8
そして新聞部に新入部員が加わった。
「校内新聞の効果は絶大ね」と瑠々はさゆきとハイタッチをしている。
「ねえ、誰だと思う」と瑠々ははしゃいでいる。
「えっ、私たちの知ってる人?」とあかり。
「実は…」と瑠々は言葉を溜めた後、
「な・い・しょ」とはぐらかす。
「教えてよ」
「意外な人よ」
「誰よ、誰…」
「もったいぶんないで言いなさいよ」
「ひ・み・つ」
こうして新聞部の一人勝ちで騒動に幕が下りた。
新聞部は部員獲得に勝ち名乗りをあげたのである。
問題は軽音部である。
有名にはなったが、部員は一人も増えていない。
相も変わらず幽霊たちの棲みかとなっていた。
ひとみは一年生を見かけては声をかける。
「軽音部に入部してみない?見学だけでいいの?」
ひとみがどんなに軽音部をアピールしても、
「軽音部?だって幽霊が出るんでしょ」と言われてしまう。
軽音部の幽霊。
それは麗華や由愛、李愛のことだろうか。
それだけじゃない。
最近幅を利かしているのは人体模型であった。
人体模型が普通に歩いてるだけでみんなが振り返る。
子供たちは泣きじゃくり、怯えて逃げ出す人だらけ。
それが普通の反応であろう。
しばらくすると軽音部に関する噂話がネット上にあふれ出す。
写真の加工技術が向上してるせいもあって、実に軽音部にまつわるフェイクニュースが一気に拡散された。
軽音部にはお化けが棲みついてる。
噂話はあながち間違っていない。
とは言えあからさまな加工写真ばかりで本物の心霊写真は一つもない。
もし本物の麗華のポートレート写真があれば、お金を出しても惜しくない。
そんな偽物が巷にあふれ、軽音部から夜中になると鵺の鳴き声がしてるとか、ひぐらしが鳴いているとかデマばかりである。
実際軽音部はひとみ以外誰も練習をしてないのだ。
もし聴こえるとすれば、サックスか、ピアノの音だけだろう。
幽霊の叫び声の音源を入手したとか、そういうのも作り物だとひとみたちには分かっていた。
魔物が棲む館。
そんな風に呼ばれるのは心外である。
軽音部の再出発はいきなり暗礁に乗り上げることとなった。
ひとみは竜ケ崎先輩がいつも座っていた椅子に腰をおろす。
机の上には地球儀が置いてある。
地球儀を回しながら、「世界制覇の夢も潰えてしまったわ…」と呟いた。
「まだ大丈夫」
「もうおしまいよ」
「まだ助かるから」
「もう無理よ」
「まだ助かる。マダガスカル」と地球儀を止め、マダガスカルを指さして、「ここ!マダガスカル」と言う。
すると下の階で笑い声がした。
何?今のギャグがウケたの?
そんなはずない。
だって昨日、目を塗りつぶしたし…。
ひとみは人体模型の目を取り出す。
すると昨日塗ったはずのマジックが消されていた。
「ったく。竜ケ崎先輩。まただ」
どうせ下の階にいるんでしょ。
ついでに下を見に行ってみよう。
と一階に降りると、ひとみは一階を探索する。
ロボコン同好会ってどこかしら…。
それぞれの教室を外から眺めるが、どこか分からない。
そこで軽音部の真下の部屋をノックする。
返事はない。
ひとみは扉を開けてみる。
そこはまるで手術室のようであった。
臓器のホルマリン漬けが並んでる。
「誰かいますか」とひとみは声を出す。
しかし返事はない。
ひとみは中に入ってみる。
手術台の上にシーツがかけてある。
明らかに誰かが寝ているようである。
「竜ケ崎先輩!隠れてもバレバレですよ」とひとみは声をかける。
きっと私が来ると思って隠れたんだ。
「竜ケ崎先輩」と、ひとみがシーツを引っ剥がす。
するとそこには骨格標本が横たわっていた。
そして骨格標本はムクッと体を起こし、手術台を降りて立ち上がる。
「えっ?骨格標本?」
ひとみは部屋を出て行こうとする骨格標本を追いかける。
骨格標本を追いかけて外に出る。
骨格標本はどんどん逃げていく。
「何がしたいわけ?」とひとみは骨格標本を追いかける。
そして運動場まで追いかける。
「きゃー」と女生徒たちの悲鳴。
「骸骨よ」
「ブルックだわ」と大騒ぎである。
骸骨か…。
普通に考えれば骸骨が暴れまわってるように見える。
ひとみがそれを骨格標本と理解できたのはロボコン同好会にいたからだ。
ひとみは骨格標本にタッチした。
すると骨格標本が今度はひとみを追いかけてきた。
やっぱりだ。
鬼ごっこがしたかったのか?
鬼ごっこロボなんだろうか?
だとしたらあの教室でロボットを製作していたのだろう。
製作途中のロボット。
人体模型より部品を隠す場所が少ない。
一体どれほどの技術力が搭載されているのだろう。
まったくロボットに見えないではないか。
本物の骸骨?
まさかね。
怪異、怨霊。
道真か?
ひとみが走って逃げると、突然、ガラガラと何かが崩れる音がした。
骨格標本の足が壊れて倒れてる。
足を繋いでいたモーターが回転している。
「あれ、壊れちゃった」とひとみが骨格標本を見下ろしていると、突然、白衣を着た男子が骨格標本に駆け寄ってきた。
そして「スネ夫」と骨格標本を抱き上げる。
男子はキッとひとみを睨みつける。
すると後ろから白衣を着た女子が、「あーあ」とため息を漏らす。
「壊れちゃったね、スネ夫」と女子が言う。
男子はロボットを抱きかかえ、ひとみの前を立ち去ろうとする。
「あの…」とひとみは二人を呼び止める。
女子が振り返る。
「何?」
「ロボコン同好会の方ですか?」
「そうだけど」
「ごめんなさい」とひとみは頭を下げる。
「ロボットが追いかけてきたから」
「いいのよ。直せばいいだけだから」と男子を走って追いかける。
すると隣に瑠々が立っていた。
「ロボコン部三年。天馬シュン。B4の一人よ」
「いきなり現れるわね」とひとみが驚いてると、
「そして女子、長沢ロビン。一年生。彼女もB4の一人よ」と説明をする。
「B4って、鉛筆のこと?」とひとみは聴く。
「それは4B。まさかB4を知らないの?」
「誰かそんな話してたっけ?」
ひとみはB4のことを必死に思い出そうとする。
海馬には残っていない。
大脳の引出しを開けてみる。
「ひとみの好きな竜ケ崎先輩もB4の一人なのよ」
「そうか。思い出した。推薦入学組のことね」
「そう、日本中から集められた天才たち。彼らは実質的にももち浜学園を支配しているようなものなのよ」
「でもももち浜学園って私立でしょ。どうして経営者より生徒の方が力を持ってるの?」
「それは…」瑠々は黙り込んだ。
何か言えないような秘密があるのかもしれない。
腐っても新聞部なのだ。
学園の秘密を知ってるのに口にできないのかもしれない。
「ごめん、調べたことないの」と瑠々は頭を下げる。
「なんだ、知らないのか」
「でも面白そうね、その話、一度調べてみようかな。ちなみにロボットのスネ夫は多分骨格標本だから骨川スネ夫だと思われます」
瑠々は微笑んだ。
ももち浜学園の黒い霧。
「ももち浜学園の天才が二人で設立した同好会。それがロボコン同好会よ」
だからあんな凄いロボットを創れるんだ。
なんか悔しいな。
ロボットは専門外だしな。
「でもあんな凄いロボット作れるんなら、ロボコンに出たら優勝できるんじゃないの」
「多分、出たことないんじゃないかな」
「何、それ…。もったいない」
資金不足なのね。
同好会だからか…。
そうだ、足利基金に連絡を取って資金援助をしようかしら。
金を産む卵の予感がするわ。
ひとみはそうそうに出資の話を協議することにした。
財務担当の役員に電話をかける。
「三千万円までなら私の貯金から出資してもいいわ」とひとみは言う。
しばらくして返事が返ってきた。
「ダメでした、ひとみお嬢様。もうすでに巨額の出資者がいるらしいのです」
「誰よ、それ」
「竜ケ崎という方です」
竜ケ崎先輩?
まさか、学校の金。
生徒会命令でロボコン同好会に出資してるに違いない。
「で、いくら出資してるの?」
「一億円です」
一億円の不正融資。
これは事件よ。