3-1. 体調不良疑惑
第3章、朝陽の章。
冬季体育祭のお話です。
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「……」
まだぼんやりとした脳細胞で、ぴりぴりじりじりとけたたましい目覚まし時計の音を聞く。いつもより早めの時間にセットしているのは、今日も朝から学校で準備作業があるからだ。
――だけど。
「ねっむ……。だっる……」
妙に眠たいのに加えて、カラダの怠さもあった。寝起きながらもそれをしっかりと自覚しているあたしは、思わず声に出してみた。怠さの原因が筋肉痛と言うことでは無いみたいだけど、こういう感覚はあまりない。
熱でもあるかと思って体温計を取り出してみたものの、平熱より少し高いくらいだったので、余計に困惑する。高熱に加えて筋肉痛とか関節痛があるのなら、あまり考えたくはないけれど、ウイルス性の感染症由来だとかそういう予想も立つ。
だけど今は、平熱でコレだ。不思議で仕方が無い。
「いや、今日この日に熱を出されるのは困るわけだけどもさ」
さらに独り言をつなげてみた。
ストレッチでもすれば何とかなるだろうという淡い期待を込めて、軽く身体を伸ばしていく。寝相が良くなかったのか、やたらと関節がぱきぱきと音を立てたものの、いくらかは調子が良くなった気がする。
――そういう気分にしておきたい、という願望がかなりの濃度で含まれている気がしたけれど、そんなことはいちいち気にしていられなかった。
最後に大きく背中を反らせて、部屋を出た。
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朝ご飯も食べて、出がけに漁った冷蔵庫から栄養ドリンクをひとつ拝借して、いつもの通学路を歩いている間に、どうにかいつもの7割くらいのところまで調子が戻ってきた気がする。
足の運びに重たさは感じているが、それも起床直後と比べれば平気なくらいにはなっている。朝の風もそこまで肌には滲みてこなかった。
だけど、全力で動き回るには厳しそうだ。今もまた、ぬるりとした雪に足を取られかけているくらいだ。普段ならこんなことはあり得ない。
体育館での準備が終わったら少し仮眠を取ってもいいかもしれない。最善策は保健室。さもなくば――何処が良いだろうか。あまり適したところが思い付かない。とりあえず、喧噪とはかけ離れたところが良い――。
「おはよう」
「ひゃあっ!?」
「なっ……!」
ぼんやりとしていたのもあって、声を掛けられるとは思っていなかったので、妙に高い声が出た。自分でもびっくりする始末。
そして声を掛けた方もびっくりするという、何ともマヌケな顛末。
「……誰かと思ったら、アンタかーい」
「出会い頭に甲高い声ぶつけといて、そのリアクションかーい」
似たような口調で返してきたのは、桜木壮馬。コイツもあたしと同じく学級委員。
学年レクの準備があるのでこの時間の登校にさせられていた。
「……栗沢。おまえさぁ、何か、微妙に体調悪そうだな」
「え? べ、別に、そんなこと、ないと思うけど」
あたしのどこを見て、何を感じて、桜木はそう思ったのだろうか。
正直、一発で見抜かれるほどの調子の悪さでは無いと思うのだけど。
「あ、そう? なら、別に良いんだけどさ」
とくに私の反応を気にすることもない桜木。若干、拍子抜けしてしまう。せっかく訊いてきたのなら、もう少し掘り下げるとかしてくるもんじゃないのか。ただ単純にあたしを驚かせるためか。そんな傍迷惑な。
――いや、桜木の場合は他の子より圧倒的に面倒だから、これ以上の質問をしてこられるのもまたお断りだけど。
朝陽、大事に至らなきゃいいんですけどね。




