店には二度と行けないな……」
雨宮先生は全てに絶望したような表情を浮かべながらそうぼやいた。俺が雨宮先生の立場でも恥ずかし過ぎてあの店には行こうと思えない。
俺がお酒を飲めるようになるのはまだかなり先の事にはなるが周りに迷惑だけはかけないようにしよう強く誓った。
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