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月が見つめる朝と夜  作者: 御子柴 流歌
第1章: Morning Mist
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1-6. 日課と妹

        ●        ●




「ただいまー」


 報告をしたところで返ってくる声は無いことは、玄関の靴を見れば明らかだった。何なら、わざわざ見なくても解る。それはいつものことだし、とくにそれについて感情が動かされることはない。

 義務を淡々とこなすだけのような。日常を適当に切り取れば、数枚はこういうこともあるという話だった。


「……クセになってんだ、独り言が」


 カバンと上着とくだらないつぶやきを一旦玄関に置いて、まずはキッチンへ。

 手洗いとうがいを手早く済ませて、すぐにあたしは自分の部屋へと向かう。


 部屋に入ってすぐにやることと言えば、いつも同じ。

 デスク横の本棚から取り出すのは大きめの手帳。そしてボールペン。

 カバンからはワンサイズ小さな、淡い水色の表紙の手帳。


 ――簡単に言ってしまえば、これはあたしの日記帳。


 どんなことがあったか、学校にいるときには小さな手帳にメモして、これを家に帰ってすぐ大きな手帳に清書する。

 これは小学4年生あたりから続けている日課だった。


 毎日やっているということを言うと、それを聞いた友達は大抵「大変そう」とか「よく続くね」とか言ってくる。

 いきなりしっかりとした日記を書き始めようと考えてしまうと、たしかにそれは大変かもしれない。

 だけど、気楽にメモを取って、それを後で書き直しを兼ねて書き写すだけ――そう考えれば案外続くモノだったりする。

 昔はこれが文字を書く練習にもなっていたりするので一石二鳥なところもあった。


 結局は、考え方の問題だったりするわけだ。


 勿論それでも、嫌そうな顔をする人はいるのだけど。それはもう日記というものに対して生理的な嫌悪感を抱いているとか、あるいはよくあるブラックジョークな言い方をするところの『親でも殺されたか』とかいうヤツだろう。

 これはもう、相容れる話ではないのでそっとしておくのがベストなのだ。


「……ふぅ」


 今日の内容は、精々5分もすれば書き終わる程度だった。

 一息ついてペンを傍らに置いたところで、残念ながら学校への持ち込みは不許可のために日中は机の上の充電器にセットされたままなあたしのスマホが、ちょうど良いタイミングで震えた。

 中学校に上がるタイミングで買ってもらえたものの、昨今の進歩には若干置いていかれ気味スペックな旧型スマホは、やたらとやかましくあたしの机を小刻みに叩いた。バイブレーションだけならばメッセージ着信だけど、誰だろうか。


「……ほぉ?」


 見れば、クラスのグループだった

 差出人は(さくら)()(そう)()

 何かと思ってみてみれば、五色綱引きとフロアボールのそれぞれのルールと戦略が書かれたホームページへのリンクを貼っていた。

 自分の仕事を理解しているのか全くよくわからないヤツと思っていたけれど、この文面を見る限り、祭りへのやる気だけは一級品らしい。


 委員会で作っていた説明資料は大まかな部分だけ書いて、細かな戦い方のようなところは敢えて書いていない。それは各クラスが工夫をしてくるべきだという考えがあったせいだけれど、桜木は早速その辺りの穴埋めをしてきたようだ。


 さらにもうひとつ追加で通知が届く。スマホを持っていないクラスメイトにも大丈夫なように後日印刷したモノを配る――と桜木は書いていた。


 意外と抜かりないヤツだった。ちょっとだけ見直してみてもいいかもしれない。


 そんなことを思っていると何やら物音が聞こえてきたようだ。

 妹の()()だろう。

 ドア越しに「おかえりー」と声をかければ、ギリギリの大きさで「ん」とだけ返ってきた。これからすぐに塾へと向かうのだろう。

 あたしはあたしで、棚から通信教育の教材を取り出しておいた。

やっと妹登場。

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