1-8. 衰えに気付く15の冬
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――宣言通り、部活が終わる頃にはぐったりとした後輩たちと――残念なことにあたしが体育館脇の廊下に転がることになった。
ボールに八つ当たりするようなサーブやらスパイクを打ち込み続けた結果、そのボールに必死に食らいついた後輩たちはかなりグロッキーになっているが、それを打ち続けたあたしは当然グロッキーだ。
大貫先生は途中から若干ヒいた感じであたし達を見ていたようだけど、あのタイミングではまだアドレナリンが出まくっていたらしく平気な顔で腕を振っていた。
先生のストップがかかったのが合図になったようで、そのアドレナリンも切れて、あたしを動かしていた怒りの衝動もどこかへ吹き飛んだ。
自分の体力を過信していたあたしがバカだったと、こんなタイミングで思い知らされるとは思っていなかった。
もちろん高校でも部活でバレーボールは続けるつもりだけど、もう少しコンスタントに身体を動かしていないと4月からがちょっとだけ心配になる。
ただ、そんな先の話よりも、あたしにはもっと大きな目先の危険性がある。
――明日の学年レク、大丈夫なのかな。
かなり心配になりながら、あたしは後輩たちと帰路に就くことにした。
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自分が思っているよりもはるかに自分のカラダには響いているらしい。
――しかも、間違いなく悪影響の方向に。
何とか無事に家に帰り着くことは出来た。ただ、それから先に何もする気が起きない。腕も上がらない。足も棒になったように動かない。
何ならむしろ、無事に家に帰り着けたことを、誰かに今すぐ褒めて欲しいくらいだった。
時々言われる『箸より重いものを持たないの、アタシ』なんてことを言う気は全くないけれど、今のあたしにはペンすら持てる気がしなかった。
本当なら一旦シャワーでも浴びるべきなのだろうけど、そのまま部屋へ直行することにした。
部屋のドアを開け、カバンを手から落とし、勢いのままにベッドへと倒れ込んでしまって、慌てて両頬を数回張る。
このままだと本当にそのまま寝てしまいそうだ。
部屋の照明をいちばん明るい状態にして、何とか視覚から自分の目を覚まさせる作戦に出ることにした。
何とか立ち上がって電気のスイッチを付けたところで、塾へと向かおうとする美夜に気付く。ここからは少し遠いところにある個人指導型の塾へ通っている美夜は、とてもおとなしい性格――というよりもむしろ、感情自体をあまり表に出さない性格だと言うべきかもしれない。
それこそ、あたしとは全然似ていない。
似ているところは、髪型とその色くらいだろうか。
「美夜、行くのぉ……?」
「ん」
「気を付けてねー……」
「……ん」
もうちょっとくらいはあたしに似てくれても良かったのに、なんてことを思わないこともない。
だけどちょっとだけ、そんな美夜を羨ましく思うことも事実だった。
いつも通りの曖昧な返事にちょっとだけ笑いそうになって、――あたしはそのまま眠りに落ちた。
以上、第1章。