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【前編】

思いつきで一気に書き上げた作品です。

オチを後編に極振りしてます。(笑)

溺愛通り越しの砂糖まき散らしヒーローが苦手な方は、ご注意ください。

尚、溺愛基準は人それぞれだと思いますので、合わなかった場合はそっ閉じでお願いいたします。

それでは以下より、作品をお楽しみください。

 この日、クレイス子爵家の令嬢ミルティアは、ある人物をもてなす為に張り切っていた。その人物はミルティアの大好きな人でもあり、このクレイス子爵家に婿養子予定となっているシャトレイ伯爵家三男のクレオである。


 今年で21歳となるクレオは幼少期の頃から利発な子供だったが、伯爵家の三男だった為、将来は城勤めの文官か王家直属の騎士団に入団するかと思われていた。

 しかし先代よりシャトレイ伯爵家と付き合いがあったクレイス子爵家が女児ばかりであった為、婿養子にと希望し、クレオが10歳の頃にその話がまとまったのだ。


 その後、婿入りまでのクレオは王家直属の第三騎士団に所属し、多忙な日々を過ごしながらも合間を縫っては、クレイス子爵家の人間と親睦を深める事に時間を費やしてくれている。

 そんなクレオの事がミルティアは大好きだった。


 ミルティアよりも年上のクレオは、物語に出てくる王子様のような整った顔立ちに眩いばかりの金の巻き毛をふわりとさせ、澄んだ湖のような淡い水色の瞳を持っていた。

 その為、クレオは若い令嬢達の目をかなり引き、ミルティアも友人達に羨ましがられる事が多かったので、クレオとの関係は自慢でもあった。


 そんな大好きな未来の入り婿をもてなす為、本日のミルティアはかなり気張りながら、侍女やメイド達と共にお茶席の準備を行っていた。


「メリーナ! 本日お出しする焼き菓子は、準備出来ているかしら?」

「はい。お嬢様ご希望の王都で大人気なリュミエールのビター風味のチョコレートケーキを筆頭にレジーユのフロランタン、ルルーシェのミルフィーユ、そして我がクレイス子爵家自慢のパティシエによる隣国の柑橘系の果物がふんだんに使われたフルーツタルトをご用意しております」

「待って。ミルフィーユは食べづらいから外したはずよ?」

「ですが……その後、お嬢様自身が食されたいと再度追加されておりましたが……」

「そ、そうだったかしら? まぁ、クレオ様は甘い物はそこまでお求めにならないと思うから、メインのケーキとタルトをおススメするようにするわ」

「ではミルフィーユはいかがなされますか? クレオ様がお召し上がりにならないのであれば、お出しするのは……」

「わたくしが頂くから、問題ないわ!」

「よろしいのですか? 先程ミルフィーユは食べづらいと……」


 侍女メリーナの一言で、ミルティアは自分が食べる際に苦戦してしまう事に改めて気付く。


「そうだったわ……。ならば、クレオ様がお帰りになられた後、わたくしが頂きます!」


 その宣言を聞いたメリーナとメイド達は、何故かミルティアを見守るような温かい眼差しを送りつつも苦笑する。


「お嬢様は本当にルルーシェのミルフィーユがお好きなのですね」

「わたくし、本来ミルフィーユは食べづらいので避けてしまうのだけれど……。ルルーシェのミルフィーユは、それでも食べたいと思ってしまう程、サクサクで絶品なのよ? もし残ったらメリーナ達も後でわたくしと一緒に食べましょう!」

「ふふっ! ありがとうございます」


 そんな会話のやり取りをしながらお茶席の準備をしていると、邸の方からメイドが一人、ミルティアの方へと小走りしてきた。


「ミルティアお嬢様! 先程クレオ様がお見えになられました。現在、執事のロワンズさんが、こちらに案内しております」

「分かったわ。では皆、配置について貰える?」

「「「はい」」」


 ミルティアの呼びかけにメリーナと準備を手伝っていたメイド二名が返事をし、定位置に着く。同時にクレオの来訪を告げに来たメイドは、静かに礼をした後、本来担当している仕事に戻っていく。


 すると、メイドが下がった別方向から、クレオが執事のロワンズに案内されながら姿を現わす。二カ月振りの面会となるミルティアは、嬉しさのあまり思わずクレオに駆け寄りたくなる衝動を必死に押し殺した。

 すると、ロワンズに案内されてきたクレオが、四阿の目の前までやってくる。


「やぁ、ミルティア。二カ月振りの再会となるけれど、元気にしていたかな?」


 すると、ミルティアが美しい所作でカーテシーを披露する。


「クレオ様、お久しぶりでございます。わたくしは、健やかに過ごさせて頂いておりました。クレオ様こそ、お変わりなくお元気なご様子で何よりでございます」


 恭しく挨拶をするミルティアの様子にクレオが優しげな笑みをふわりとこぼす。


「元気だったとは言い難いかな? だってミティに二カ月も会えなかったのだから……寂しさでどうにかなりそうだったよ……」

「まぁ。またそのような事をおっしゃって」

「でも今日は君の可愛らしさを存分に堪能出来ると思ったから、復活する事が出来たんだ。二カ月ぶりになるけれど、ミティは相変わらず愛らしいね」

「もう! 久しぶりに再会をしたばかりなのにそのような事ばかりおっしゃらないでください! 恥ずかしさで顔が熱くなってしまいますわ!」

 

 そう言って両手で頬を挟み込みながら恥ずかしがるミルティアの様子に更にクレオの口元が緩む。


「ふふ! そんな恥ずかしがる君も愛らしいから大丈夫だよ?」

「もうそれはいいですから……。早くお座りになって? 本日はクレオ様を精一杯おもてなしさせて頂きますので!」

「それは楽しみだ」


 そう言ってミルティアは、朝早くからメリーナ達と共に準備をしていたガーデン用のテーブルセットの椅子に腰掛けるようクレオを促す。

 だがクレオは席に着かず、ゆっくりとミルティアの方へと近づき、彼女が座る椅子をそっと引いた。


「どうぞ。レディ」

「まぁ! ありがとうございます」


 淑女として丁重に扱われた事にミルティアは、嬉しそうに頬を赤らめる。

 その後、クレオも優雅な仕草で用意された席に着いた。

 すると、メリーナを筆頭にメイド達がお茶の準備を始める。


「本日は甘い物があまり得意ではないクレオ様の為にビター風味のチョコレートケーキをご用意致しました」

「へぇ~。もしかしてあの有名なリュミエールのチョコレートケーキかな?」

「はい! こちらは甘い物が苦手な男性の方でも美味しく頂けると評判でしたので。是非、クレオ様にお召し上がりになって頂きたいと思いまして!」

「ミティは、本当にスイーツに関する情報に詳しいね。僕は甘い物があまり得意ではないから、こういう条件のスイーツとの出会いは貴重だ。是非、堪能させて頂くよ」

「もしお気に召しましたら、是非シャトレイ家でもおもてなしの一品としてご検討くださいませ。こちらは甘い物に目がないご令嬢方の間でも大変好評なケーキなので」


 そう説明しながら、控えているメイドの一人にチョコレートケーキを切り分けるよう目配せする。すると、お茶を淹れていたメリーナがクレオの前に芳醇な香りが漂うティーカップをそっと差し出した。

 それを合図に今度は出された茶葉の説明をミルティアは始める。


「本日は、エオノール産の濃厚な味わいと香りが特徴の茶葉をご用意致しました。こちらはミルクティーでも美味しく頂ける程、しっかりとした深みがある茶葉になりますので、チョコレートケーキとの相性がとても良いのです。ですので、もしミルクティーでのご希望があれば、遠慮なくおっしゃってくださいね?」

「ありがとう。でも僕はストレートのまま頂くよ」

「わたくしもその方がよろしいかと思います。だってクレオ様は、甘い物があまり得意ではいらっしゃらないですものね?」

「逆にミティは僕の事を一瞬忘れ去ってしまう程、甘い物に目が無いようだけれど?」

「もう! 意地悪な事をおっしゃらないでくださいな!」


 クレオに揶揄われた事を悟ったミルティアが、小リスのように頬を膨らませる。

 その愛らしいミルティアの仕草を目にしてしまったクレオが、思わずその触り心地の良さそうな頬に手を伸ばす。


「ふふ! 怒っている君も可愛らしいね」

「またそのような事を口にされて……。そのような甘い言葉をこぼされてもこれ以上のおもてなしは出来ませんわよ?」

「それは残念だ」


 そう言いつつも先程ミルティアが膨らませた頬をプニプニと長い指で優しく突き出すクレオ。そのクレオのスキンシップにミルティアの頬は更に膨らむ。


「クレオ様! あまりわたくしを子供扱いなさらないでください! わたくし、これでも立派なレディなのですが?」

「ごめん、ごめん。でもミティの動きが、あまりにも可愛らし過ぎるから、つい……」

「もう……。仕方のない方ね……」


 そんなやり取りをしていたら、二人の目の前に切り分けられたチョコレートケーキが出される。それを目にしたクレオは、何故か苦笑した。


「おや? 僕の方には乗っていないのに君のケーキ皿には、生クリームが乗っているね?」

「誤解をなさらないでくださいね? 実は最近チョコレートには、このように生クリームが添えられている事が多いのです。こうやって生クリームを少し付けながらビター風味のチョコレートケーキを食すと、生クリームの濃厚な甘さと、チョコレートのほろ苦さが、口の中で何とも言えない味わいを奏でるのです。なので今、若いご令嬢達の間では、このようにチョコレートケーキを食す事が流行しておりますのよ?」

「へぇー、そうなんだ。騎士団なんてむさ苦しい所に属している僕には、耳に入って来ない情報だ。教えてくれて、ありがとう」

「ふふ! どういたしまして! よろしければ今の情報、社交場での話題作りにご活用くださいね?」

「是非そうさせて頂くよ。ところで……少し気になっているのだけれど……」

「まぁ、何でしょうか?」


 ニコニコと笑みを浮かべているクレオの言葉の続きをミルティアが待っていると、何故か彼の手がミルティアの口元に伸びてきた。その動きに気を取られていると、クレオはそのままミルティアの右頬に手を添え、親指で彼女の口元を拭った。


「先程から口元に生クリームが付いていたよ?」


 そう言いって先程までミルティアの口元に付いていた生クリームを拭った親指をクレオは、ペロリと軽く舐めて見せた。

 その光景を目にしたミルティアは『ボン!』と音がなりそうな程、顔を赤らめる。


「ク、クレオ様! 何て事をなさるのですか!!」

「いや、だって生クリームが……」

「教えて頂ければ、自分で拭います!!」

「ごめん。でも生クリームを付けながら、一生懸命チョコレートケーキの食べ方を説明しているミティの様子が、あまりにも可愛すぎたから、つい……」

「『つい……』では、ございません!!」


 真っ赤な顔をしながら膝の上で拳を作ったミルティアが、恥ずかしさでプルプルと震え出す。

 その様子をニコニコ顔で観察してくるクレオに段々とミルティアの不満が募り始める。


「わたしくしは、これでも立派な淑女です!! もう少しレディとしての扱いを心掛けていだけませんか!?」

「そうは言っても……あんな可愛い様子をたくさん見せられてしまったら、それは難しいのだけれど……」

「もう! こちらが一生懸命クレオ様をおもてなししようとしておりますのにー! クレオ様なんて……知りません!!」


 そう叫んだミルティアは、頬を膨らませながら明後日の方向に勢いよく顔を向けた。

 そんな反応をされたクレオは、眉尻を下げながら苦笑する。


「ごめん、ミティ……。一生懸命、僕をもてなそうとしてくれる君の様子があまりにも可愛すぎたとは言え、僕は少し揶揄い過ぎてしまったね……。大いに反省しているから、そんなに怒らないで?」


 苦笑しながらクレオが宥め始めるがミルティアの怒りは鎮まらないようで、今度は反対側にプイっと顔を背けた。すると、困り顔をしたままクレオが席を立ち、ミルティアの目の前までやってくる。

 そしてその場で膝を着いてミルティアの顔を下から覗き込んだ。


「ミティ、本当にごめんね? ほら、もう機嫌を直して?」


 しかしミルティアは、ツンと明後日の方向に顔を背け続ける。

 すると、クレオが立ち上がりながら、椅子に座っているミルティアの背中とひざ下に両腕を差し入れ、お姫様抱っこをするようにそのままヒョイッと、ミルティアを抱き上げる。


「ひゃあ!」


 その予想外の行動にミルティアが可愛らしい悲鳴をあげた。

 対してクレオの方は、つい先程までミルティアが座っていた椅子にそのまま腰を降ろし、ミルティアを自分の膝の上に乗せてしまう。


「ク、クレオ様!! 何をなさるの!? お、降ろしてください!!」

「ダメだよ? ミティが機嫌を直してくれるまではこのままだ」

「そ、そんなのずるいです!!」

「愛らしくプックリと頬を膨らませたミティが悪いんだよ? そんな可愛らし過ぎる表情を見せられたら、僕は全力で君を愛でたくなってしまうじゃないか」

「そ、そんな!」


 真っ赤な顔をしながら、何とかしてクレオの膝上から逃れようと暴れ出したミルティアだが……。

 それを阻止するようにクレオは後ろから左腕をガッシリと回し、ミルティアの腰回りをホールドしてしまい、そのまま空いた右手で出されていた焼き菓子を一つ摘まむ。


「はい! ミティ、あーん」


 満面の笑みを浮かべながら、嬉々とした様子でミルティアの口元に焼き菓子をチラつかせ始めたクレオに羞恥心が爆発しそうなミルティアが、真っ赤な顔で抗議の声を上げる。


「クレオ様!! いい加減になさってください!! こ、これは淑女に対して不適切な接し方です!!」

「そんな事はないんじゃないかな? だってこれは君の好物を僕が食べさせてあげようとしているのだから、ある意味お姫様待遇をしているだけだよ?」

「ひ、姫君はこのような幼子扱いなど紳士からされません!!」

「え~? そうかなぁー。それよりもほら、あーん!」


 ニコニコと笑みを浮かべながら、デレデレ状態でミルティアの唇に焼き菓子をやんわりと押し付けてくるクレオの行動に意地でも屈しないとミルティアは、ギュッと口元を引き締める。

 だが、それは食欲を刺激する香ばしいバターの香りを鼻先にチラつかされている状態でもあった。その為、ミルティアのお腹がキュ~っと鳴ってしまう。


「ほら、ミティのお腹も食べたいってい言っているよ? はい、あーん!」


 両目を瞑りながら淑女としての威厳を保とうと踏ん張っていたミルティアだが……。ついに鼻先の香ばしい香りに屈してしまい、ゆっくりと小さな口を開き始める。

 すると、目を細めながら笑みを深めたクレオが、そっとミルティアの口に焼き菓子を優しく押し込む。

 その焼き菓子を赤い顔をしながら、モクモクとミルティアが俯き気味で咀嚼する。


「ミティ、おいしい?」

「…………凄くおいしいです」

「よかった! じゃあ、もう一個食べようか?」

「も、もう結構です!!」

「そんな事を言わずに……。もう一個だけ! はい、あーん」


 完全にクレオのペースにのみ込まれてしまったミルティアが、再び焼き菓子を口元に近づけてくるクレオの甘やかしから逃れようと、赤い顔のまま必死で顔を背けた。

 すると、顔を背けた先に今この状況を打破してくれる救世主の姿を確認する。

 その瞬間、ミルティアはその救世主に向って叫ぶ。


「シルヴィアお姉様ぁぁぁ~!!」

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