5-7. お守りの重ねがけ
「でもユウマさん、どうしてそんなことを知ってるんですか?」
それよりも気になったのはこっちの方だ。
「まぁ、……ちょっと前に調べたからね」
「なるほど」
「そうでもなきゃわかんないって」
こういう話は、勝手に「そうなんじゃないの?」と思ってみるだけで実際に調べてみようとはなかなか思わなさそうだ。そういうところに気を止めるのがユウマさんらしいな、なんてことをこっそりと思ってみる。
「調べる辺りがユウマくんっぽいねえ」
おじさんもそう思っていたらしいが、私と違ってすぐに言葉に出してしまう。おじさんらしさ全開だった。ユウマさんはそんなおじさんの反応に、ちょっとだけ恥ずかしそうにしながら頬をかいた。
「いやぁ……、だってもし御利益無くなっちゃうみたいなことがあったら、これを渡されても美夜ちゃんが困るかなって思いまして」
「……え?」
ごそごそと自分のバッグを探っていたユウマさんは、小さな白い紙袋を取り出した。そのまま小袋は私に差し出される。
「え? 私にですか?」
「まぁまぁ、何も言わずに」
「……もう言っちゃってますけど」
「まぁまぁ、細かいことは気にせずに」
いい加減な人だ。が、たしかにそんなに細かいことを気にしても仕方ない。とりあえず紙袋の方を検分することにする。
「……あ」
――察した。敢えて私にはすぐに見えないようにされていた袋の裏側に、受験校がある街に鎮座するかなり大きな神社の紋が描かれている。そもそもさっきまでの話を前振りだとすれば、これを見なくても予想は付けられるモノだった。コレは要するに――。
「そういうことですか」
「そういうことです」
流し目でユウマさんを見遣ればニッコリと笑顔を返される。生暖かい視線を感じつつころりと袋の中身を手の平の上に転がしてみれば、やはりそれは合格お守りと学業お守りだった。どちらか一方ではなく、合格と学業の合わせ技とはさすがに思っていなかったが。
「おお、神宮のかぁ」
「そうです」
「いいなぁ。俺はここ何年も行けてないんだよ」
「そういえばおじさんは昔からよく『行ってきたよ』って報告してましたね」
目当てはお守りでも何でもなく、境内に植えられている梅を使った梅酒であることも私は知っている。
「いつ行ってきたの?」
「先日そっちの方に行く機会があったので、折角なので行ってきました」
「なるほどねえ」
たしかに、この辺りに住んでいる人で向こうの神社まで足を伸ばすのは、それこそ初詣でどうしてもそっちに行きたいとかを思わない限りは、行ったついでに寄ってくることが多いだろう。私はそこまでする必要性を感じないタイプの人間だから行ったことはない。桜の季節にはテレビ中継で咲いている様子が流れたりする映像を見たことがある程度だ。
「混んでなかったかい?」
「それなりには、って感じですかね。やっぱり合格お守りがよく捌けてるっぽかったですけど」
どこもみんな最後は神頼みという話だろう。
「ああ、それで……」
「え?」
「いえ。きっと私がそこの神社の学業お守りは持っているだろうから違う神社のお守りならいいかと思ったけれど、違う神社のお守りを同時に持っていて大丈夫なのか心配になって調べて、大丈夫だったから買ってきた……っていう流れなのかな、って思っただけです」
「……そこまでピッタリ当てられると恥ずかしさとか全部吹っ飛ぶんだね。サスペンスとかで探偵に犯行内容言い当てられて、あっさり犯行動機しゃべり始める犯人の心境が、ちょっとだけ分かった気がするよ」
――そこまでですか。
「ああ、あれってああいう心理が働いて自白するんだ?」
「そう……なんじゃないですかね? 似てる状況があるなぁ、って思ったらそれだったんで。そういう話を書いたことないですし、そういうドラマも見てるわけじゃないですし、実際そういうシチュエーションになったこともないので詳しくはわかんないですけど」
「いや、実際にそういうシチュエーションになったら困ります」
それってつまり、ユウマさんが殺人犯にでもなった場合だと思う。
「相変わらずキレ味がいいねえ、美夜ちゃんは」
「何ですか? おじさま」
「おぉっとイケねえ、帰塁しないと刺される」
牽制にはなったらしい。
「ところで、マスターからはお守りのプレゼントとかは無いんですか?」
私にお守りを渡せてとりあえずは満足そうなユウマさんが、おじさんに話を振る。さすがにこれ以上もらっても、そろそろかさばり始めてきそうなものだ。それに、相手はこのおじさんだ。
「……あいにく、商売繁盛と家内安全のしか持ってないなぁ」
「いや、しっかり愛用されているモノは貰えませんから」
くだらないことを言いながら、おじさんはいつものカップで私にラテを出してきた。
どうせそんなことだろうと思ったが、おじさんからいただくのであればお守りよりもラテの方が嬉しい。ため息交じりにユウマさんの方を見れば、予想通り、穏やかに広がるホットミルクの香りにも似た笑みを浮かべていた。
イイらしいですね、お守り何個持ってても。
そりゃあ、日本の神は八百万ですからねえ。




