3-2. 冬と体育祭とチョコレート
サブタイトルは某ギャルゲーを参考にしました。
「……それにしてもさぁ。何か、すっごい違和感あるわね」
「何がよ」
「アンタがこの時間に歩いているっていうことが」
「何つーこと言うんだよ、お前」
思った感想をダイレクトにぶつけると、当然かも知れないけれど桜木は不機嫌そうに視線を逸らした。ほんのり唇を尖らせている辺りは、実にコドモっぽい反応だった。
日常の態度や姿勢がもう少しでも悪かったら、確実に職員室内でやり玉に挙げられる程度の遅刻頻度の桜木。時には盛大な遅刻で一限目の途中で来ることもあるが、だいたいは1分とかその程度くらいの遅刻で、朝のホームルームで先生と同時に入る場合も多く、大目玉を食らいづらい。
桜木の家は学校からかなり遠いところにあったはずで、それもまた先生方からあまり強くは指摘されない理由でもあった。なかなか巧妙な遅刻魔だった。
「アレでしょ。お母さんに思いっきり叩き起こされた挙げ句、布団から引っ張り出されたパターンでしょ」
そんな桜木があたしと並んで学校に行くなんて、なかなか希少価値が高い。というか、こんなこと初めてだ。
明日槍でも降ってくるんじゃないだろうかと思ってしまうくらいだ。
「うっせーな。目覚まし一発で起きたわ」
「またまたー。ウソおっしゃい」
「いや、マジです」
じっとり。
返し刀で振り向いてきた桜木は、あたしに湿度1000パーセントくらいな視線をぶつけてきた。
「……え、マジで?」
「マジで」
ヤツの視線に、変化なし。
「……やるじゃん」
「どーも」
桜木は「致し方ない」という感じで数回頷いた。付け焼き刃のような褒め言葉では、さすがの桜木も機嫌を直してはくれなかった。
「……もう少し信用してくれてもイイと思うんだけどなぁ」
「それは申し訳ないとは思うけどさ。……日頃のアンタの行い的に、それを想像しろってのが難しいと思うワケよ」
「俺は何でお前にそこまで貶されなきゃいけないんだよ、いっつもいっつも」
桜木は引き続きコドモっぽくむすっとしている。
「……だから、日頃のそういう行いのせいよ、アンタ自身の」
あたしはそう言い放って、桜木の文句を振り払うように学校へと歩を進める。が、体格の違いは意外に大きく、数歩先を進んでいたはずがあっさりと追いつかれた。
観念した意を告げるようにため息をつけば、桜木はにんまりとあたしを見下ろしていた。見下されているわけではないのだろうけど、そのちょっとした余裕感がちょっとだけ鼻についた。
「まぁまぁ。そうキレんなって」
「キレてんのはアンタでしょ?」
「どこがだよ」
何もわかっておりません感を演じなくてもいいってのに。
「ほら、そういう返事」
「それはお前に合わせてるだけだ」
そこは、間違いないだろうけど。
心を整える以前に、少し冷静になる必要がありそうだった。正面に見える赤信号を見つめて何となく深呼吸をする。
ひとつ大きく息を吐いたところで、横から桜木の手が伸びてきた。
――何だ、まだあたしの邪魔をしたいのか。
思わず眉間に皺を作ってしまう。
桜木をちょっと睨んで、その差し出された手を見ようとしたところで桜木が言う。
「ほら、これでも食って」
「なにそれ」
「チョコ」
間違いなくそれはひとくちチョコ。
ちょっと大きめで、お得感のあるヤツだ。
「なんでそんなモン持ってきてるのよ」
「入ってたんだよ、コレに」
言いながら桜木は羽織っていた上着のポケットを指差した。
あたしは差し出されたチョコと桜木とをもう一度見比べて――。
「もらっとく」
「おう」
ここはおとなしく、素直にいただいておくことにした。
「食べちゃってイイの?」
「むしろ今食っておいて、角のコンビニのゴミ箱にでも捨てろよ。包み紙持ってんの先生にバレる方が面倒だろ」
「……慣れてるわね、アンタ」
「うっせーやい」
これは常習犯だろう。たぶん。知らんけど。
桜木の憎まれ口はとりあえず放置しておいて、包装からダイレクトにチョコを口へ放り込む。ミルク感が強くて、けっこう好きな味だ。スーパーとかではお徳用みたいな感じで売られているが、値段のわりにハイクオリティなモノだ。
「ん、おいし」
「それは何より」
――ちょっとだけ、元気になれたような気がした。
きっと常習犯です、桜木くん。




