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その朝、校門の前は人手でごった返していた。
風紀委員が校門でスカートの丈を測っている。
普段通りの制服姿で校門をすり抜けようとした男子が柔道部の連中に羽交締めにされていた。
「コスプレ以外は認めません」と風紀委員の鳥嶋楓子が指差し棒を顔に突きつける。。
すると一人の男が手をあげる。
古田古男である。
留年し、事実四年目の高校三年生である。
「俺は十九歳だ。だから俺の制服姿はなんちゃって高校生だ」と校門をすり抜けようとする。
すると古田は柔道部員に取り押さえられる。
「それはコスプレではありません。なぜならあなたはまだ高校を卒業してない高校三年生なんですから」と。
「じゃあ、これならいいだろう」と古田は制服を脱ぎ捨て、海パン一丁になる。
「きゃー」と女子の声がする。
海パン一丁の古田が校門を超えようとすると、再び取り押さえられる。
「なんでだよ。アニメの『フリー!』のコスプレだ」と古田は叫ぶ。
「その手があったか」と男子たちが制服を脱ぎ始める。
「海パン刑事だ」と海パンにネクタイをしめた生徒。
「フリー!って京都アニメーションでしょ。そう、水泳部の話」
「海パン刑事なんか出てきたっけ?」
「こち亀ですよ、あれは…」
海パン刑事が校門に足を踏み入れる。
「ダメです」と再び風紀委員は古田を止める。
「生徒手帳に書いてある校則違反になります」
「どうしてだよ。コスプレならいいんだろ」
「ダメです。海パンに萌え要素はまったくありません。汚いものをしまってください」と指差し棒を海パンに向ける。
「そのかっこう、萌え要素が全然ありません」とガンダムのコスプレをしてきた男子を楓子は引き留める。
「これがコスプレじゃなかったら、何がコスプレなんだよ」
「いいですか。生徒会長命令はももち浜学園を萌え萌え学園にすると言ったんですよ。だから、そこのバニーガール姿のあなたたちもNGです」
バニー姿の女子たちはラウンドガールと一緒に門前払い。
「ここはハロウィンの中洲じゃないんですよ。あくまで秩序をもってコスプレをしてください」
竜ケ崎は校長室にいた。
「竜ケ崎君、君の指示にしては無謀だったね、今回は」と校長は竜ケ崎を睨みつける。
「ももち浜萌え萌え学園の件だけどね…」
「全然だめだわ」と竜ケ崎は頭を抱えた。
「ドン・キホーテで揃えてきたような俄かコスプレ衣装ばかり。これじゃまるで文化祭じゃないの。私が目指しているのとはまるで違うわ」
と、校長は竜ケ崎の前に立ちはだかった。
「竜ケ崎君…」と突然低姿勢の声を出す。
「学校名の件だけどね、あれは時間がかかりすぎる。手続きも大変だし…」
「えェー」と竜ケ崎は髪の毛の端を指に巻きつける。
「いやあ…、さすがに君の命令でも今回は見逃してくれないか」
「じゃあ、制服をもっと可愛くしてほしいな」
「制服ですか…」と校長は電卓を叩きはじめる。
「一流のデザイナーに頼んでもっと可愛くしてほしいのよ」
「しかしわが校の制服はすでに日本でも上位人気の制服ですし…」
竜ケ崎はじっと黙ったまま考える。
「じゃあいいわ。日本中の可愛い制服をかき集めてファッションショーをしてみたいの」
「日本中ですか…」
「ごめん、世界中でいいかな。インスタで見たんだけど、外国の制服って結構可愛いのよ。それをみんな集めてほしいの」
「あのお…。私は制服の可愛いがよく分からないのですが…」
「そりゃ、そうね。おっさんだしね」
「そうです。孫もそろそろ産まれる歳ですから…」
「じゃあ私がセレクトするから、全部取り寄せて」
「は、はあ…」
「ついでに制服クィーンを決めちゃいましょう。できるわよね、校長」
「もちろんです。ただ…」
「ただ、何よ」
「世界中となると時間が…」
「じゃあいいわ。今年の文化祭のイベントにしましょう。それなら間に合うでしょ」
「は、はい」
というわけでコスプレイベントはたった一日で終息した。
結局今まで通り制服通学が認められることになった。
しかし一つだけ変わったことがあった。
それは膝下五センチだったスカートの丈が膝上十五センチになったことである。
そして軽音部の黒い霧と呼ばれた部費問題も闇へ葬られていった。
「これがB4の力。いや、生徒会長特権なのね」とひとみは改めてその権力の大きさに驚いた。
短くなったスカートをチラ見するのは男子たち。
「可愛い、可愛い」と写真を撮りまくるのは竜ケ崎であった。
竜ケ崎は文化祭に向けて世界中の可愛い制服をSNSで探してはニヤニヤしている。
ひとみは竜ケ崎の妄想に分け入るのが怖かった。
竜ケ崎は頭の中で一体誰に制服を着せてるのだろう。
ひとみは最近になって軽音部に顔を出しまくってる竜ケ崎を見るたびに怖くなった。
私の体で妄想しないで…とひとみは思う。