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月が見つめる朝と夜  作者: 御子柴 流歌
第6章: Delicate Daybreak

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6-6. 尻尾は掴んでいた

「で、だ」


 まだ、だ。まだ怒りは沸き上がってこない。チート行為に遭ったが、あまりにも姑息すぎれば腹も立たない。そう言い聞かせる。


「『いつから知っていたのか』っていう栗沢の疑問に答えるのであれば、当たり前かもしれないけど、最初に『美夜』を見たときだな。だからそこまで昔の話じゃない」


 それこそ、何時のことだろう。あたしが知っている限りは『エスペランサ(この喫茶店)』に来るようになったのは、『美夜』が塾に行き始めてからのこと。つまり中2の秋くらいからの話だ。


「そンときはたまたまそこのコンビニまで来てたときだったんだけど、偶然見かけてさ。あれ? コイツ、ウチの学校……っていうかウチのクラスに居なかったっけ? と思って観察してたら」


「趣味ワルっ」


「お前と似たようなモンだ。……ああ、()()()()『朝陽』の方な」


「……っ」


 桜木のヤツ、まさかそこまで――。


「だから、最初は客としてここに来て、しばらくしてから時間帯を見計らって来るようにして。……で、あとは『美夜ちゃん』が知ってるような感じだ。よく見てたら姿は同じだけど口調とか態度とか全然違うし、そもそも名前も違う。姉妹か双子かと考えるのが普通かもしれないが、……まぁ、その辺は察してくれ」


「察するわよ、それくらい。そりゃあ簡単よね。もしかしたら自分と同じなんじゃないか、って考えたら一瞬で答え合わせできるわよね」


 何度でも思う。そんなもの、解答ページを見ながら数学のワークをやるのとほとんど同じだ。誰だって証明問題を最後まで導くことができる。


「そういうことだ。だから、オレはわざわざ副委員長に立候補したってわけだ。その方が栗沢を観察しやすいだろ」


「ああ……」


 言われてみれば、委員会なんか全く興味なさそうだったコイツが立候補してまで副委員長になったのは、丁度美夜とユウマさんが出会ったくらいの時期だった。はぁ、と大きなため息が勝手に出ていく。意識しなくてもため息は出るモノだと、15年ほど生きてきて初めて知った。


「……そこまで打算的だったとはね」


「まぁ、そうな。それはまぁ、うん、申し訳ないとは思ってる」


「良いわよ、別に。今更でしょ。全然時効じゃないけどね」


 そこまで熱心に観察されていたとまでは思っていなかった。けれど、それはお互い様とも言える。あたしも、ここ最近はとくに、桜木が言う『観察』と同じようなことをしていた。それに対して桜木が謝罪するのならば、あたしだって同じように謝罪が必要になってくる。それは、嫌だった。


「それを言ったら、どうやってオレのことに気が付いたのか、の方が知りたいんだけど」


「え?」


 思わず聞き返してしまった。それはもちろん、アンタと同じで観察していたからよ――という答えを望んではいなさそうだった。どういう推測を重ねて()()を見破ったのか、それを知りたがっているのは明らかだった。


「『朝陽』と『美夜』で意思疎通をするのは文通みたいな形式だったってことは、ココで実際に『優馬』が見てたから分かってたけど、さすがに文字だけで伝え合ってたとは思えなかったんだよな」


 ココ、と言いながら、いつも『美夜』が日記帳に書き記していた席を指す。そういえば、日記を書いているときにはやたらと『ユウマさん』が近付いてくることが多い、と『美夜』が書いていた。問題集を解いているときにももちろん寄ってきて、時には話しかけてくることもあり集中できないと、半ば怒りの感情を載せていたのだが。まさかそういうネタを採取していたとは。


「テストならカンニングって言われるレベルね」


「まぁ、性質の違いってことで許してくれ」


「……どうだか」


 不公平が過ぎる。簡単には頷けない。もっとも、それを桜木もある程度分かっているのか、あたしの呟きには苦笑いを返して寄越した。「しゃーない」とでも言いたそうだ。


 うっさいわ、全く。


「で? オレの質問にも答えてくれよ。何で分かったんだ?」


 仕方ない。こちらもネタばらしをする番だ。


「そりゃあね……、最初は全然繋がらなかったわよ。クラスでもやかましい側のグループにいるアンタ……っていうと微妙に語弊があるわね。何て言ったら良い?」


「名前でいいよ、別に。適宜、『ソーマ・ユウマ・ショーマ』で分けてくれれば」


「じゃあ、……そうさせてもらうけど」


「何照れてんだよ」


「照れてないっつの」


 呼んだことが無かったから口が慣れていないだけだっての。それに、もうひとつ――。


「……そうやってパパッと『壮馬』を出すな」


「バレたか」


「分かるわよ、そんなの。……どれだけいっしょにいたと思ってるの」


「ぁん? 何か言ったか?」


「いーえ、別に」


 付き纏われてたみたいになってた身にもなってみろ、って話だ。他意はない。そんなものなんてないはずだ。だいぶ冷めてきてしまったホットミルクを飲み干してから話を再開する。


「……そもそも、常日頃からやかましい『壮馬』と、『美夜の日記』に出てくる『ユウマさん』なんて、どうやったって繋がるわけがないのよ。名前の雰囲気は確かに似てるけど、兄弟かもしれないなんてことすら浮かばなかったわ」


 写真の1枚でもあれば話は別だっただろうが、生憎あたしにも『美夜』にもそんな趣味はない。あったとしても、桜木を撮ろうなんて気を起こすかどうか。たぶん、その可能性は限りなく低い。


「ただ、朝陽(あたし)が『あれ?』って思ったのは、この前の学年レクの時かな」


「え? 何かあったか? ……って訊こうと思ったけど、何か分かったかもしれない」


 あー、あれか? さてはあれか? と独りでもごもごと繰り返す桜木。きっと分かっているだろう。あの時壮馬(アンタ)は本当に一瞬だけ『(マズ)い』って顔をしたんだから。それなりにミスもするけど、そんなときに大抵笑いに変えようとするところもある桜木壮馬がしくじったことを一瞬でも隠さなかったのは、それこそ失態だったと思う。


「あの日の放課後。教室の掃除が終わった後で最近ここらに居た不審者の話になったときに、壮馬は『実際にあったんじゃないの』みたいなことを言ったのよ」


「言ったなぁ。言っちまったなぁ……。やっぱり()()だよなぁ……」


 桜木の苦笑いの中、かなり深いところに、相当な悔しさが見て取れる。あたしに見抜かれる程度なんだから、それはもう間違いなく、失態の中の大失態だろう。ご愁傷様。あたしだって、やるときはやる。アンタに見抜かれていた通りに、周りのことはよく見ているのだ。


「あの時、不審者にあったのは『朝陽』じゃなくて『美夜』。『ユウマさん』に助けられたってことを、あの娘ったら後から書くんだもの。まぁ、あれだけのことがあって疲れてたのはわかるし、あの後あたしも適当に済ませちゃってたことがあったから」


「うわぁ……、ああ、でも、ああなるほど、そういうことか」


 悔しそうな表情が一転、何か合点の行くことがあったらしく、桜木はひとりで若干大袈裟に頷き続けた。何だ、何があった。


「『美夜ちゃんの日記』にはあの時の話が見えなかったからオレはてっきりスルーされたんだなって思って、安心してたんだ。は~……そうか、なるほどな」


「人が書いている最中のところは見ても、ページを遡って見るところまでやらなかったのね」


「それは……さすがにできないだろ、人として」


「賢明ね」


 あたしのときにやったらタダじゃおかなかったけれど。その発想がベースにあったのだとしたら、危機意識が高い。


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