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「ねえ、カラクル」とひとみはグリーンを呼び止める。
そしてマルちゃんの緑のたぬきを手渡す。
「なんですか?これ?」とグリーンはカップそばを手にとってひとみを変な顔で見ている。
「あれ?大好物って言ってなかったっけ?」
と、グリーンは思い出す、この前の続きかと…。
「カラクルって緑のたぬきが好きだったわよね」
「いえ、私は赤いたぬきの方が好きです」
と、ひとみは急に顔が真っ赤になった。
「やだ、そうだったの!」とひとみはニヤニヤしている。
一体何をはしゃいでるんだろうとグリーンはひとみをじっと観察している。
「サフォークが好きだったのね」とひとみはグリーンを何度となく叩く。
えっ?とグリーンはひとみの勘違いに気が付く。
そして顔がカアッと熱くなる。
「違いますよ、お嬢様。私が好きなのは赤いきつねです。そば派じゃなくて、うどん派ってことですよ」
「何、真っ赤になってるのよ」とひとみはグリーンを突き飛ばす。
グリーンはその勢いのままに後ろ回り。
そして服についた土をはらいながら、
「お嬢様、天然にもほどがありますよ。なんで私がレッドのことを好きにならなきゃいけないんですか」
「あら?いい先輩じゃないの。嫌いなの?」
「そ、それは…。尊敬すべき先輩ですよ、そりゃあ…」
「じゃあ、好きなのね」とひとみはカラクルの手を握りしめじっと見つめてる。
グリーンは思わず目をそらす。
「よしてください、お嬢様。あまりにも無防備過ぎです」とグリーンはひとみの手を払い除ける。
「可愛いんですから、自覚してください」とキレ気味に言う。
「あっ‼」とひとみは口をポカーンと開けたまま、
「ごめんね、気が付かなくて…。そうよね、こんなとこ、サフォークに見られたら、誤解されちゃうよね」と頭を下げる。
「よしてください。お嬢様。執事なんかに頭を下げないでください」と大慌て。
「わかってる、内緒にするわ」とひとみは口に人差し指を当てて、「シー」と小声で囁く。
「でも影ながらカラクルの恋を応援させてもらうわ。サフォークも男性が好きだといいわね」と言って、忍者のように忍び足で走り去る。
グリーンは訂正する気も失せていた。
ひとみお嬢様はお仕えした時からド天然だったっけ。
でもそんなところも可愛いところだな。
取り敢えず明日になれば忘れてるだろうとグリーンはこのことに触れないでおこうと思った。
次の日、「ねえ、カラクル」とひとみはグリーンを呼び止める。
そしてマルちゃんの赤いきつねを手渡す。
「差し入れ」と言って、口に指をあてて、「シー」と囁いている。
「いい、緑のたぬきは3分だけど、赤いきつねは5分だからね」
「そうなんですか…」とグリーンは赤いきつねを手に持ったまま。
「焦っちゃダメよ。赤いきつねの方が時間がかかるんだからね。恋も待ち時間が大切よ。焦って告ったりしたら、相手だってビックリするかもしれないからね」
「そ、そうですね…」
と、ひとみは忍者の真似をして、「ドロンするわ」と走り去る。
「あのお…、お湯、ください」とグリーンはひとみの背中に向かって声をあげた。