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月が見つめる朝と夜  作者: 御子柴 流歌
第3章: Symmetric Sunset

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3-8. 心配性

「そもそも勉強でも何でも、『強いられる』のが嫌いそうなイメージあったけどね、(さくら)()って」


「そうか? ……まぁ、そうかもしれないけど」


 アホを地で行くようなことをしたりするわりに、実は学業優秀なのがこの桜木(そう)()というヤツだった。

 そういうところ、ちょっとムカつく――というのは八割くらい冗談。


「そういえばアンタ、私立ってどこ受けるの? 滑り止め」


「付属と(せい)(りよう)(かん)


「あ、なぁんだ」


「ん? どういう意味?」


 予想が当たったという意味もあるけれど、それよりも大きい理由は――。


「あたしもそこ」


「マジか。ま、公立の方も同じだからなぁ」


 桜木の学力的にも、そのくらいのランクの高校を選んでくるような予感はしていた。まさかふたつともあたしと同じだとは思わなかったけれど。

 そう考えれば公立も合わせれば3つか。というか全部か。


 ――何だかなぁ。


「あ、じゃあ下見とかもいっしょに行けるな」


「何。まさかあたしに付いてくる気じゃないでしょーね?」


「そういうわけじゃないけどさ」


 桜木はどこか照れくさそうに車道の方に視線を逸らした。


「知り合いがいればちょっと安心できるんじゃねーか的なアレだよ。あと、『まとまり』はデカい方がイイんだろ?」


「まぁ、それもそうね」


 いつも通りが本番の入試でもできるなら、心強いとは思えそうだ。――相手が桜木というのはちょっと納得しかねるけど、背に腹は代えられないということもある。無いよりは幾分かマシだ。


 それに、学校側としても生徒たちの行動把握を簡単にしたいのか、志望校が同じ生徒は極力固まって試験会場へ向かうようにというお達しが出ていた。

 他にも同じ学校(ところ)を受ける子を知っていて彼女たちといっしょに行くことにはしていたが、そこにひとり増えても問題はないだろう。


 ――桜木が誰かと一緒に行く話を、例えば他の男子としていなかったことは、ちょっと意外だったけれど。


「ちなみに、さ」


「なんだ?」


「確認だけど、桜木って方向音痴とかじゃないよね?」


「うん」


「……良かった」


 ホッとする。


「そこまで信用無ぇの? 俺ってば」


「そういうことじゃなくて。……道案内みたいなことしなくちゃいけないんだったら、変なところで神経使わされるなーって思って」


「安心しろ、そんなヘマはしない。……っていうか、どっちの試験会場もも地下鉄からすぐ近くだろ」


「たしかに。よく考えりゃそうだったわ」


 その内の片方は地下鉄駅に直結している私立高校だ。失礼な言い方をするなら、迷えるヤツがいたらお目に掛かってみたいようなレベルだった。


「とりあえず、イイ点取れるように、今日も塾がんばりなよー?」


「お前も自学がんばれよー?」


 取って付けたような励まし合いになった。



        ●



「それじゃあ、あたしはここら辺で」


「おー」


 大きめの通りのところで別れようというあたしの提案を、桜木はやたら強硬的に突っぱねた。結局桜木はウチとは目と鼻の先くらいのところまで付いてきた。


 どうしてそこまでしてあたしを家に送り届けようとしてくれるのか、さっぱり解らない。――コイツに限って、変な気を起こすようなことは無いのだろうけど。

 それでも、いつもとは違う桜木の反応には、どうしても気になってしまうところだった。


「気をつけて帰れよ」


 ほら、コレだ。もう我が家は距離にして20メートルもない。何なら門扉もハッキリ見えている。どれだけ気を抜いたとしても安全に帰れると思うのだが。


「桜木こそ気を付けなよ? アンタん家、こっから結構あるんでしょ?」


「……ま、大丈夫だろ」


「そこはすぐ返しなさいよ」


 ――逆に心配になるでしょうに。


「……それじゃあね」


「おう」


 踵を返す。そのまま何歩か歩く。雪を踏みしめていく音が、ひとつだけ、住宅街に響く。


 ――ヤツが歩き出した気配は、ない。


 再び振り返れば、寸分もズレもなく、桜木はこちらを見つめていた。


「どしたの。帰んなよ。塾間に合わなくなっても知らないよ?」


 少し大きめの声で訊く。


「お前が帰り着いたら帰るよ」


「……なにそれ」


 同じような声量で返ってきた。案外心配性なヤツなのだろうか。


 ずっと見ていられるのも居心地が悪いので、少し急ぎ足になって家に向かう。門扉が少し軋む音がしたところで振り向けば、何故かにやりと笑ったような雰囲気をさせながら、桜木も踵を返した。


「……何なんだろ、アイツ」


 小さく呟きながら、そういえば、と思い出す。


 ――保健室まで連れて行ってくれたことに対しては、アイツにお礼を言ってなかった。


「まぁ、……いっか」


 静かに自分の家へと向かっていく桜木の背中を見送って、あたしは門扉を閉じた。


どういう風の吹き回しなのかしら。

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