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「ポロリス」という曲を歌い終えて袖に戻ってきた真奈美にくるみは、
「今からポロリス星に戻るんか?大変やな…、終電間にあへんで」と言う。
「ポロリスじゃなくて、ポラリス。何度同じこと言わせるの、南十字星のことよ」
「今日もポロリ無しやったな」
「だからポラリスだって言ってるでしょ」
「ポロリス星から来たんだっけ?ポロリス星って広島のどこにあるんやろ。一度行ってみたいなッ」と馬鹿にするように言う。
「ポラリスは松田ドームの側にあるみたいよ」
「へえ…。そういう設定なんだね」
「なあーんだ、知らなかったの?それって人生の半分、損してるわよ」と真奈美にスイッチが入った。
完全なる仕事モードに突入である。
「私たち、ポロリス星から広島風お好み焼きを広めるために舞い降りた天使、『メイド・イン・中国』。オムライスの代わりにお好み焼きにハートを描くわ」と多分メイド喫茶でやってるであろうポーズをきめる。
なんという職人魂。
よくあんな恥ずかしいセリフを堂々と。
さすがとしか言いようがない。
遥は感激のあまり涙していた。
職種こそ違え、尊敬しちゃうと遥は真奈美のことをじっと見つめた。
「この前店に行ったら、休みだったろ」とくるみはボソボソと言う。
「美乃梨から聞いたよ。来てくれたんだって」
「真奈美だって、うちの店に来たらしいな」
「そりゃあ、大阪に行ったら顔出すに決まってるよ」と二人はハイタッチ。
と、仁香が遥の顔を覗き込む。
「やだ、泣いてるの?遥。顔が変だよ」
「しょうがないじゃない。産まれつきなんだから」と遥は涙を拭いた。
「まいどまいど」と腰を落として、大阪五人組が登場である。
みんな五色のメイド服を着ている。
「関西代表、おなじみ、メイド喫茶『虹色横恋慕』の五人組の番です」
キャラがかぶってると遥は思った。
うちは六色だから一色多いけど、よく見ると似たもの同志じゃないの。
遥は五人を袖から見ている。
これって、なんか見たことある。
子供の頃から洗脳されている色。
虹色って言うけど、虹じゃない。
なんだっけ?
そう、日曜日の朝の匂いがする。
レンジャーシリーズやプリキュアの配色だ。
そう言えば執事動画の中にもプリキュア風のがあったっけ…。
あの動画見て、プリキュアを思い出さない女子はいない。
子供の頃必ず通る道。
男の子は仮面ライダーやレンジャーシリーズ。
女の子はプリキュア。
どの世代にも懐かしさを思い出させる色遣い。
私たちはただ執事たちの物真似で色分けしたと思ってたけど、執事のドリーはそこまで考えて色分けしていたのね。
遥は改めて執事ドリーの戦略に感嘆するしかなかった。
「スターダストみたい」と佳奈美が遥の隣りで笑いながら呟いた。
「スターダスト?星屑?」
「桃色クローバーZみたい」
「物まねクローバー?」
ここは知ったかぶりをしておかないと、また佳奈美田敦彦の授業が始まっちゃう。
「本当だ。クローバーみたい」と遥が言うと、へへへと佳奈美は笑う。
虹色横恋慕は腰をかがめて、手を叩きながら、
「メイドおおきに」と全員が挨拶をする。
ダジャレ?
出落ちがダジャレ。
大阪人だ、やっぱり。
「大阪代表、粉もの大好き。五人組。大阪に来たら、立ち寄ってーや、浪花の『虹色横恋慕』」と五人は挨拶する。
「みんなにあげるよ、飴ちゃんを。咲良」とピンクの服。
サクラだからピンクなんだろうか?
「串カツ大好き、香蓮。でも二度づけは禁止やで」
アニメ愛を語った緑である。
「何でも値切りまっせ、真衣」
青って誰かに似てると遥は思う。
そして隣で舞台を見ている仁香を見て思った。
ああ、仁香と同じ匂いがするんだ。
「でも私の可愛さは値切りまへんよ」
仁香は、「ねえ、あの背の高い子。私の次に可愛くない?」と言った。
「ほんとだ、ひとちゃんと同じで可愛いです」と愛季が言うと、
「そんなことないよ。愛季ちゃんだって私の次に可愛いよ」とおでこを指ではじく。
結局仁香はいつも一番なんだ。
「でもあんなに可愛いのに、なんで私と同じ赤じゃないのかな?青って戦隊ヒーローものじゃ二番手だよね」
「それは仁香がナンバーワンだからじゃないの」と遥が言うと、
「やだあ、遥、本当のこと言わないでよ」と仁香はキャハッと声をあげる。
すごい、キャラかぶり。
「タコ焼き、お好み焼き、粉もの大好き、咲稀」と黄色い服の女が自己紹介をする。
あっ、この子がまいまいが注意しろって言ってた黄色ね。
胃袋つかまれるって、フリッツフォンエリックみたいなストマッククロ―の使い手だろうか。
「私服はヒョウ柄、新世界担当くるみ」と紫。
伝説の吉本芸人のクルミ・ミルクってあの子のことなのかな?
確かに喋りは芸人っぽいし、見た目の割には大御所風に見えるし…。
と、曲が終わる。
いけない、全然聴いてなかった。
ハニワがうんちゃらとか歌ってたような…。
聴いたことない曲。
と、舞台から戻ってきた真衣は遥に近寄ってくる。
「どうや、うちらの歌?」
「上手だったよ、ハハハ」と遥は笑う。
「うちが一番輝いとったやろ」と笑う。
「うん、まぶし過ぎて、サングラスかけようかと思った」
「そやろ、そやろ。難波で一番可愛い子はうちやで。うちは難波ワンガールや」
どっかできいたようなフレーズ。
そうだ、仁香だ。
仁香がいつも私、ナンバーワンガールって言ってるのと一緒だ。
やっぱり似てる。
キャラかぶってる。
「なあ、咲良‼大阪で一番可愛いのはうちやろ?」と真衣はピンクの咲良を手招きする。
「咲良や」と遥に紹介する。
咲良はちょこんと頭を下げる。
「咲良って言ってもカードキャプターさくらのコスプレイヤーやないで。ピンクなのはたまたまや」
しかしよく喋る。息つく間もないほど喋り続けてる。
「大阪弁、喋って可愛いのはうちとカードキャプターさくらの中に出てくるケロちゃんくらいのもんや」
と、仁香がニコニコしながら近寄ってきた。
「やだ、遥。友達?紹介してよ」と真衣を見つめてる。
まるで忍者のように咲良が気配を消した。
「滅茶苦茶、可愛い」と仁香はピョンピョンと飛び跳ねている。
「よう分かってるやんか」と真衣はニコニコしてる。
仁香は手を差し出して握手をねだる。
「なんや、芸能人みたいやな…。サインは勘弁やでぇ。その代わりブロックサインや」と両手をあっちこっちと動かしている。
「おもしろーい。キャハッ」と仁香は笑いながら真衣の隣りに張り付き、スマホを撮りだして自撮りを始める。
すると真衣も自撮りを始める。
そして同時に自撮りのチェックを始める。
「やっぱ、可愛い」と仁香は自分のことを誉める。
「よう分かってんな」と真衣も二人が写った写真を眺めてニヤニヤしている。
きっとお互い自分が一番と思ってるんだろうなと遥は横で見ていた。
その間もずっとカラオケ大会は続いていた。
出番が近づくとさすがにみんなの顔がこわばり始める。
仁香がいない。
また、発声練習?