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セルフ裁判

作者: 村崎羯諦

 カッとなって人を殺してしまった僕が警察へ自首しに行くと、警察官は僕にセルフ裁判所へ向かうように案内してくれた。なんでも、経費削減のため、自首してきた人には自分で自分を裁いてもらうように法律が変わったらしい。


 僕は返り血で真っ赤に染まった服装のまま、指定されたセルフ裁判所へと向かう。受付を済ませ、エレベーターで指定された階へと上り、セルフ裁判用の部屋へと入る。部屋の中はいくつかのブースに分かれていて、ちらほら僕と同じようにセルフ裁判を行なっている人の後ろ姿が見えた。


 僕は受付でもらった手順書に従い、空いていた一つのブースへと入る。ブースの中には一台のパソコンと、リストバンドが置かれていた。僕はまずリストバンドを右手首にはめる。手順書によるとこのリストバンドは、セルフ裁判の時に本人が嘘をついていないかを確認するための嘘発見器らしい。それから僕はパソコンの前に座り、画面をタッチする。すると、画面上に「裁判開始」ボタンが表示されたので、僕はそのままボタンを押した。


 個人情報を入力する画面、犯罪の選択画面、犯行当時の詳しい状況を入力する画面へと進んでいき、最後に情状酌量のための自由記入欄が表示される。つまり、犯罪を犯してしまったやむにやまれぬ事情であったり、可哀想な事情があるかどうかということ。しかし、いくら考えても何も思いつかなかったので、そのまま未入力のまま判決ボタンを押した。


 判決中という文字とぐるぐる回るアイコンが表示された後で、画面上に長い判決文が現れる。判決文を最後までスクロールすると、一番下に『死刑』という文字が見つかった。死刑の文字の下には、判決が納得いかない場合に、上級裁判所へ改めて裁判を行なってもらうための上訴ボタンが表示されている。しかし、このまま犯罪者として生きててもしょうがないなと思ったので、僕は判決の確定ボタンを押すことにした。


 確定ボタンを押すと、奥の部屋へと進むように案内が表示されたので、それに従う。奥の部屋の横には『教誨室』と書かれたプレートが貼られていた。教誨室に入る。中には椅子と、その目の前に大きなタッチパネル式のモニターが置かれていた。僕が椅子に座ると、モニターの電源がつき、牧師の姿をしたアバターが表示される。


「こちら受刑者の懺悔を補助し、心置きなくこの世から旅立てるように開発された、自動教誨システムです。なお、この教誨室での会話は今後のサービス向上のためすべて録音させて頂いております。利用規約の確認し、同意ボタンをクリックした上で、懺悔を初めてください」


 僕は指示された通り、利用確認を確認してから同意ボタンを押す。それから懺悔画面へと切り替わったので、懺悔を始めることにした。しかし、初めてということもあり、そもそも何を懺悔したらいいのかわからない。とりあえず僕は、カッとなって殺人なんかしてごめんなさいとモニターに向かって話しかける。


「懺悔により、あなたの魂は浄化され、安らかな死を迎えることができるでしょう。これで懺悔を終わる場合には右下の終わるボタンを、もう一度懺悔を行う場合には、左下の戻るボタンをクリックしてください」


 僕は終わるボタンをクリックする。すると、画面が切り替わり、さらに奥の部屋へ進むようにという案内が表示される。僕はその指示に従って奥の部屋へ入る。そこは背もたれ付きの椅子とモニタがあるだけの、セルフ死刑執行をするための部屋だった。僕は椅子に腰掛け、モニタの電源を入れる。すると、セルフ死刑執行のための手順が表示される。僕は手順に従って両手足首に電極シールのようなものを貼り付け、サイドテーブルに置いてあった睡眠剤を飲んだ。


 薬を飲み終えると身体中がふわふわして気持ち良くなっていくのがわかる。ニュースで痛みを伴わない死刑が導入されたと聞いたことがあるが、なるほどこれがそうかと僕は納得する。誰もいない一人ぼっちの部屋で、僕は自分の人生を振り返ってみる。だけど、おぼろげになっていく意識の中ではあまり思考がまとまらず、薬を飲む前にやっておくべきだったなと今更になって考える。


 まあでも、振り返るほどの人生でもなかったような気がする。僕はそう思い、重たくなっていくまぶたに促されるがまま、目をつぶった。

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