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月が見つめる朝と夜  作者: 御子柴 流歌
第4章: Symmetric Sunrise

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4-3. 優しさとは認めたくないのもまた人情

(公開日が元日なので)あけましておめでとうございます。

「え」


 私のは、ショコラモカではない。ふつうのカフェラテ。しかも飲みかけで、挙げ句の果てにそこそこ減ってしまっている。丁度いい温かさに調整してもらっていたおかげで、飲み進みが早かったせいだろう。

 どう考えてもこれでは等価交換にはなり得ない。


 せっかくおじさんがユウマさんのために作ってあげたモノなのに――。


「そんなことしたら、……何ていうか、釣り合いが取れてないじゃないですか」


「じゃあ大丈夫だね」


「あ……」


 何がどう大丈夫なのかと訊き直す時間も与えてくれなかったユウマさんは、そのまま私の飲みかけのカップを自分の手元へと引き寄せて、そのまま口を付けた。


「んー、美味しいです」


「お粗末さま」


 喉が渇いていたのか、あるいはユウマさんの基準では温かったのか。口を付けてそのままカフェオレを飲み干すと、満足そうな笑みを浮かべながらおじさんに味の感想を伝えた。


 これではもう再交換なんてことも不可能だ。どうやら私はこのショコラモカを最後までいただくしかないらしい。


「すみませんでした」


 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。いくら何でもさっきの私は気を抜きすぎだったと思う。


「どうして()()ちゃんはそこまで気に病むのかな? 僕は全然気にしてないし、怒ってもいないし」


「どうして、って……」


 あまりにも穏やかな波打ち際のようなユウマさんの雰囲気に、一瞬だけ何故か気圧されてしまう。おかしな話だ。何の感情の揺れ動きも無さそうな、平穏無事な様子なのに、むしろ底の知れない何かが見えてしまったような気がした。


 何なんだろう、この人は。


 まるで『怒り』という感情をどこかに捨て去ってしまったみたいな――。


「……美夜ちゃん?」


「…………あ」


 黙ってしまっては尚のこと意味がない。


「それは、……ユウマさんのためのショコラモカを私が」


「だから、全然気にしなくていいんだよ、そんなこと」


「『そんなこと』って」


 そんな言い方――。


「僕は別に、君に『ひとくちだけだよ』とか、そういうことを言ったわけじゃないし。飲みたかったら全然飲んでくれて構わないし。……ねえマスター。そうですよね?」


「まぁ、そうなぁ」


 おじさんは笑いながら、頬を掻いた。


「正直これは、俺が『ちょっと試してみたかった』って言ったのを、『せっかくだし実際に作ってみればいいじゃないですか』ってユウマくんに言われて作ってみたヤツだったからさ。ユウマくんに作ったっていうのは、厳密に言えば違うかもなぁ」


「ほら、ね?」


「……」


 何だか一瞬にして外堀も内堀も埋められてしまったような気分になる。本当はそういうことではなくて、だけれど私の語彙力では巧く説明できない、それなりに大きな引っかかりがあったからこそ、そういう言い方になったのだけれど。

 だから、ユウマさんが気にしていないからどうこうという話とも、少し違っている気はしていた。


 けれども結局言葉のでの説明ができないのだから、ふたりに正しく思っているモノを伝えることが出来なかった。それが、ただ、悔しかった。


「もう1杯ずつ飲むかい? ふたりとも」


「……え?」


 カウンターの中から訊いてきたおじさんを見れば、穏やかな笑み。


「そうしましょう。僕は全然、まだ飲めますし。……美夜ちゃんは?」


「私は……」


 おじさんと同じような――もしかすると、もっと穏やかにも見える笑みを向けられ、私が言葉に詰まった。さっきからこうだ、ずっと。どうにもペースが握られたままのような感触が纏わり付いて離れない。

 ただ、それほど嫌な気分ではなかった。安心感ともまた少し違うのだけれど、ずっと揺蕩っていたいと思えるような雰囲気ではある。


 もちろん、このままではダメなのだろうけど。コドモっぽいことばかり言って、困らせて。それでも良いわけがない。


「あくまでも実験っていうかさ、俺も探り探り煎れてるからね。やっぱりもう少しレビューが欲しいワケよ」


 ――あまり、甘やかさないでほしい。


 そう言ってしまうのが、正解なのか否か。


 やっぱり私には、何も分からない。


「だから、協力してもらえると、おじさん的にもマスター的にも嬉しいね」


 満面の笑み。


 ――本当に?


 私の目には、そう見えているけれど。


「そうそう。甘いの飲んでリラックスするのは大事」


 穏やかな表情。


 ――本当に?


 やはり、掴みきれない。


「じゃあ……、私もいただきます」


「おっけー。待っててね」


 私の答えを聞いて、おじさんはすぐに作業に取りかかった。


 すごく楽しそうには見える。でも何故かはわからない、何に対してなのかはわからない。


 コーヒーを煎れること自体なのか。新しいモノに挑戦していることなのか。私の反応が理由――とはあまり思えなかった。


「今度はせっかくだから、ちょっと熱めにしてみようか。ゆっくり飲んでもらいたいからね」


「さっきとまたちょっと違った風味になるかもしれませんしね」


「そういうこと」


 ふたりとも楽しそうだ。それならそれで、別に構わないのだけれど。


「まぁ、猫舌気味の美夜ちゃんにはちょっと」


「おじさま?」


「おっと、失敬失敬」


 コーヒーとは真逆の、さながら外の空気くらいには冷えているだろう声をおじさんに投げかける。が、然程効果は無かったらしい。

 ――飲んでいたコーヒーの分だけ、おなかが暖まっていたせいだ。きっと。そういうことにしておこう。


 油断も隙もない人たちだ、まったく。


何だかんだでリアクションがあるからイジりたくなるタイプ、美夜。

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