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「バカだな………。お前のことを俺が一秒たりとも忘れたりするものか。一日中お前のことで頭がいっぱいなのに………」
ふぅーとメイメイはため息を漏らす。
たまんない。
ハートをロックオンされた。
ドキドキバロメーターが上昇しまくりだ。
毎日毎日、ドリーの動画を連続再生している。
もう一日中メロメロである。
「一日中なんて信じられないって?」
スマホの中のドリーをじっと見つめるメイメイ。
風呂に入っていても、食事中も、音だけでもドリーの声を聴いている。
「夢の中でもお前と一緒なんだぞ。俺の二十四時間はお前でいっぱいだ」
「はああああーーーー」と長い溜息を漏らす。
ほんと、素敵。
こんな動画をいっぱいあげてありがとうございます。
頬をひっぱたいて口をきいてない。
仕事中何度も顔を合わす。
しかしいつも真顔で、何もなかったかのようにお互い振舞っている。
あの日告白しようと思った自分。
でかした、自分。
あの日告白しなくて正解。
中途半端に告白してフラれたらもっと気まずかった。
告白なんかしなくてもこうして毎日愛を囁いてくれる。
これで十分心は満たされる。
もし想いが伝わったとしても動画のような言葉を囁いてくれるはずはない。
そんなの本当に目の前で囁かれたら失神しちゃう。
2・5次元最高。
私が欲しかった以上のモノを提供してくれる。
もちろんメロメロになっているのはメイメイだけではなかった。
執事動画はメイドたちの間でも大ブレイク。
休み時間にお気に入りの動画を連続再生している様子が当たり前になっていた。
そうなるとそもそもなんで再生数を争っているんだろうと誰もが思い始めていた。
再生数を抜かれないようにと焦ってるのに、その再生数に貢献しているのはメイド自身である。
執事動画の一番のファンがメイドたちなのだ。
メイドの控室に戻ってくるたびに、はあーと息を吐き、「危ない、危ない、もう少しで失神するとこだった」と遥。
「私も」とピヨリ。
「そりゃそうよね。目の前にレッド様がいるんだし………」と遥。
「目で追いかけたい衝動を抑えて仕事を続けるのが大変」と、胸を抑えて、仁香は息を整える。
「分かる、分かる」とピヨリ。
「ほんと、ブルー様もかっこいいし」と遥は箱推しである。
「私はやっぱイエローちゃんね。あの可愛さ、国宝級」と仁香は顔を真っ赤に染めている。
「分かるー」とみんなが控室に戻るたびに興奮し、大騒ぎである。
ずっと一緒に仕事をしていたはずなのに、いつの間にかメイドたちの間でもアイドル並みの人気者になっていた。
とともに指揮が下がり、どうして執事と競っているのと言う声が出始めていた。
「なんで執事と競わなきゃいけないの」と遥は文句を言う。
「嫌われるだけだし………」と仁香は口をとがらす。
「そうよ、むしろこんなに近くにいるのに敵対する意味ってなくなくない」とピヨリ。
「もう側に立つだけでわたしなんか眩暈がしそう」と遥は息が荒い。
いくらメイメイが引き締めに入ってもメイドたちの不満は増すばかり。
「朝早くから歌のレッスン」と遥は渋い顔。
「でもこれはこれで楽しくない」とピヨリ。
「楽しい」と仁香ははしゃいでる。
「でも執事たちと競い合っているのって嫌じゃない」と遥。
「仲良くなりたいよね」と仁香はイエローの応援グッズであるタオルを抱きしめる。
「こんなに側にいるのに、ワイワイ、キャーキャーしたい」と仁香はタオルに顔を埋める。
「アオハルしたいよね」とピヨリは拳を握りしめる。
「直談判しようか」と遥。
うんとみんながうなづく。