第一話
誰かが泣いている。
何かを抱いて叫ぶように声を上げている。
知らないはずなのに知っている。でも分からない、泣いている子が誰なのか、抱いているのが何なのかも。
声を掛けようと手を伸ばしたところで不意にパリンと世界が壊れる音がした。
時計の時刻を知らせる音でふと目が覚める。
少し明るい茶色のカウンターテーブルが目に入る。
机の上には読みかけの本や重要そうな書類が散らばっていたり、もう冷めてしまった飲みかけの紅茶が置いてある。
「いつの間にか眠っていたみたい。そろそろ誰か来るかもしれないから片付けないといけないよね?」
そう言いながら私は机の上を片付けるために椅子から立ち上がろうとした。
その時、来客を知らせるドアベルが部屋中に響き渡った。
「あら、こんにちは。ようこそお越しくださいました。お客さま」
ドアの前で不安そうな顔で立ち尽くしている少女に私はそう話しかけた。
「あの、私さっきまで学校にいたはずなんですけど....ここどこですか?そもそもあなたは誰ですか?」
少女は怯えながら私に聞いてきた。
「ああ、申し訳ございません。ここは記憶の図書館と言われる場所です。
そして私はここの管理者です。どうぞよろしくお願いしますね。」
そして私は少女を安心させるように微笑んだ。