ぐうたらの神様と季節の精霊
10/29おまけを追加記載しました。
今でない時代、ここでない場所……。
そこには、たくさんの神様がいて、もっとたくさんのヒトがいる。
「はぁ……めんどくさいなぁ」
一人の神様が、ため息をつきながら、緑の山を紅葉に変えていく。
この神様は、季節を夏から秋に変えている真っ最中だった。
「えっと、穢れは……まぁ、ほっといても良いか、ヒトは……ええ?
流行り病? それに飢饉?」
季節を変えるとき、自分の担当する大地を確認したが……。
”穢れ”とは、命を持つモノの負の感情の澱みが集まり、
ヒトや自然に害をなす存在であり、非常にやっかいである。
ヒトは弱いので、滅ぼさないようにするのも神様のお仕事なのだが……。
「穢れは見つけるの大変だしなぁ、あ……飢饉と流行り病の原因は、
夏に日照りの調整をしてなかったからだ! しまったぁぁぁ!」
……この神様、実にダメダメである。
-------------------------〖数年後〗-------------------------
「夏に雨をうなるぐらい降らせたのに、こんどは水害?」
「こないだの冬に、雪を多めに降らせて病の広がりをなくそうとしたら、
ヒトがいっぱい凍死するし……ああ、めんどくさい!」
<………>
「え? 穢れが大発生? なんで? ……あ、はい、ほおっておいたからか」
<………>
<………>
<………>
神様が管理する地上の様子が、精霊たちによって次々と報告されてくる。
「ああ、めんどくさい、めんどくさい、だれか代わりに管理してくれないかな?」
……この神様、ホンっとうにダメダメである。
-------------------------〖さらに数年後〗-------------------------
「もういやだ、ぼかぁ神様なんだ、もっと楽したい!」
……神様、ついにキレる。
<………>
「うっさいなぁ……そうだ、精霊に管理させればいいんじゃないか!」
<………?>
「いいか? 季節を巡らせ、穢れの監視とか、ヒトの観察もおこたるな?」
報告を続ける精霊をひっ捕まえ、いくつかの権限を与えた神様。
……この神様、トコトンダメダメである。
-------------------------〖十年後〗-------------------------
「うえ? 何で穢れが蔓延? 季節が年に一回しか巡ってない?
ヒトもいっぱい減ってるだって? どういう事だ?」
<……………>
「はぁ? 言われた通りに実行した? ……あ、はい、そうでした」
精霊は、言われた通りの事しかできなかった……何も考えずに。
季節を巡らせるタイミングは理解せず、穢れの監視とヒトの観察はすれども、
ただ、見ているだけだった……。
「そうだった、精霊は自分の考えを持ってないんだった!」
……この神様、やっぱりヌケヌケである。
「こうなったら仕方がない、強化した精霊を各季節別に用意すれば!」
自分が楽をするための努力は、惜しまない神様であった……。
「おまえは春の季節を担当せよ」
<あい>
「おまえは夏の季節を担当せよ」
<あいあい>
「おまえは秋の季節を担当せよ」
<あいさー>
「おまえは冬の季節を担当せよ」
<あいー>
四体の精霊を、意思疎通可能まで強化し、力を分け与えた様だが……?
「これでうまく行く! まちがいない!」
……この神様、だいじょうぶなのか?。
-------------------------〖さらに十年後〗-------------------------
<けがれ、いっぱい>
<ヒトは、へった>
<だいちが、かれる>
<いっぱい、しぬ>
「で? 何もしなかったと? それに、冬・秋・夏・春の順番で巡らせたと?」
<<<<かみさまの、こころのままに>>>>
「自我も持たせないとダメか……そうは言っても……四体分はめんどい……」
<ヒトがをかみさまにささげものしてます>
「は? まさか……生贄?」
ヒトは追い込まれると奇行に走る、その一つが生贄だ。
動物からエスカレートして、同族までも神に捧げようとする。
「いかん、これ以上、私の担当区でヒトが減ったら、ぼかぁ大神様に大目玉だ!」
<ヒト、へった>
<へったヒトが、ヒトをへらす>
<けがれ、ふえた>
<いっぱい、ヒトがへる>
「あああ、せめてお前たちが穢れをはらってくれれば!」
<むり、けがれ、つよい>
<たたかいかた、しらない>
<けがれはらう、かみさまのしごと>
<せいれいは、たたかう、しない>
「ぐっ、精霊のくせに生意気な! ぼかぁただ楽をしたいだけだってのに!」
……だめだ、この神様、早く何とかしないと。
<ささげもの、すうかしょでどうじ、さいきんのはやり>
「はぁ? そんなペースでやられたら……滅んじゃうじゃないか……」
<きのうも、こどもが、ささげられた>
「ふむ、まだ生きてるかもだし、ここいらでなんとかするか」
………
……
…
「これは……ひどいな、同じヒトなのに」
神様は地上に降り、捧げられたモノを目にして、顔をしかめる。
全員、年端も行かぬ少女だった……。
一人は、生きたまま埋められていた。
一人は、森の奥で大木に打ちつけられていた。
一人は、重しをつけられて、滝つぼに沈められていた。
一人は、雪の降る海に、着る物もなく小舟で流されていた。
「苦しんだ様子はないな……」
……流石に気がとがめたのか、恐らく薬を使ったのだろう、
全員が眠っている様に穏やかな死に顔だった。
「自分が死んだ事にも気づいていないな……魂がへばりついている」
<さいきんは、こどもばかり>
<ささげものは、どんどんふえる>
<ヒトは、どんどんへる>
<けがれも、どんどんふえる>
「はぁ、仕方がない、精霊たち、よく聞くんだ……」
集められた少女たちの亡骸を前に、神様が精霊たちを呼びよせた……。
………
……
…
「お前は、始り……春の精霊だ」
埋められて捧げられた、桜色の髪の少女が頷く。
「お前は、活性……夏の精霊だ」
打ち付けられて捧げられた、燃えるような紅い髪の少女が頷く。
「お前は、衰退……秋の精霊だ」
沈められて捧げられた、栗色の長い髪の少女が頷く。
「お前は、終り……冬の精霊だ」
流されて捧げられた、白く長い髪の少女が頷く。
精霊たちは、生贄となった少女達の魂と亡骸を取り込み、
個性と身体を手に入れていた。
………
……
…
「いいか、この【季節の証】を持ってる間、それぞれの季節で行動するんだ!」
「季節の証? ですか……とてもきれい」
春の精霊が季節の証を受けとり、しげしげと眺める。
「そうだ、春・夏・秋・冬、そしてまた春へと季節の変わり目で引き継ぐんだ」
「これ、だれが持つんだ?」
夏の精霊が、不思議そうに春の精霊の持つ季節の証をのぞき込む。
「ボクは、なくしちゃいそうだから持ちたくはないなー」
秋の精霊が興味なさそうに呟く。
「いやいや、与えられた季節を持った者以外は消えて貰う」
「「「「え?」」」」
精霊たちが動揺する。 そりぁそうだろう……。
「神様、私たちまた殺されるの?」
冬の精霊がヒトの魂と共有した感情から、怯えた様子で問いかけた。
生贄にされた記憶の欠片から、消えて貰うという言葉に恐怖したのだろう。
「ああ、ちがうちがう、季節ごとに交代するってことだ、死ぬわけじゃない!」
「交代って、その間、神様のとこに戻るのか?」
夏の精霊が疑問を口にする。
「いや、この【季節の証】の中で眠りにつく、季節の終わりに全員が揃い、
これの受け渡しを確認してから、担当の者だけで、季節の終わりまで活動するんだ」
「全員で活動すれば、効率が良いのではないでしょうか?」
春の精霊が、もっともな事を言う。
「それはな、お前たちに力を注ぐ量が増えると、私の力が削がれるし、
なによりだるい……それに、他の神にばれてしまうかもしれない」
「「「「……はぁ……」」」」
ヒトの心を取り込んだためか、四人の精霊は、同時にため息をついていたのだった。
「今度こそ楽が出来る! 100年くらい寝てても大丈夫だな、うん!」
……つっこむ気も失せてくる神様であった。
-------------------------〖数十年後〗-------------------------
どぉぉぉん……
「……っしゃ! オレの季節ではこれで最後かな?」
季節が夏から秋に変わる頃、穢れを祓った夏の精霊が戻って来る。
季節の変わり目、引継ぎを行う場所で穢れが現れたのだった。
「お疲れ様、夏の精霊! アレが残ってたら、ボクじゃちょっと苦しかったよ」
「ん? ああ、気にすんな、オレはこっちの方が性に合ってる!」
夏の精霊に感謝をする秋の精霊。さながら仲のいい姉妹のようであった。
「でも、穢れも減ってきているし、そのおかげで、ヒトも増えてるわね」
春の精霊が、季節の証を通して、世界の情報を読み取っていた。
「私の季節では、ヒトはほとんど行動しないからわからないけど、よかった」
冬の精霊は、少し寂しげな顔で呟いた。
「そろそろ日が落ちるな……後は頼んだぜ、秋の精霊」
「それじゃぁね、秋の精霊」
「また……ね、秋の精霊」
精霊たちは別れの言葉を交わし、消えていった。
………
……
…
他の精霊たちは眠りにつき、秋の精霊だけがその場に残される。
「……なんか違う、ボクたちと同化したヒトの子の影響かな? そうだ!」
秋の精霊は、何かを思いついたように走り出した。
「ヒトとの接触は禁じられてるけど、神様はどうせ寝てるから大丈夫だよね!」
……一体、秋の精霊は何をするつもりなのやら、いつもと違う季節になりそうだ。
-------------------------〖数か月後〗-------------------------
秋の季節が終わる頃、再び精霊たちが顔を合わせる。
「あんまり、久しぶりって感じじゃないけど、問題はなかった?」
「ひさしぶり、はっちゃん!」
「はっ……ちゃん? それ、私のこと?」
にやにやとしている秋の精霊。
「ん? どうした? 秋の精霊がまた何かやらかしたか?」
「何かあったの?」
夏の精霊と冬の精霊が姿を現す……秋の精霊は待ってましたとばかりに……。
「なっつん、ふーちゃん、ひっさしぶりー!」
「「え?」」
春の精霊と同じく、目をぱちくりとする夏の精霊と冬の精霊。
「なっつん? なんじゃそりゃぁ?」
「ふーちゃんって、なに?」
「んっふっふっふ~♪ それはね、あだ名って言うんだ!」
「ボクは、秋の精霊じゃなくて、あーちゃんでおねがいね!」
「「「はい?」」」
「みんなは感じない? 自分と一つになったヒトの子の気持ちを!
ボクは、みんなと季節の変わり目に会ってさ、お別れする時……。
いつも、何か違うって思ってたんだ!」
「ヒトの子の気持ち? 良く分からないわねぇ……でも、何か引っかかるわね」
「ん―、たしかに……なんかモヤモヤってすることはあるな」
「……私は、よくわからない ただ、時々胸の辺りが苦しい」
違和感を口にする精霊たち……。
「そこで! ヒトの子供に、色々教わってきたんだ!」
「あきれたわ……そんな事の為に、禁じられてるヒトとの接触を?」
「でも、わかったんだ……ボクたちは、ともだちなんだよ!」
「「「ともだち?」」」
「ともだちって、一緒にいると楽しくて、お別れするとさみしくなるんだって」
「さみしい……みんなが眠る時に感じるのは、それなんだ……」
「でもね、でもね、ともだちってね……」
「「「ふんふん、それでそれで?」」」
……ぐうたらの神様の気まぐれから、心を持たない精霊たちが心を持った。
ヒトと精霊との中途半端な精霊たちは、仲の良いともだちとして成長していくだろう。
まぁ、あの神様よりかは、いい世界になっていきそうだねぇ、いやほんとに。
まったく、どうしようもないな……あの神様は……。
………
……
…
(そのころの神様)
「へっぷし! ん? 誰か噂を……ま、いいかぁ、もうひと眠り……」
……いっぺん、しばいたろか、このダメ神様……
【おしまい】
<<おまけ>>
……とある季節の変わり目
「なぁ、秋の……じゃなかった、あーちゃん」
「何? なっつん」
「何で、オレだけ”ちゃん”じゃないんだ?」
「ああ、それはね、いつもつんつんで、
時には、でれでれになるのをつんでれっていうんだって!」
「はぁ?」
「つんでれの夏の精霊。だから、なっつん!」
「ほほぉぉうう?」
「私は、なっちゃんのほうが呼びやすいわね」
「私も、なっちゃんって呼びたいかな……」
「ボクは、なっつん一択だね!(ドヤァ)」
「あーちゃん、そこへならえぇぇぇ!!!」
「うひゃぁ? 何で? 何で怒るのさー!!」
……今日の世界は、とても平和のようだ。
kobitoさんによる企画【ほっこり童話集】用に何とか書き上げました。過去の短編を再掲載……とも考えましたが、
7000文字を越えていた為に断念。同じ世界での前日譚を書いてみました。
童話っぽくしようとはしてみましたが……今はこれが限界です(泣)