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月が見つめる朝と夜  作者: 御子柴 流歌
第1章: Morning Mist

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1-3. お願いの続きと、それを免れたヤツ

        ●        ●




 翌朝。昨日の放課後少し前当たりから降り始めた雪は、結局朝になるまで降り止むことはなかった。

 朝の寒さはそのおかげで少しだけ緩いが、その分足下も緩い。

 さらさらの新雪の下に隠れたアイスバーンで、何度か足を取られかけながらの登校風景になっていた。


 教室に着いてすぐ、廊下側の壁に付けられている黒板に今日の時間割を書く。

 特に誰がやるという決まりになっていたわけではないけれど、何となく一番乗りになって以来ずっとあたしがやっていた。まさしく惰性でやっている感じだ。

 2年生のクラス替え以降も結局あたしがずっと書き続けていたが、少なくとも文句は言われなかったところから考えれば、これで良かったのだろう。


 誰かがやっていたとしてもそれは決して悪いことではないけれど、それをわざわざやろうと思ってくれる生徒なんて、そんな人材は稀な存在に決まってる。何なら存在しない可能性の方が高いかもしれない。

 公立の学校の部活動に全国優勝の実績を持つような超特待生級のスーパー新入生が入ってくるくらいなレア度かもしれない。

 知らんけど。


 そんなくだらない妄想のような想像を膨らませつつ時間割を書き上げたタイミングで、教室の引き戸が開かれた。

 顔を出したのは(あけ)()先生だった。


「あー、良かった。やっぱりいてくれたぁ」


「何かありましたか?」


 なんとなくデジャヴ感があったけれど、それは勘違いではないようだ。

 どうやら昨日の用事の続きということで、また先生の手にはプリントの塊。ただし今日はしっかりと丈夫そうな袋に入れられていた。安定感は増していてその点については安心だったけれど、その代わりにずっしりと重たい袋の持ち手が指に食い込んできて痛かった。

 ありがたいのか、ありがたくないのか。たぶんこれは神すら知り得ない。

 知らんけど。





        ●





 どうにか音楽室との往復を済ませたときには、しっかりと手には痛みが残っていた。


 こうして朝の時間割書きをしていると、大概教員の誰かがやってきて頼み事をしてくる。

 今日は副担任の暁美先生だったけれど、別にその限りではない。クラス担任や副担任以外はもちろん、学年が違う先生すらやってくることもあった。


 じんわりと痛む手をさすりながら教室の戸を開ければ、さっきは居なかった人影がひとつだけ増えていた。

 その人影はこちらに気が付くと、いつも通りのへらへらとした笑顔を向けてくる。


「おー。(くり)(さわ)、おはよすおはよす」


「おはよ。……()()()()()()何か早くない? 珍しいねぇ」


 明日あたり雪でも降りそうな――じゃない。今は冬。

 この時期に最適な表現は、恐らく『明日あたり猛暑日にでもなりそうだ』の方が良いだろう。


 あたしがそんなことを思っている間も、(さくら)()(そう)()はだらしなく椅子に座ったままでこちらに手を振っている。

 あたしが応えると、桜木は背もたれに身体を預けたままで笑った。


「たまには、な」


「ヘンなカッコつけんな。っていうか、そもそも付いてないけど」


 ――っていうか、ダサいけど。


 桜木なりに溜めを作って意味深っぽさを演出しながら言ったつもりらしいが、別に(もつ)(たい)()るようなところは無いと思う。

 実際、どうせそこまで深い意味なんて無いだろう。桜木だし。


 こちらとしては、自分なりに『桜木にしては』の部分を強調して、裏に何の意味を持たせたかを察して欲しかったんだけれど、当の本人には全く伝わっていないらしい。残念。読解力を問う問題だったら部分点も与えられないヤツだ。


 ――まったく、こっちは朝から忙しかったってのに。


「そういうんじゃねえんだよ。朝から兄貴が何か知らんけどいろいろやってたせいで目が覚めちまったんだよ」


「はっ。何その『オレ今日寝てねーんだー』的アピール。うっざー。イマドキ流行んないってそんなの。黙ってさっさと寝ときなさいよー? ……あ、校内で寝たらぶっ飛ばすから」


「アピールじゃないっての、マジなんだっての。っていうかお前、マジで言うことが野蛮すぎるから止めろ」


 やたらとオーバーなボディアクションを併せていたところで、言い訳がましいことを言っているのは明らかだったし、そんな脂っこいモノは朝から要らない。

 胃袋どころか、口に入れるのすらうんざりで、とにかく全力でお断りだった。


「ま、別に良いけどさ。……桜木。慌てて来たのか知らないけど、その辺寝癖付いてるよ?」


「え、マジ?」


「ウソ」


 髪の毛1本ほどの隙間すら作らずに返答。


「お前、こンの野郎……」


 とりあえず、桜木をちょっとだけからかってみる。頬を引きつらせているところを見ればそれ相応に『やってやった感』はあった。

 だけど、それだけでは当然、あたしの溜飲はまだ落ちきらない。


夫婦漫才風味が出てればいいんですが。

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