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月が見つめる朝と夜  作者: 御子柴 流歌
第2章: Night Noize

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2-3. 人好きのする笑顔のようなもの

 外は粉雪。

 例年に比べればだいぶ早く降り始めた挙げ句、量もいつもより多いくらいの雪は、クリスマスを前にしてたっぷりと路肩に溜まってきていた。

 早いところ排雪に来て欲しいんだがな、とは数日前のおじさんの言葉だった。


 ――カランカラン。


 そんな折り、不意のタイミングでドアベルが軽やかに鳴った。

 一応は営業時間だけど、こんな時間に新しくお客様が来るなんて珍しい。――というよりむしろ、エスペランサのドアベルが私ではない他の誰かの開け閉めで鳴らされるのを聞いたのは、もしかすると初めてかもしれないくらいだった。


 そう思いながら背を向けていた入り口を見れば、髪の毛を雪で濡らした男性の姿があった。


 歳は、恐らく若い雰囲気。高校生か、あるいは大学生か、もしくは専門学校生とか。少なくとも私よりは少し年上と言った感じがする。

 とくに飾り気があるわけでもない短髪は、少し赤みが差しているくらいの色合いだろうか。天然色っぽさがある。

 背はそこそこの高さだろうか、高いと言えるほどではない。だけれど、その姿勢が良いおかげか、立居振る舞いに育ちの良さのようなモノが見えた。


「マスター、裏手の雪かき終わりましたよ」


「おお、ありがとう。いやー、助かるねえ。なかなか手が出せないから」


「いえいえ。雑用でも何でもお任せください」


 見知った顔なのだろう。自然な会話。

 何なら親類である私よりも自然に話しているような印象さえ受けた。

 ――だからどうという話ではないけれど。


「どうも、こんばんは」


「……どうも」


 私の存在に気が付いた男性は、人好きのするような笑顔を向けてきた。

 接客慣れしている感がよくわかる。

 この時間帯に見たことは無かった気がするが、従業員の人だったのだろうか。


()()ちゃんは、彼に会うのは初めてだったかな」


「……だと思いますけど」


「紹介しておくよ。彼はユウマくん」


 おじさんに『ユウマ』と呼ばれた彼は、私に向かって静かに少しだけ形式的ではない会釈をしてくれた。


 おじさんの話によると、ユウマさんはこの夏あたりから夕方以降のシフトで働いているそう。

 基本的には極々短時間だけの勤務シフトだったけれど、今日はこうして雪かきをしていたため事実上の残業。

 その結果、私と鉢合わせすることになったらしい。


「おじさん、残業代はしっかり出しているんですよね。まさかボランティアでやらせてるわけじゃないですよね?」


「おぉ、怖っ。そういうどっかの監督署みたいな貫禄出さないでくれよ」


「……ふふふ」


 冗談2割・本気8割のつもりだったので、その反応は私の予想通りだった。

 が、ユウマさんの反応はちょっと意外だった。おじさんのリアクションに上乗せするみたいに、やわらかな笑い声が聞こえてきた。

 私が視線を向けるとちょっとだけ目を見開いてから、再びやわらかな笑みに戻る。


「ああ、ごめんなさい。意外と面白いことを言うんだな、と思って」


「……そうですか?」


「ああホラ、ダメダメ、違うよユウマくん」


 何だか訳知り顔でおじさんが口を挟んできた。

 これはよく知っている顔で、何か余計なことを言おうとする前兆だ。


「前も言ったけど、この子にはそういう言い方じゃダメだよ。もうちょっと丁重に、ふんわり伝えてあげないとゴキゲン損なうから」


「さも人をガラス細工みたいな言い方しないでください」


 案の定、予想通りだった。こんなにわかりやすい大人もなかなかいない。

 これから言う内容がさならがらカンニングペーパーのように、顔一面に書かれているようだった。


「覚えておきます」


「……」


 真に受けないで欲しい。


 ――いや、それ以外にも聞き捨てならないポイントがあったような気がする。

 一体全体、『前にも言った』とはどういうことだろうか。

 昼の営業時間とかで、私の話を勝手にしているということだろうか。


「……なるほど。では、マスター。今日はお先に失礼します」


「おう、気を付けて帰ってなー」


 薄目でどこか納得したような素振りのユウマさんを見送る。あの人もマスター――おじさんと同じで、しれっと余計なことを言うクセがありそうだった。

 とはいえ、その程度のことならば適当にあしらえばそれで充分だろう。それでも一応は、ある一線だけは越えてこないような、そういう領分を弁えることはできる人だとは思えた。


「……彼、学生さんなんですか?」


「そうだと言ってたな」


 とくに感情はない。


「珍しいね」


「何がですか?」


 私に何故か笑みを向けてくるおじさん。


「……いやいや、何でもない」


「……そうですか」


 何でもないことなんてまったく無いのだろうけど、別に訊きたくもなかったしどうでもよかったのでそのままにしておく。それに、さっきまでの流れを思い返すと、ここで何かを言い返すのは間違いだろう。

 冷めてしまったモノをこちらからわざわざ再加熱して蒸し返すなんて、それこそカロリーの無駄遣いだ。


「よし、そろそろ帰ろうか」


「カップ洗っておきます」


「ありがとう、よろしく頼むね」


 洗った後の置き場所はいつものところで良いはずだ。

 手早く片付けたところで、おじさんも帰り支度を終えたところだった。


とくになし。

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