30
そうなると、誰もが思う、ドリーのユーチューブチャンネルは再開しないのかと…。
ドリーにしてみればコスプレーヤーとしての活動と、執事の活動は別のものという気持ちがあり、それほど力を注ぐことはなかった。
インスタグラムにおしゃれな写真をあげることをメインに、ユーチューブはフィットネス動画程度に抑えていた。
それはかつてのコスプレファンたちを失望させた。
ところが今度は戦隊ヒーロー風フィットネス動画が面白いと、おしゃれ女子の間で人気が爆発し始める。
ドリーにしてみればそれは予想外な展開であった。
それほどユーチューブに興味があったわけではなかった。
インスタでおしゃれ女子と呼ばれる快感の方が、オタクと呼ばれる屈辱感より、満足度が高かったのだ。
ただ本当のおしゃれ女子に変身するには、かなり高いハードルを越えなければいけなかった。
根がガチオタなのだ。
ファッションに興味があるわけじゃない。
コスプレ衣装に興味があるだけである。
この温度差に違和感しか感じていなかったのだ。
ファッション誌を買ってペラペラめくる日々。
ため息の数ばかり増えるのだ。
トレンドの波に乗るより、スチームパンクに心は踊る。
流行のファッションが一転、トランスフォーム。
頭の中は機械仕掛けのファッションショー。
アニメイトに行きたいくせに、ぐっと我慢をしなければいけない自分。
原宿を歩いてそうな自分。
スナップショットを撮られそうな服選び。
今自分はアニメの推しキャラの服を選んでいるだけだと、流行の服を試着して、写真を撮り、それをインスタにあげる。
「今年のトレンドを取り入れてみました」というメッセージ。
ああ、こんな心にもないことを書いてる自分。
おしゃれ女子と呼ばれる苦しみ。
そしてギスギスしている執事たち。
原因はメイドたちが一気にトップユーチューバーになりあがったことにある。
その一部をドリーが手助けしていることは他の執事たちも当然気が付いていた。
なのにドリーは登録者数とか、再生数なんかにはまったく興味を見せていない。
「メイメイをゲストに迎えろ」とか、
「もっと再生数をとりに行け」と口うるさい。
みんなをまとめるはずのレッドがユーチューブ配信を始め、みんなにも強要した。
「うちにはドリーという看板娘がいるんだ。みんなで乗っかるしかないだろう」と力説する。
一番やる気になっているレッドは、普段お嬢様の側にいられることを利用して再生数をあげる。
執事たちがそれぞれバラバラに再生数を競い合うようになり、レッドはドリーにも配信を増やすことを求めるようになる。
そして再生数による格差がジリジリと浮き彫りになっていく。
再生数が伸びないグリーンは八つ当たり。
毎日再生数に一喜一憂。
ライバルはメイドだったはずなのに再生数が執事同士の競い合いになり、最悪の空気感になっていた。
ドリーは再生数こそ一番であったのだが、少なくともコスプレイヤー時代は楽しみだったはずの動画配信が、苦しみでしかなくなっていた。
ドリーは完全に鬱になりかかっていた。