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竜ケ崎は完全に吹奏楽部のメンバーになってしまったようだ。
そもそも竜ケ崎はももち浜学園吹奏楽のレベルの低さから軽音部に入部したんじゃなかったっけ…?
いや、そんな話しをした記憶はない。
じゃあ、なんで軽音部に入ってたんだろうか。
誰にも知られてない旧校舎でひっそり部活をしてたのに意味はあるのだろうか?
「どう思う?みゆ」とひとみはたまに人体模型に話しかけてしまう。
返事はない。
それはそうだ、みゆではないのだから。
でもなんで人体模型が動くのだろう。
実はロボット部みたいのが作り出したロボットなのではないかとひとみは思う。
ももち浜学園がロボコンが強いという話は聞かない。
ももち浜学園はありとあらゆる部活動が低レベルなのだ。
全てが一回戦敗退と言っても過言ではない。
競技によっては地区予選の結果が地方新聞の片隅に載るのだが、三行広告より記事が短い。
ちなみに今年唯一、話題に上っているのが陸上競技であった。
瑠々の新聞記事情報だと、かなり期待の持てる生徒がいるらしい。
瑠々にロボコンのことを聞いてみたが、ももち浜学園にそんなからくり人形を製作できる生徒は聞いたことがないと言う。
新聞部の瑠々が知らないのだ、下手すると先生すら知らない可能性もある。
「あなたの動力は一体何?」とひとみは人体模型に話しかける。
もちろんいつもうなづくだけで返事をしない。
考えてみたらロボコン部すらあるのかどうか分からない。
それでも人体模型はひとみにとってはみゆの代わりの話し相手になってくれる大切な存在になっていた。
何を話しても頷いてくれる。
それだけで今のひとみは救われた。
一度カツラをかぶせてみたが、みゆに似ても似つかないし、変に不気味なのでやめることにした。
みゆが事故で死んで2週間が過ぎていた。
ひとみは毎日軽音部で放課後を過ごしていた。
竜ケ崎先輩のいない部室はテナーサックスの練習にはもってこいである。
ジャイアントステップスも日を追うごとにうまくなっている。
弾き終えるといつも人体模型が拍手をしてくれる。
これがロボットだとするとかなりのレベルではないだろうか。
入部した時は人体模型は一階と二階の間の踊り場に立っていたのだ。
人体模型が今はいつも軽音部に座っている。
最近になって人体模型が部室に居座ることが多くなった。
ロボットか…とひとみは人体模型を見つめる。
ふとあることが気になった。
どこかにカメラが仕込んであって、ドッキリ動画でも撮っているのではないだろうか。
ひとみは人体模型の目を覗き込む。
カメラが仕込んでないだろうか?と目を取り出してみる。
精巧なガラス玉にしか見えない。
マイクロチップの印影さえ見えない。
遠隔監視システムか何かが仕掛けられていて…。
竜ケ崎ならやりかねない。
思い返すと漫画を読みながらひとみのことをチラ見していた気がする。
可愛い女の子好きかもしれない。
だとしたら狙われてるかもしれない。
いつもすまして見えるのは逆に怪しいではないか。
竜ケ崎もまた私の可愛さに気が付いている一人なのかもしれない。
だから嫌なのだ。
オシャレをしたらモテモテになってしまう。
瑠々のせいで可愛いさ増し増しになってたじゃない。
どうりであんなに髪型のことをいつも触れると思った。
私の可愛さに心がときめいていたのね。
危ない危ない。
そう言えば先輩のテナーサックスを吹いたことあるじゃない。
間接キスに竜ケ崎先輩も吹石みたいにリードを舐めまわしていたかもしれない。
本当に監視カメラが必要なのは竜ケ崎の方じゃないだろうか。
私のいないところで何をされていたか分からない。
一人きりで数の子先生や吹石先生の物真似の練習をするのはよそう。
ひとみは人体模型の目に向かって手を振る。
「竜ケ崎先輩、見てますか?」とひとみは大声で話しかける。
すると下の階で物音がした。
何かが倒れるような大きな音である。
竜ケ崎先輩かもしれない。
モニターを見てて、椅子から滑り落ちたような音である。
ひとみはティシュを丸めて鼻に突っ込み、「鼻栓、発射」と目に向かって発射する。
人体模型を全く無反応である。
下の階も静まり返っている。
一階で息を潜めているのかもしれない。
まあ、これだけやればきっとネット上に動画があがるに違いない。
鼻栓動画があがれば竜ケ崎の犯行で間違いない。
ネットにあがればネタはあがる。
御用だ、御用だ。
ひとみの妄想が始まった。
十手を持つ岡っ引き姿のひとみが竜ケ崎を取り押さえる。
そして奉行所で藁の上に正座する竜ケ崎。
と、ひとみが現れる。
「桜吹雪が舞う。
犯人を捕まえてくれと、風が叫ぶ。
証拠は揃ってるんだからね。
竜ケ崎先輩!
裁きに下りなさい」
ひとみは竜ケ崎を指さして決めポーズ。
竜ケ崎はうな垂れる。
「一件落着、無事不時着よ。観念しなさい。そうしなさい」
竜ケ崎は肩を落として両手を差し出す。
「捕まえなさい、そうしなさい」
竜ケ崎がサックスを取り出す。
そしてリードを指でひっぱると、サックスの中から鞭が出てくる。
竜ケ崎が女王様姿になって鞭を振るう。
ドロンジョ様のコスプレねとひとみは笑う。
しなる鞭。
鞭がひとみに巻きつく。
ひとみがもがけばもがくほど鞭が肌に食い込んでくる。
「桜吹雪のひとみさんも大したことないわね」と竜ケ崎が不敵に笑う。
「とどめよ」と竜ケ崎が言うと、鞭に電流が流れた。
「ひとみ大ピンチの巻」とひとみは自ら声をあげる。
桜の花びらがいっせいに舞う。
「散りゆく桜は女の花道。さくら、さくら、ちりぬるを」とひとみが口上を読み上げると、後ろのふすまが一斉に空いた。
そこには桜の木が花を咲かせている。
「よっ!」と掛け声が飛ぶ。
すると舞台が反転し、桜の木が目の前に飛び出してくる。
桜の花びらが吹雪となって竜ケ崎に襲い掛かる。
桜の花が舞うことをやめると、縄に縛られた竜ケ崎が現れる。
「召し取ったり」とひとみは竜ケ崎の背中を足で蹴りつける。
小林幸子が空から降臨する。
「これぞ、ひとみ千本桜ね」とひとみは妄想をしめきる。
ひとみはたまごボーロを食べながら、人体模型を眺めてる。
頭を撫でてみる。
やっぱり無反応。
もう一度目の奥を覗いてみる。
竜ケ崎が「これを私だと思って♡」と置いて行ったのかもしれない。
タコは相変わらず折り紙を折り続けている。
パペットなのにきれいに折り紙を折り上げていく。
タコのパペットを手でつまみ、人体模型の目の前に突きつける。
やはり下の階から音がしない。
竜ケ崎先輩め、脅かしてやろうと思ったが無反応か…。
タコのパペットをテーブルに戻す。
するとタコはまた折り紙を折り始める。
もしかしてこのパペット…とひとみはタコを見つめる。
ロボットかな?
折り紙ロボット…。
イグノーベル賞でも狙ってるの?
麗華、李愛、由愛の姿は相変わらず見えないし、やっぱり由愛ちゃんが折り紙を折っているのだろう。
でもなんで幽霊部員の姿が見えなくなったのだろう。
最初は見えたのに…、いつしか見えなくなっていた。
何か理由があるのだろうか。
因果関係を探るも理由が浮かばない。
柚子先生に墨文字を書いてもらいたい。
でも柚子に裸を見られるのも気が重い。
柚子のような危険人物に素肌を晒すのはやはり躊躇われる。
筆を使ってくすぐるかもしれない。
以前試しに自分で墨文字を書いたのだが全く見えないのだ。
妖怪ウォッチが本当にあればいいのに…。
霊視探知めがねみたいなやつを「ムー」の付録につけてほしい。
ひとみはじっと人体模型を見つめる。
これがもしペコちゃんだったら、可愛いのに。
せめてペッパー君だったらと思う。
何でよりにもよって人体模型なの。
リアル過ぎるロボットはちょっとだけ恐怖だよ。
人体模型の横にカエルのケロちゃんがいたのに…。
それに人体君がキュートだったら、由愛や李愛も「きゃわいい」と姿を現すかもしれないのに…。
柚子に般若心経を教室中に書いてもらったらどうだろうか…。
ひとみは部屋中を見渡す。
今度柚子先生に頼んでみようとひとみは思う。