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月が見つめる朝と夜  作者: 御子柴 流歌
第5章: Delicate Daydream

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5-3. 好物は最後に食べる派


        ●



 地下鉄やバスの乗り換え口で別れ、地下鉄のホームで別れ。そんなことを繰り返しながら受験校の最寄り駅に着いた。

 ウチの中学からこの学校を受けるのはあたしと(さくら)()を含めて4人。せっかくならまとまって行こうと思っていたのに、結局は2つのグループになってしまった。どう考えてもあたしにとっては余計な謀略としか表現できないような何かが、ウラで動いていたに決まっている。


「行かねーの?」


「行く、けど」


「何。また体調悪いとか言うのは勘弁してくれよ? さすがにこの学校と駅の往復を抱えて歩くのは無理だからな」


「うっさいわねー。アンタ、何回そのネタ引っ張る気よ。ンなことしてもらわなくても、さっさとタクシーでも拾った方が早いでしょ」


「たしかに」


 そもそも、体調は悪くない。若干乗り換え駅の人混みに酔ったような気はするが、大袈裟に言ってもその程度。全然問題はないだろう。


「で? 実際どうすんの? 歩き? タクシー?」


「実際に歩いてどれくらいかかるか分かってないとダメじゃないの、ってことで歩く」


「おっけ」


 要するに、それが下見だ。自分の五感を最大限に使ったシミュレーションは大事だと思う。もしかすると明日の朝タクシーを使う羽目になる可能性だってあるけれど、それはそのときだ。天気とか道路の状況にもよる話だけれど、少なくとも歩いて行くよりは速いはずだ。


 もちろんこのご時世、Googleマップで見るとか、ストリートビューで実際にルートを擬似的に歩いて見るとか、そういう方法でも正直なところ悪くないとは思う。むしろ時間の浪費を防げるという意味では有益だと思う。近場に受験会場がある子は今頃は自室でのんびりしているんだろうし、市外の学校を受ける子の中にも『下見なんていらねえよ』みたいなタイプもいるだろう。


 今回も強制されているというわけではないが、せっかくだから来てみたという話だ。その街の匂いに触れるというのもきっと大事なはずだ。――もちろん、受験直前の息抜きがしたかったというのも、間違いじゃない。


「……にしても、結構駅前にもいろいろあるんだな、この辺って」


「ね。知らなかった」


 どこの曲がり角で折れるべきとかそういうのは確認しているが、それ以外の要素はチェックしていなかった。街の風景なんてそれこそ度外視していたということもあって、すべてがわりと新鮮に映る。国道沿いの大型ショッピングモールこそ目立つが、小さな店も一応営業しているもののどことなく寂れた感のあるウチの近くとは大違いだ。


「へー……」


「寄るのは帰りだかんね」


「へーい……。あ、帰り道なら良いんだ」


 ぐだっとした返事から一転。あたしの反応が意外だったのだろうか、桜木は少し目を見開いている。大方、「さっさと行くよ、んでさっさと帰るよ」と言われることを予想していたのだろう。


「用事済ませるのが先でしょ」


 ――そりゃあもちろん、あたしも帰りに寄り道したい気持ちがある。ある意味学校帰りに、学校の許可の下、かなりの遠出が出来ている。このちょっとした背伸び感に満たされているような現実に、テンションが上がらないはずがない。ここで桜木を完全に否定してしまうと、自分の行動にも制限をかけることになる。逃げ道を作っておいたあたし、たぶん優秀。


「用事はさっさと済ませて、楽しみはその後の方が絶対楽しいっしょ?」


「そりゃそうだ」


 ――『俺に構うな、俺は常時楽しんでいたいんだ』などと言われなくてよかった。


「……栗沢ってさぁ」


「ん?」


「寿司とか食っても、いちばん好きなネタは最後に食う派だろ」


「当たり前でしょ」


 なぜそんな当然のことを訊かれる必要があるのか。ちなみにいちばん好きなのはウニである。


「まぁ、そうなんだろうなとは思ってたけど」


「何よ、今更」


「いや。よくよく思い出してみたら給食とかもそうだったし、そういやぁ修学旅行のときとか、バイキングの晩飯で、そろそろ部屋戻るってタイミングなのに皿の上に同じモノばっかり並べてたなぁって」


 思わずぎょっとして桜木を見つめる。少し高いところを見つめながら、何やら楽しそうに語っていた。何てヤツだ。


「……よく覚えてるわね、そんなこと。何、アンタあたしのストーカーか何か?」


(ちげ)ぇし。そこは俺の記憶力を褒めるとかしてくれよ」


「何でよ。何でそんな、自分の恥部を晒してくれたヤツを褒めなきゃいけないの」


「あ、恥部なんだ、アレ」


 そりゃそうでしょ。よりにもよって、どうしてあんなコドモ舌であることを晒していたシーンを思い出させられなければいけないのか。しかもこんなタイミングで。


「別に、悪いことじゃないと思うけどな」


「……ほら、信号青になるから」


 そんなことを言われたところで、という話だ。こういうときは無理矢理にでも話題を打ち切ってしまうのに限る。やや後ろから「素直じゃねえヤツ……」とかいう呟きが聞こえてきた気がしたが、ここは無視することにした。


サブタイは本文とあまり関係ない。

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