5-4. 下見完了と、その後
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「ぶっちゃけ、下見する意味ってどれくらいあるんだろうな」
「知らなーい」
少なくともそれは、その場所に着いてから言う言葉ではない気がする。
駅から歩いて15分程度で試験会場でもある受験校に着いた。ここまでの道のりで特筆するようなことは、言っちゃ悪いが何もなかった。語弊がある言い方とかそういうわけじゃない。本当に、何もなかったし、何事もなかった。本当に余程のことがない限り――それこそ、人身事故が起きるとか、その辺で自爆テロが起きるとか、それくらいのことが発生しない限りは何事もなく目的地に着けることがしっかりと確認できた。そう考えれば、ある程度はこの下見の意味があったと思える。逆を言えば、そこまで考えないとこの下見に意味を見出せないくらいだった。
「これさぁ、マジで先輩らもやってたのかねえ……」
「さぁねえ……」
「余裕がない人なら下見カットしてそうだよな。『そんなことしてる暇あったら家で勉強してるわ』的な」
「それは、年上がいるようなとこで口に出して言ったらシバかれるヤツだと思うわよ?」
「……かもなぁ」
わりと失言めいたコメントが多い桜木だ、余計なところで火種をまき散らかさないで欲しい。
「それで? この後はどうしたいの? アンタさっきどっかに寄りたそうな雰囲気醸し出してたけど」
「ああ、そうそう」
ぐだぐだと気怠げに歩き始めようとしていた桜木を引き留めながら言えば、桜木は何かを思い出したようにスマホを取り出した。何かを検索するのか、あるいはメモしていたモノをでも見るのか。
「とりあえず、本屋とゲーセン寄りたい」
「ゲーセンは断固として却下」
「何でよ」
「それはさすがに止められてるでしょ」
事前に配られているプリントにもしっかり書かれているし、何なら学校を出てくる際にも口を酸っぱくして先生が言っている。電車を使って遠方まで行き、かつ大きな繁華街などを経由するあたしのような生徒にはとくに厳命されていたことだった。
「……覚えてたか」
「当たり前ですー。ってか、その程度の記憶もないでどうすんのよ」
そこで何かしらの問題が起きてしまったときにどうするんだ、という話である。それこそ入学取り消しとかにもなりかねない。あたしたちは筆記試験が終わればそれで試験の日程は終わるけれど、翌日に面接試験を設けている学校もある。そこで何かしらがバレていたとしたら、それはもう『ご愁傷様』という話だろう。余計な火種は撒かないに限るし、事前消火活動も大事なのだ。
「本屋は良いだろ?」
「それは、良いんじゃない? 何ならあたしも寄りたいし」
下見とはいえ、ちょっとした遠出には違いない。駅前にある大きな書店なんて、なかなか来ることができない。大きな目的を達成した今、こういう機会を利用しない手はないと思う。
だからこそ、さっき桜木を完全に否定しなかったわけで。
「でも、ちょっとだけだからね。あんまり長居したら明日に響くでしょ」
「そうか?」
「……え、なんでそこで否定されなきゃいけないの?」
こっちとしては、まさかそこで反対意見を出されるなんて思ってなかった。
「え。だって、お前、『今夜は復習の必要などございません』みたいな態度で」
「そんなことないでしょ」
「じゃあ、何。そっちは門限とかあんの?」
「いーや? とくに」
「ならイイじゃん」
「良くないわよ」
そこまでの余裕をカマすことはさすがにムリだ。いくら何でも、過去問から判断し得る頻出の公式とか解法を確認しないままに今日を終える気は無い。
「早く寝ておかないと明日に響くからね」
「おー、優等生だ」
「……なんっかバカにされてる気しかしないんだけど」
「してねーよ。……してねーよ?」
「じゃあなんで疑問文で締めたのよ? しかもわざわざ2回言って」
「大事なことだし?」
「知らんわ」
あー、もう。めんどくさいったらありゃしない。言い方もそうだけど、言ってるときの顔つきでバカにしているかしないかなんて一目瞭然なわけ。口で何と言ったところでこちらには丸わかりなのだ。
「行くんでしょ、本屋。何処にするのかは知らないけど」
「そりゃまぁ、デカいとこだわな」
だとしたら、さっき地下鉄への乗り換えをした駅からすぐ近くにあるところだろう。駅の南側にひとつ、東側にひとつと、大規模店はふたつあるが、それはどちらでも構わない。
「じゃあさっさと行くよ」
「へーいへい」
面倒くさそうなリアクションは、いつも通りに無視をするに限る。
試験会場の下見って、やりました?




