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「次は私たちの番ね」と遥が気合を入れる。
仁香は手にまつい棒を握りしめている。
「それ、マイクじゃないよ」と佳奈美に注意されていた。
緊張が伝わってくる。
こんなふざけた大会なのに、一番緊張しているのは私たちだ。
ユーチューブとは違いすぎる。
ファンなどいないアウェーとは言え、会場の雰囲気に飲まれそうである。
イントロが鳴り始め、ステージ上に飛び出す遥たち。
黄色の愛季ちゃんは緊張のあまり、箒で床を掃きながら、横歩き。
どう見てもレレレのおじさんである。
と、後ろの座席に長い長い垂れ幕が広がった。
「絶対、優勝」と書いてある。
えっ?ファン?
「福岡県ぎょぎょぎょ連」と書いてある。
「さかなクン?」
いつもひとみと魚釣りをしているオジサンたちの顔。
そしてさらに前の方にも垂れ幕が。
「百万人が味方だぞ」と書いてある。
「頑張れ!ユーチューバー」と掛け声。
そうか、ユーチューブのファンなんだとみんなは背中を押された気持ちになる。
そして舞台でシェイプアップするために書き下ろした曲。
「恋のシェイプアップ」を披露する。
完璧な歌声は審査員たちのハートをロックオンした。
みんなの目がハートでいっぱいになる。
そしてその様子を見届けて、執事のレッドバトラー、サフォークが会場をあとにする。
全て、サフォークが仕切ったことであった。
「今度は俺たち執事の番だな。待ってろよ。ゼップ福岡」と手を握りしめる。
その頃会場では、出演者全員が舞台に上がり、結果を待ちわびていた。
「グランプリは…」とドラムロール。
「足利家のみなさんです」
遥は思わず膝から崩れ落ちる。
「出ました、土下座です」と司会者が言うと、笑いが起こる。
遥は思わず鼻水をすする。
そして、仁香が子石田純二から、
『メイド・ワン・ぐらんぷり』の盾をもらう。
そして十万円の封筒を受け取った。
舞台上でニヤニヤしてる子石田純二。
仁香の返事を待っているようであった。
そんな子石田純二に仁香が近寄っていく。
真衣が思わず手を大きく広げて大きく空いた口を隠す。
子石田純二の手には、フェラーリのカギ。
やだ、受け取っちゃうの?と真衣はハラハラドキドキである。
「ガラスの靴をとりにおいでよ」とカギがブラブラと揺れている。
子石田純二はにやけ顔で自信満々である。
フランクミュラーの時計がチラリと見える。
と、いきなり仁香は子石田純二のピンクのカーディガンを握りしめ、持ち上げる。
背の低い子石田純二はつま先立ちになる。
「どうして、ピンク推しなのよ」とさらに首を締め上げる。
「仁香の推しなら、赤のカーディガンでしょ‼」とそのまま背負い投げで床に叩きつける。
「せおいなげ~」とIKKOの真似をする。
「どんだけ~」と指を揺らす。
会場のみんながスタンディングオベーション。
「かっこいい!」と真衣の目はハートマークになっている。
「東京にライバルがいたみたいね」と黄色の咲稀が肩を叩き、「今日は私のタコ焼きを食べて帰りなよ」と言う。
「私の次に可愛い子を見つけたわ」と真衣はニコニコしている。
その日、メイドたちの控室にはうまい棒の箱が十万円分積まれていた。
「どうして全部タコ焼き味なのよ」と遥が文句を言う。
「だってパッケージが真っ赤のうまい棒って、タコ焼き味だからね」と仁香はうまい棒と一緒に自撮りをしてる。
「タコ焼きをかっ食らってやりました」とうまい棒に仁香は噛り付く。
「どうしてなんでも箱買いしちゃうわけ?」と遥は呆れる。
在庫の山を思い出すじゃないの。
「じゃあ…、大食い動画、撮りましょう」と佳奈美が言う。
「十万円分うまい棒を食いきるまで帰れまテンよ」と佳奈美がカメラをセットし始める。
「えっ、これ全部食べるの?」と遥の顔が曇る。
「さあ、始まりました。司会は緑担当ぴよりが行いたいと思います」
みんなはうまい棒を食べ始める。
「おいしい」と仁香がニコニコしながら声をあげる。
「さあ、十五分たちました。みんなの手がすっかり止まってしまいましたね」
「もう、無理」と佳奈美の手が止まる。
「まだほとんど残っていますが、この動画、編集で面白くなるんでしょうか?」
「やだ、味変したい~。味変しないと、ひとちゃん、おなかいっぱい~」とギブアップ。
「さすがは若手です。ジュリアと愛季ちゃんはまだまだいけそうですね」
遥はうまい棒を叩いては、ネズミのようにちょっとずつ食べていく。
「おっと、ジュリアと愛季ちゃんの手も止まりました」
「ぴよりも食べなさいよ」と仁香。
「私の大好きな仁香さんから言われたので、私も参戦したいと思います」とぴよりはうまい棒を食べ始める。
「さあ、大食い動画も佳境になってまいりました」と仁香が司会をし始める。
「気が付くと、もう、あと二、三本になりました」とテーブルの下を見ると、うまい棒がいっぱい落ちている。
完全なる不正行為である。
「ラスト、一本、遥が手に取りました」
遥は相変わらずネズミのようにちょっとずつ食べていく。
「そして今、完食しました」と仁香は床に散らばったうまい棒を映してる。
「なんでしょうか、あれは…」
遥はすっかり間食し終えた演技をしている。
「結局何本食べたんでしょうか?佳奈美が数を数えています。一本、二本、三本…」
佳奈美はごみ箱にうまい棒の袋を投げ入れる。
「二十三本で終わりみたいです」と仁香はずっと床のうまい棒を映している。
「残りはスタッフが食べるつもりです」と仁香は動画をしめた。
「だから言ったじゃないの。箱買いするなって」と遥が切れる。
「だって、仁香、赤いのが好きなんだもん」と両手をあごの下に添える。
「モン、モンって、くまモンか」と遥がキレる。
「だって、仁香は可愛いモン」と仁香が言うと、
「そうだね、お前が一番可愛いよ」とピヨリが低い声を出して、仁香を誉める。
「うまい棒を食べてる間、ずっと仁香の唇だけを見つめてた。その口にチューしたい」とピヨリが言うと、
「やだ、本当のことばかり言ってる」と仁香はニコニコである。
真衣たち大阪組は全員で、タコ焼き機を使ってタコ焼きをつくっていた。
「メニューはタコ焼き」
「今日はタコ焼きパーティね」と咲稀がタコ焼きを山のように皿に乗せて現れる。
「肝っ玉かあさん‼」と真衣は咲稀に擦り寄る。
「食べ物をねだる時は甘えん坊さんなんだから」と咲稀は真衣の頭を撫でる。
真衣は猫なで声をあげながら、タコ焼きをねだる。
咲稀がタコ焼きを真衣の口に。
タコ焼きを頬張ってる真衣が突然、飛び上がる。
そして口から火を吹いた。
「からーい‼水水」と大騒ぎをしている。
「ロシアンタコ焼きの刑だよ」
真衣は口をひたすら手で扇いでる。
「私のこと、胃袋を掴む悪い女だって言いふらしてたでしょ」と咲稀は笑う。
「腹黒だ」とピンクの咲良が毒を吐く。
「来年こそは優勝しようね」と咲稀は不敵な笑みを浮かべる。
つづく