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「ねえ、また怒ってるんですけど…」と遥は控室に入るなり、佳奈美に抱きついた。

 メイメイは唇を噛みしめ、さっきから貧乏ゆすりをしている。

「何怒ってるのかな?」と遥は佳奈美の背中に隠れる。

「やだ、遥。何、入り口で立ち止まってるの?」と仁香が背中を押す。

メイメイはさっきからするめを噛みしめては歯軋りが響き渡っている。

メイメイの前に大量のスナック菓子の袋が山積みになっていた。

「やだ、先輩」と仁香はメイメイの横に座る。

「太っちゃいますよ」とするめをひとつまみ。

「先輩って太りやすい体質なんですからね♡」と仁香はメイメイの背中を何度も叩く。

「ドリー様が好きだからってそんなとこまで真似しないでくださいよ」と仁香はさらにメイメイの背中を連打。

「魔人ブウになりますよ」とケラケラ笑う。

それを見ながら、佳奈美と遥は手を握りあい、

「イライラバロメーターが上昇中」と心配げである。

「暗いぞっ」と仁香はメイメイの頬っぺたを指で突っつく。

「つんつん。なんちゃって」と笑う。

メイメイは目の前のポテトチップスの袋をバンと叩く。

遥はその音に驚いて飛び上がる。

「やだ!ウケる」とキャキャッと仁香は笑う。

 メイメイは次々にポテチを食べまくる。

「そんなに食べたら、アンパンマンになっちゃうぞ」と仁香はメイメイの頬っぺたをさらに突っつく。

するとメイメイは急に立ち上がり、

「なんなのよ、この控室!」と壁を叩く。

壁一面に仁香のポスターが貼ってあった。

「真っ赤っかじゃないの」

「だって可愛い私を飾りたいでしょ」

「赤すぎて目がチカチカするわ」

「どうして。右を見ても左を見ても可愛いひとちゃん。天井を見てもひとちゃん。テーブルの裏だって可愛いひとちゃん。嬉しくないの?」と仁香は自分の顔写真の内輪で顔を扇ぐ。

「嬉しくないわ」と仁香のポスターを破るメイメイ。

ポスターを破ると、その下からまた仁香の顔が現れた。

「ポスターを破ると目の前にひとちゃん」と仁香はポスターの顔の横で両手を広げてる。

メイメイは次々にポスターを破るが下から仁香の顔が現れる。

遂に諦めて息切れ。

「この部屋可愛くない?」と仁香は笑う。

 メイメイは山積みになった段ボールに手をおいて、

「どうするのよ。この在庫」と叫ぶ。

控室中に溢れんばかりの段ボール。

全て中身はメイドグッズである。

「全部、売れ残りよ」とメイメイが叫ぶ。

「まあまあ…、そのうちなくなるから」と仁香は電話をかけ始める。

「あの…、クリアファイルを1万枚追加でいいですか?」

 メイメイが鬼の形相で近寄ってくる。

「そう、赤色のひとちゃんが不足してるから」

と、メイメイは仁香のスマホを取り上げる。

「今の注文、キャンセル」と電話を切る。

「やだ、嫉妬ですか。私のグッズが売れるから」

「売れ残ってるのよ、グッズは…。この在庫の山見て気づかない?」

メイメイは仁香を睨みつける。

控室は段ボールだらけで押し潰されそうである。

「何やってるの、みんな?頑張んなよ」と仁香はみんなの顔を見る。

 〈えっ?私たち〉と佳奈美は思った。

「仁香!」とメイメイは体を震わせている。

「ほんと、みんなの在庫のせいで私の可愛さが広まらないじゃない」

「仁香、あなたのグッズが一番売れ残ってるの」

「ええ?そうなんですか…?」

「そうよ」

 〈ああ、追い詰められちゃった、仁香〉と佳奈美は思う。

「私のグッズ、種類が多いからかな?」

「大体、何?八割が仁香のグッズじゃないの」

「そっか、それでか。私のグッズが売れ残るはずないのに、おかしいなと思ったんだ」と仁香はぺろりと舌を出す。

「じゃないわよ。メイドグッズはほとんど売れてないのよ」

 〈ひとちゃん絶体絶命〉と佳奈美。

「えっ。そうなんですか?オンラインショップに人が集まってないんじゃないですか?」

「そうよ。全然よ」

「じゃあ宣伝してください。先輩のSNSで呼びかけてください」

 〈ここでまさかの反撃ひとちゃん〉

「なんで私が…」

「先輩は曲がりなりにもトップユーチューバーなんですよ」

トップユーチューバー…、まあ、それなりなんだけどね…。

〈ああ、ひとちゃんの褒め言葉に酔いしれちゃってる〉

メイメイは満更でもないという顔。

「開封動画をあげてください」

「開封動画?」

「仁香だらけの部屋で、ひとちゃんTシャツを着て、ひとちゃん缶バッチをつけて、赤いサイリュームにハチマキ、真っ赤な法被を着て、内輪で顔を扇ぎながら、一袋五枚入り千円の生写真の封を切って、可愛い仁香の写真を開封してください」

「そうしたら完売するわけ?」

 〈どうしちゃったの。完全に言いくるめられてる〉

「当たり前です。私、可愛いんで」と仁香は仁王立ち。

「分かったわ、動画あげる」

〈遂に折れた。勝者、ひとちゃん〉と佳奈美は仁香を見つめる。

天然の悪女だ。

「可愛い子に金を惜しんではいけません」

「仕方ないわね」とため息をつく。

すると仁香はスマホで電話。

「さっきの注文…。そう、クリアファイル。あと、パーカーも追加して…、そう、赤を千個ずつね」

「売れるの?」と佳奈美が遥に耳打ちした。

「さあ?」

「これ以上部屋が狭くなると困るよね」


「働けど働けど我が暮らし楽にならざり」とメイメイの爆食は止まることがなかった。

「何、啄木しちゃってるんですか」と仁香はメイメイの横に座って、つまみ食い。

メイメイは完全なるノイローゼであった。

「今月も来月も再来月も給料はありません」とメイメイが言った。

「どうして?」

「グッズの経費分、みんなの給料から天引きさせてもらいます」

「何、やってるの。みんな、頑張ってグッズを売ってよね」と仁香はふくれっ面。

「仁香のグッズが一番売れてるんだからね!プンプン」と仁香は頭の上に指をたて鬼のポーズをする。

開封動画のせいもあってか、仁香のグッズが数ではわずかだが一番売れていた。

とは言え、売れ残りの数も仁香グッズが一番である。

「遥。あなたのグッズが一番売れてないわよね」と仁香は鬼の形相である。

一番在庫が残ってるのは仁香である。

「もっと頑張って」と遥を睨みつける。

「頑張るって何を頑張れば…」と遥は声が小さい。

「土下座動画をあげちゃって!イェーイ‼」と仁香はノリノリで、スプレーホーンを鳴らす。

 そして仁香はケラケラ笑う。

「そうだ、ひとちゃんホーンをつくりましょう。ホーンの色はもちろん赤。スプレー缶に私の顔写真を貼って、ライブで鳴らすの。いいわ。盛り上がるわ」

仁香は再びスマホで電話をかける。

「……そう、そう。あと、真っ赤な羽ショールが欲しいし、ミラーボールも欲しいわ」

「バブルですか?」と遥。

「そうね。バブル動画をあげましょう。ジュリ扇をもってジュリアナ東京」とメイメイが言うと、仁香がホーンを鳴らす。

「ユーロ―ビートよ。エイベックスサウンド満載の動画を製作しましょう。みんな、バブリーなファッションで売れ残りグッズを売りまくるのよ」とメイメイは目を輝かせた。

 〈そんなにうまくいくのかな〉と佳奈美は心配になる。


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