1-5. 打算的なヤツら
――学年レクリエーションとは、という話をしておくべきかもしれない。
毎年この時期になると、各学年に分かれて冬休み前のこのタイミングで行われる行事だ。そこまで大きな予算はかけられないらしく、大抵は学校敷地内で身体を動かす系のイベントになる。それが体育館の中で行われるか、雪の降りしきる外で行われるかの違いだった。
今年の3年生は体育館で行われる、簡単に言ってしまえば『冬季体育祭』みたいなイベントだった。
ただし、開催される競技がちょっと異色で、5本のロープの内3本を自陣地に引き込めば勝ちとなるいわゆる『五色綱引き』と、屋内で行われるホッケー競技である『フロアボール』という競技の簡易版。
秋の時期に行われる球技大会ではバレーボールとバスケットボールという定番競技だったので、そうではないジャンルになったという話だった。
同じモノを2回やってもしょうがないと思うのはわかる。秋の球技大会と同じ結果になっても面白くないし。
一応、総合優勝を果たしたクラスにはトロフィー授与もされることになっている。
教室に飾られているところを眺めるという機会はもう決して多くはないけれど、それでも無いよりはずっといい。
やっぱり棚に並んでいる金色のモノは多ければ多いほどいい。ああいうモノはいくつあっても困らない。
「まぁ、それくらいイイでしょ? 学級副委員長さん?」
「えー……」
「はい、話は終わり。以下、よろしくー」
面倒そうな雰囲気を崩さないのなら、あたしもそういう態度を受け付けない雰囲気を崩さない。
これには桜木もさすがに諦めたらしく、大きくため息をついた。生意気な。
廊下からは他の生徒たちの声も聞こえてきた。そろそろウチのクラスの子たちもやってくるころだろうか。
訊くならついでだし、今のうちだろう。桜木に対して何となく感じていた疑問をぶつけてみることにした。
「それにしても桜木さぁ。そんな位にしかやる気無いのに、アンタよく副委員長やるなんて言ったよね。しかも前期から引き続きで」
「ん?」
「くじ引きとかじゃ無かったっしょ?」
あたしの記憶通りであれば、ある程度自発的な立候補の流れが止まりかけた状態になって、桜木が「だったら……」というような雰囲気で自分から手を上げたはずだった。
「それを言ったら、栗沢だってそうじゃん?」
「あたしは……、まぁほら」
「内申点稼ぎとか?」
「そこまで打算的じゃないわよ、失礼ね」
それは実際問題、桜木の言うとおり――やらないよりはやった方が良いに決まっているけれど。
何らかの委員会活動をしていたり部活動に入ったりするのが良いというのは、長年実しやかに言われていることではある。
それでもやっぱりどこか明白すぎるのは逆に心象に良くないんじゃないか、とか、考えてみたりするわけで。
結局どうして学級委員を選んだかと言えば、単純な話、消去法でしかない。他の委員会に入るよりは仕事の内容が少ないと思ったからだ。
美化委員や風紀委員なんてガラでも無いと思うし、体育委員なんかは細かい仕事が多い。他にもいくつかあるがどれも何となく面倒な作業や仕事が多いものだった。
学級委員ももちろん、修学旅行や体育祭、学校祭という大きいイベントでは忙しいが、それは他の委員も同じである。
ならばその中でも楽なモノをやりたいのが人情と言うモノだと思う。
本来いちばんラクなのは学級書記という、やる仕事と言えば学級会のときに板書をする程度の文字通りに『書き記す』係なのだが、そこにはじゃんけんで負けてしまった。
他の子に指名されてやりたくない仕事をやらされるよりは、自分から残っている中でもそこまで重労働にならなさそうなところに行った方がいいと思ったからだった。
――要するに、ある程度打算的だったことは認めようと思う。口には出さないが。
もちろんその時にクラス内が変な空気になったような気はしていた。そこら辺、残念ながら無視を装えなかった。何せ案外桜木は他の子から人気がある方だ。
もちろん、あくまでも「『好く言えば』ムードメーカー」という観点で、だけれど。
「逆に、お前はそこまで乗り気じゃないのな」
「そんなことないと思うけど」
「他のヤツらと比べて、って話な」
だからこそ、それは否定できなかった。桜木も、私の沈黙を肯定だと受け取ったらしい。
「おはよー、朝陽」
「よっす」
「俺もいるぞー」
「あ! 昨日何か知らないけど運良く仕事から逃げたヤツがいるーっ!」
「だぁからそれは言いがかりだっつーのっ!」
そして、タイミング良くやってきた翔子によって、会話の流れは一新された。
桜木はそれ以上追求してくることは無かったので、あたしとしては都合が良かった。
このレクリエーションみたいなヤツは、わりと実話入ってます。