5-2. 相変わらずの不毛な言い合い
「そういえば、訊いてなかった気がするから訊いておくんだけどさー」
「ぁん?」
「アンタ、私立の方の入試はどうだったの?」
何かしらの話題を振っても問題無さそうな手元をしていたので、当たり障りの無さそうなモノを振ってみた。桜木は少し唸りながら天井の方を見上げた。
「……そこそこ?」
「なるほど、好感触……っと」
「お前、ヒトの話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
今は他に気を取られるようなモノもないし、桜木よりは話をよく聞いているタイプだと思う。
「だってアンタ、定期テストのときも学力テストのときも、それなり以上に出来た時ってそういう言い方するじゃん。こっちだってだいたい分かってるからね」
「……え?」
「は? 自覚無かったの、アンタ」
意外すぎる展開にこっちが驚く番だった。明らかに良かったのをこれみよがしに見せつけつつも隠そうとするなかなかに鼻につくリアクションだから、言われた側としてはそれなりに記憶に残るのだが。まさかの言っていた本人が無自覚だったとは。ナチュラル畜生などと言われるタイプの人間だったとは思わなかった。
「てっきり照れ隠しか何かだと思ってたら、無自覚かつ的確にエグってくるタイプか……。うわぁ、……うっわぁ」
「そこまでヒくことないだろ」
――いや、ヒくでしょ。
「……アンタ、それでよく他の男子から恨まれないね」
「そういう覚えはないなぁ」
「じゃあみんなアンタのこと諦めてンだわ」
「失礼な」
「アンタのセリフではないっしょー、それは」
「いやいや、お前に言われるのもお門違いっていうか?」
「それこそ心外だわぁ……」
「なんでだよっ」
桜木の声量が大きくなってきたところで、「シーッ」と人差し指と歯擦音で話を無理矢理止めさせる。あくまでも『アンタのせいでうるさくなって、周りが迷惑に思っている』感を演出するのを忘れない。これが肝心、要。
「…………。いや、なんで俺が原因みたいに」
「アンタの声のがデカい。コレ、事実」
「……サーセンっしたぁ」
不承不承感を隠そうともしない桜木だった。事実、あたしよりも声が大きいのだから仕方ない。桜木はもうすこし『加減する』ということを覚えるべきだと思う。
「ホントに反省してんの?」
「2割くらいしか反省する必要性を感じない」
「その理由を30字以内で述べよ」
「うっわ、めんどくせえ」
口ではそう言いながらも、原稿用紙チックな解答欄に答えを書き込むようにして、指折り数えながら自分の返答を作っていく桜木。何だかんだ言っても、付き合いは悪くないヤツだた。
「……『電車の中で話をしていたのは、自分の他にもうひとりいるため。』と。ホラどうだ、句読点込みで29文字だ」
「……アンタ今もしかして、30文字程度の理由を訊く問題で『、』入れた?」
「入れた」
間、髪を入れない。
「あと、ひらがなで文字数稼いだ?」
「稼いだ。『一人』をひらがなにした」
臆面も無く言い切った。
「狡いなぁ……」
「どこがだよ。これくらいフツーだろ、フツー」
「狡い以外の何者でもないでしょーよ。そこまで長くない説明するタイプの問題で句点打つのは御法度って、アンタのところでは習わなかったの? あとムダにひらがな・カタカナ使って文字数引き延ばすのも心証良くないっていうのも習ってないの?」
「読みやすさを大事にする主義なの、俺は。たくさんの受験生の回答を短い期間で丸付けしなくちゃいけない、高校の教職員皆々様方の労力を少しでも軽くするためだ。ほら、こんな優しい受験生が他にいますか、って話よ。心証が悪くなるはずが無いだろ」
まさしく、『ああ言えばこういう』ヤツだった。よくもまぁここまでいけしゃあしゃあと論説を張ることができるものだ。試験本番もまさか本当にこんな感じで解答を作るわけじゃないだろうな、と少しばかり心配に――いや、なんであたしがコイツの心配をしなくちゃいけないのか。無駄な心配を背負ってる暇なんてない。そんな暇があったら自分の解答の心配をするべきだ。
ため息交じりもう一度「シーッ」とアピール。桜木はあたしに対抗するようにこれみよがしなため息をついて、スマホを再び手に取った。もうお前との話には乗らんというアピールだろうか。それはそれで別に構わない。目的の駅はあと2つ先にまで迫ってきていた。
個人的には、もうすることはない。人によっては、目的の駅で地下鉄に乗り換えるその道筋を調べるとか、時間を調べるとか、その地下鉄を降りた先の道筋を調べるとか――とにかく調べ物をする必要はあるのだろうが、正直その必要もない。この期に及んで単語帳を開くようなこともとくにしたくはない。道順はすべて調査済みだし、地下鉄は次に来る電車を調べる必要もなく、一定間隔でやってくる。このタイミングまで暗記に追われているようなら、きっとその試験は危ないだろう。
あたしは、ただぼんやりと車窓を眺めるだけだった。
こういう何気ないシーンが好き。




