3-6. 素直じゃないヤツと違和感
●
「じゃあ、これで終わり?」
「おつかれー」
「おー」
ゴミ箱の処理を終えれば掃除も終了。ふわふわとしたような少し適当な感じで締め、これで完全に解散になる。今日は教室での活動がほとんど無かったので、長谷川先生からも「掃除は軽めでもいいよ」というお達しがあり、いつもの半分くらいの時間しかかからなかった。理解のある先生で助かる。
各々荷物を持って教室を去って行く。それを見送っていれば、なかなか動き出さない男を見つける。
「どしたの? 帰らないの?」
桜木はぼんやりとした様子で帰って行くみんなを眺めていた。
「体調でも悪いとか?」
「お前に心配されるとは思わなかったな」
「何よその言い方」
いちいち突っかかってくる物言い。
何とかならないのか、コイツは、本当に。
一応こっちだって心配をしてやってやらなくもないような気分――かもしれないのに。
「帰らないのか、って訊いてるのよ」
「帰るよ、そりゃあ」
とくに体調が悪そうな感じはなく、声の雰囲気もいつも通りだ。
「じゃあ帰れば?」
「お前は?」
「あたし?」
思わない方向へ話が飛んだ気がする。突然の風が教室の窓を叩いた。
それ以外に音は、聞こえない。
「そりゃあ、帰るけど」
「じゃあ、帰ろうぜ」
「ん?」
何を言っているんだろう、桜木は。
「何だ?」
「アンタが? あたしと?」
「他にもう誰もいないだろ。一緒に帰ろうって言ってんだ」
思わず瞬きを連続でしてしまった。目をぱちくりとさせる、なんていう表現があるけれど、まさにあんな感じ。一緒に帰ろうなんて、部活をやってるときなら当たり前だったけど、引退後はほとんど無くなってしまった。
それが、まさかこのタイミングで、しかも男子――挙げ句の果てにはこの桜木壮馬から言われるなんて、全く思って居なかった。
「え、どういう風の吹き回し? 明日とか真夏日にでもなるんじゃないの? それか、このあと熱帯夜になるとか」
「倒れたヤツが何言ってる」
――うぐっ。
「た、倒れてないし?」
「へえへえ、お強がりなことで。……面倒だし、そういうことにしといてやるよ」
妙に上から目線で言われて腹が立たないわけではないけれど、実際みんなに迷惑をかけてしまったので強く出られないのも確か。ただ、そのまま飲み込むのも癪に障るので、奥歯を強く噛みしめておく。
「不満なら言い直すわ。……『倒れかけたヤツ』が何言ってんだ」
「うぐぐ」
今度は実際に呻き声が漏れた。そこまで言われてしまうと、本当に何も言い返せない。そもそも不満なわけではない。
――ぶっちゃけ、実際問題あたしは、倒れかけたのではなく『倒れた』わけだし。
ただ、逃げ道もなく図星を突かれて、ちょっと――悔しかっただけで。
「ほら、くだらないこと言ってると日が暮れるぞ」
「……ま、もうけっこう暗くなってきてるけどね」
「確かにな」
冬はやはり陽が短い。気が付いたら夕暮れで、少しでもぼけっとしていたらもう夜中だ。そんなことを言ってる間にもう次の日という感じすらしてしまうから、やっぱり冬の陽はあっという間なのだ。
「不審者もまだ居るかもって話だしな」
「そーいえば言ってたねえ」
この前まで話に上がっていたヤツについてはお縄になったらしいので、ある程度は安心できると思うけれど。
「桜木、何か引っかかることでもあるの?」
「実際にあったんじゃないのか?」
「え? ……んん?」
何か受け答えにズレがあるように感じた。こんなことは滅多に無いはずだが、今は明らかに齟齬があるように思えた。
それに、あたしにそんな覚えは、無いはずだ――けれど。記憶を辿ろうとしたそのタイミングで、桜木がそれを遮る。
「あー……いや、俺の勘違いだ」
「ん? そう? あ、そっか、そっかぁ」
ちょっと察したことがある。さっきの逆襲も兼ねて攻めてみようと思った。
「ってことは何? アンタ、もしかしてあたしを心配してくれてるんだ?」
「そういうところだぞ、お前は」
「何がよ。どういうところよ」
「そういうところがめんどくさいって言ってるんだよ」
「あ、そ」
そういうことなら別にいい。何となく違和感は拭い去れていないけれど、校内に残っていても仕方が無い。此奴が完全に拗ねてしまわぬように、背中を押しながら教室を出た。
やっぱり素直じゃない。




