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小ブタになった魔法使いの僕と、魍魎跋扈の魔法魔獣学校

 世界のどこかにある、ここは魔法魔獣学校。


 海と山に囲まれた、のどかな場所に建っている。


 僕はそこの二年生である。


 魔獣属性はコブタ。小型魔獣学科に通っている。


 小型魔獣学科の魔獣は、ほとんどが〈魔法の使える小動物〉の学生だ。


 コブタの僕をのぞくと、イヌやネコ、フクロウ、ウサギ……人間の飼育下に置けるようなかわいらしい動物たちが多い。


 ちなみに、中型魔獣学科から、魔獣らしさが出てくる。大型魔獣学科になると、ドラゴンとかも通っていて、僕らが間違って彼らの学科に一歩でも入ろうものなら、おやつにされてしまう。だから中型・大型の魔獣たちはこことは違う国の魔法魔獣学校に通っている。


 コブタタイプの魔獣はめずらしくないが、僕自身はめずらしい存在だったりする。それは〈人間だった〉ということだ。


 つまり、正式に言えば僕は人間の魔法使い、だ。しかも、人間の魔法学校を首席で卒業、エリートの職業である〈危険魔法生物の捕獲及び退治〉を専門とする仕事をしていた。


 それがなぜ、今じゃコブタのすがたで魔法魔獣学校に通っているのか?


 潜入捜査――とか言えたら、かっこよかったのになあ。


 簡単に言えば、不運に見舞われた、んだ。


 実は、とある仕事中に〈ビックバン〉が起きてしまったんだ。


 僕たちの世界で言う〈ビックバン〉とは、危険魔法生物同士による衝突でおきる災害・惨事を意味する。それに巻き込まれた僕たち魔法使いはほとんどが負傷、死亡者も出してしまった。そして中心地にいた僕はもろに〈ビックバン〉に巻き込まれ、命の危機をさまよい――コブタになった。転生とかじゃなく、コブタになる呪いを受けてしまったのだ。 この世界では決まりや規則があって〈魔法には必ず解除魔法があるが、呪いには解除方法がない〉というものがある。そして、その呪いは偶発的に起きるもので、魔法使いや魔法生物の意思とは無関係のところで起こる。


 つまり〈ビックバン〉が起きたことで発生した奇跡的な魔法が呪いであり、その呪いにかかると、だれの意思でも解くことができない――ということなのだ。


 この呪いを解く方法は、もう一度〈ビックバン〉に襲われること。しかし〈ビックバン〉の威力はすさまじく、ケガで済めば良いが、命の危険が付きまとう。それに人間に戻れれば最高だけれど、さらに呪いで別の生物になる可能性だって、ゼロじゃない。


 だから僕はあきらめて、コブタとして生きることにした。


 さて、それではなぜ魔法魔獣学校に通っているのか、というと、僕の魔力こそ、人間のころと変わらずそのまま存在しているけれど、魔力の扱いというのが人間と人間以外の生物と出は根本的に違うんだ。だからこうして今日も、ネコやフクロウに挟まれながら僕は魔力の操作を学んでいく。




 今日の授業は魔法薬を生成する内容だった。この魔法薬は一時的に自分の分身を作れるという。人間のときにもこの魔法薬は作ったことがあった。しかもこの魔法薬はだいたい一時間ぐらいがタイムリミットだけど、僕が人間のころには研究で三日も存在できる分身を作れる魔法薬を生成できたこともあった。しかもその研究成果で表彰までされた――けれど、それは遠い昔の話。しかもその場合使用する薬品の中には魔法生物の毒になり得るものも入っているから、今の僕じゃ使えない。人間が食べられるものでもコブタやネコじゃ食べられないものってあるだろ? それは毒や薬でも一緒なんだ。


「――はい、それじゃあ説明は終わり。各自時間内に作って。時間内に生成できたら四十点、あとは魔法薬のできあがりの良し悪しで六十点満点で採点するから、提出してから帰るように!」


 魔法薬の担当教師であるカラスのヤタ教授は、フワッとつばさを上下に動かした。すると生徒たちの前に置かれた鍋の周りに、それぞれ魔法薬の生成に〈必要不必要〉の薬品や材料が並べられた。


 ヤタ教授は意地悪い先生で、授業の教え方こそ上手だけれど、こうして材料の中に不要なものを入れたりひっかけを用意する。僕は人間時代に一度履修していることばかりだからひっかけに引っかからないけれど、僕以外の生徒はだれかしらが毎回ひっかかってとんでもない魔法薬を生み出したりしている。


「って、これは混ぜるなよ……」


 僕は苦笑しながら不要な薬品を遠ざけてから、魔法薬の生成に取りかかった。


 今回の薬品の中には混ぜると毒物になるような材料が混ざっている。まあ、毒と言ってもせいぜい腹痛や吐き気が怒る程度だけれど。


「こっちはみじん切り、こっちはつぶす……と」


 つくえの上には材料、教科書、そしてまな板が置いてある。材料を切りそろえたりするのはまな板の上。けれど僕は小刀をあつかうのが苦手だった。


 だって、コブタの手だぜ? 人間のようには使えない。でも、魔法薬の材料を魔法で切り分けたりするのはご法度だったりする。それは人間も同じだけれど、材料に不要な魔力が加わるのを避ける目的がある。だから、どんなに不器用でもこの手で材料を揃えていかないといけなかった。


 その点、となりにいるフクロウのモケは器用に材料を切り分けられている。


「お前は器用さだけならクラストップだよな」

「えへへ、そう?」

「褒めてない……その右のやつは、ひっかけだからな」

「え?」


 モケはキョトンとしてまな板の上の材料を眺めていった。


「これ、胡椒でしょ?」

「胡麻だよ」

「あっれー?」


 モケの器用さに僕の頭脳、そして調合力があれば、きっと学年トップの魔法薬が作れるだろう。だが、ほかの授業ならともかく、ヤタ教授はすばらしく目が良い。しっかりと生徒たちを観察しているから、共同・協力しようものなら、すぐにそのくちばしで突かれるだろう。あれは痛い。


 向かい側からクスッと笑い声が聞こえた。クロネコのギギだった。


「おい、ギギ。お前、気づいてただろ」

「なんのこと?」


 僕のにらみに、ギギは平然と魔法薬の生成を進めていた。ギギはネコの手が器用な上に、しっぽまで使うから、実質三本の手を使って作業しているようなものだ。魔力もなかなかあるし、才能もあると思う。が、ちょっとにくたらしい性格をしている。


 まあ、これで性格が良かったら、それはそれでにくたらしいだろうけど。


「それより、あんたはまだ材料を刻んでいるの? 本当にノンキなコブタだこと」

「うるさいぞ」


 僕はムキになって刻み終えた材料を鍋の中に放り込んでいく。


 年齢だけならこの生徒たちの誰よりも上で、なんなら教授の何人かよりも年上だと言うのに、この体の小ささからよくバカにされる。僕のことをバカにしないのはとなりのモケぐらいだ。


「よくそんなのんびりした作り方で、上手く魔法薬が生成できるものね」


 ギギはそう言うと、しっぽをくねらせた。


 ギギの場合、魔力の中枢はしっぽにある。そのしっぽで鍋の中身を攪拌させたり必要な度数の魔力を加えていく。ちなみにモケと僕は右手側に魔力の中枢がある。まあ、利き手みたいなものだ。


 僕はギギを無視することに決め、鍋の攪拌をはじめた。魔法薬は魔力の注ぎ方と攪拌の仕方で結果は変わってくる。材料を切りそろえる作業に比べたら、こっちの方が僕には得意だった。それに、過去の経験もあるから、コツも知っている。だからギギより遅れても完成品は劣らない。


 ほら、見てみろ。ギギよりだいぶ早く魔法薬が完成した。


 僕は魔法薬を小瓶に詰めてトテテと教壇まで運んだ。


「ヤタ教授」

「ほう、今日はキミが一番か」


 ギギはうしろの方で悔しそうに唸っている。僕はほこらしくなって小瓶をかかげながら教授のつくえに置いた。


「うむ。キレイなエメラルド色。香りも……うん、成功しているな」


 ヤタ教授はそう言うと僕に小瓶を返しながら「満点で良いでしょう」と言った。


「飲んでも良いですか?」

「ああ、どうぞ」


 僕はさっそく分身の魔法薬を飲んだ。エメラルドの色からは考えられないようなスパイシーな味でコーラに少し似ているかもしれない……小瓶を飲み干すと、げっぷが出た。


 げっぷが煙のように口から出ると、その煙が形を成していく。それはミニチュアのコブタに変わった。教室中から拍手が起きる。


 分身の魔法薬はげっぷから分身ができあがる。思ったより小さかったけれど、無事にできあがった僕の分身は、うれしそうに教室を走り回っていた。


「あらあら、ポルコ=ピッコロの分身はもっとピッコロ(小さい)ね」


 ギギが嘲笑するように言うけれど、クラス中が僕の分身を「すごい」とほめた。モケも自分のことのようにうれしそうに笑っている。僕、ポルコ=ピッコロは胸を張って教室を後にする。そのあとを僕の小さな分身がトテテとどこまでもついてくるのだった。


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