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執事とメイドのユーチューブ対戦は熾烈を極めていた。

しかし執事もメイドも本業を疎かにすることはなかった。

その点は足利家あっての自分たちという考え方が行き届いていたからだろう。

仕事には全く影響がでていなかったせいで、ひとみは執事とメイドの競い合いに全く気付くことがなかった。

とは言え最近の足利家は少し異様な雰囲気を醸し出していたのは確かである。

その異様さに気が付かないのは単にひとみが鈍感なせいなのかもしれない。

「ねえ、サフォーク」とひとみはレッドに声をかけた。

「はい?何でございますか、お嬢様」

「なんか、夕日がまぶしいわね」

「そうでしょうか…」

「夕焼けのせいかな、いつもよりあなたが真っ赤に見えるわ」

「そうですか…」

「私の記憶違いなんだろうけど…。あなたの服装ってもっと地味だったと思ったんだけど…」

「そうでしょうか。最近はずっとこの衣装ですが…」

「そうよね。気のせいよね。確か子供の頃真っ黒だった気がしたんだけど…」

レッドはその時気が付いた。

ひとみが自分の服装が真っ赤になったことに今気が付いたのだと…。

この服装になって数年もたっているのに全く気が付いていなかったのだろう。

レッドは思った。

ここは話を合わせておくべきだと…。

「お使いした頃から真っ赤ですよ、私のタキシードは…」

ひとみは部屋を見回していた。

明らかに目線は他の執事たちを見ている。

「ねえ、みんなの服装の色だけど…、やっぱり自分が好きな色を選んだの?」

「そうです。お嬢様…」

「じゃあ、あなたは赤が好きなのね」

「そうです」

「じゃあ、野球はカープファンかしら?」

「そうです」

「当たった!」とひとみは喜んでいる。

「じゃあ、待って、魚は鯛が好きなの?」

「はい。そうです」

「また当たった。じゃあ童話は『泣いた赤鬼』が好きなのかな?」

「またまた大当たりです。さすがです、お嬢様。執事の好みを完全に把握してるなんて、感銘を受けました」

「そりゃ、そうよ。これでも当主候補なんだから、家臣たちの趣味趣向はすべて把握してるわ」

「さすがです、お嬢様」

「待って待って、もっと分かるわよ」とひとみは楽しそうである。

「赤でしょう、赤…。ポストが好きでしょ」

「はい、お嬢様」

「やった、また当たった。連続正解中だ。そうか!野菜はトマトが好きでしょ」

「はい」

「待って待って、フルーツはイチゴ。絶対イチゴだ」

「はい、その通りです」

「待って、待って…。ムック?いやあ…、さすがにそれはないか…。エルモの方が好きなんじゃ…。分かった、スーパーマリオが好きでしょ」

「その通りです」

「よっしゃー!」とひとみはガッツポーズをした。

「さすがお嬢様、名推理、そこはムックじゃないんです」

「だと思ったのよね。すごい、私‼」

レッドはなんて無邪気なんだろうとひとみを見つめていた。

時々子供っぽい一面を覗かせるひとみがサフォークは好きだった。

そしてふっと、「可愛い」と恋心を抱いてしまう。

そして、「いけん、いかん。ダメやけん」とそのことを諫める。

と、グリーンが近寄ってきた。

「ちょっと待って、カラクル」とグリーンを呼び止める。

「カラクルの好きなものを当てるね」とひとみは指をおでこに当てて考える。

「カラクルの好きなもの…、ヨッシー…、ガチャピン?まりもっこりが好きでしょ」

「まりもっこり?なんです、それ?」

「あれ?違った?緑だからパクチーが好きでしょ」

「野菜ですか…。どっちかって言うと肉派です」

「じゃあ、シャインマスカットが好きでしょ?」

「ブドウですか?単純に巨峰ですかね」

「じゃあ、なんでグリーンなのよ」とひとみは怒る。

「グリーン?グリーンってこの服の色のことですか?」

「そうよ、緑が好きなんでしょ」

「好きな色は黒です」

「何よ、それ」

「何って?だって黒が一番じゃないですか」

 グリーンの態度にレッドは戸惑っている。

「じゃあ、黒を着なさいよ」

「それ、賛成です。どうして黒いタキシード、やめたんですかね…」

「やめた?黒を…」と考え込んでいる。

「いやあこの際だから言わしてもらいます。元々黒いタキシードだったそうじゃないですか。それを戦隊ヒーローみたいにして、かっこ悪いです」

「えっ?元々黒だったの?」とひとみはレッドを見る。

「もういい、グリーン、あっちに行ってろ」とレッドは追い払う。

「ねえ、昔の写真、見たい」とひとみはレッドにそう言った。

レッドは全ての写真を合成して色を変えて、ひとみに届けた。

その写真を見て、やっぱり、昔っから色分けしてたのね…と納得する。

ひとみはそれで満足だった。

ひとみにとってそもそも執事の服装なんか全く興味がないことであった。

だからこそ色が変わっても気が付きもしなかったのだ。

ひとみにとってみれば疑問に感じたことに答えが出てしまえばそれだけで満足なのだ。

やはり数学脳なひとみ全開なエピソードである。

多分同じ日にみんなの服の色が黒に戻ってもひとみは気が付かないのだろう。

だからなのか、ひとみは執事とメイドが競い合ってることに全く無頓着なのであった。


しかしここに来て、執事とメイドの競い合いが大きな変革期を迎えていた。

意地と意地の張り合いで、雰囲気がギスギスしていた時期もあった。

ところが立場が台頭になり、メイドたちが焦り、執事を毛嫌いするのかと思いきや、そうはならなかった。

と言うのも…………。


「ねえ、今日もドリー様、素敵よね…」と、急にメイドたちの中に執事たちのファンが大量発生し始めたのだ。

特にピンクの人気はすさまじく、メイドたちの中にピンクとすれ違うだけで、

「今日もすれ違いざまに素敵な臭いがしてたわ」とか、ピンクがひとみに紅茶を注いでるだけなのに、倒れそうになるメイドたちが続出していた。

 今や失神しそうで休務室に駆け込むメイドが大量発生していた。

しかも休憩中の部屋ではピンクの動画を連続再生してはため息を漏らすメイドたちが続出し、メイドたちの対抗心も下がり気味になっていた。

「どうしちゃったのよ…」とメイド長のメイメイも、その変貌ぶりに危機感を抱いてる。

メイメイにしてみれば急激に執事たちに追い上げられている身である。

今となっては強気なセリフを吐いたことを後悔し始めていた。

あれほど強気のレッドが弱みを見せていたせいでついつい調子に乗ってしまったのだ。

一時的とは言え、ピンクのことを侮ってしまった。

本気のピンクがどんな相手かと知っていたのだ。

メイメイとピンクとは今も昔も仲良しであり、オタ活仲間でもある。

今になって思うことは、ピンクをメイドグループに取り込んでおけば良かったということである。

そうすれば圧倒的メイド有利の状況が覆ることはなかったであろう。

一度だけピンクにメイドグループに移りたいと相談されたことがあったのだ。

そもそも男子が苦手で男装執事のアルバイトをしていたピンクである。

本当の執事道を極めるために足利家に奉公したものの、男社会の執事業界にピンクは戸惑いを感じていた。

そして相談相手になっていたのがメイド長のメイメイである。

もしピンクが足利家でメイドとして勤めだしたら、本来の執事カフェのドリーにも会えなくなるかもしれない。

それだけは避けたかった。

メイメイにとって執事カフェのドリーは仰ぎ見る存在で、推しメンなのだ。

そんな推しメンを引退に追い込むわけにはいけない。

間違ってもメイドカフェなどに転職してほしくない。

男が苦手なメイメイにとっては男装の執事ドリーは永遠の憧れであり、唯一大好きな男性なのだ。

それ故頑なまでにドリーがメイドになることを拒絶した。

それはまるでメイメイがピンクを避けているかのように見えたかもしれない。

「何のために福岡まで来たのよ。それは本当の執事業を極めるためでしょ。二人、国際展示場で誓い合ったコミケの誓いを思い出して」とメイメイはピンクの手を握った。

ただメイメイは池袋の執事カフェでアルバイトをするピンクのファンであった。

執事カフェでは本名の中江ドリーと名乗っていた。

「庄司様。お帰りなさい」とメイメイを出迎えてくれる。

メイメイにとってそこは癒しの空間であったのだ。

「庄司って呼ばないで、メイメイと名前で呼んで」と何度お願いしても、執事カフェでは庄司お嬢様としか呼んでくれなかったのだ。

だから普通にメイメイと呼んでくれる今の関係は大切にしたい瞬間であった。

ところが今メイメイにとって最大の危機が迫っていた。

自分だけのドリーだと思っていた相手が人気者になることはまったく想定していないことだった。

元々のポテンシャルを考えたのなら予想のつくことだった。

周り中がライバルだらけになるとさすがに嫉妬心が湧いてくる。

このままじゃピンクを独占することも叶わなくなる。

メイメイに新しい悩みが生まれた。


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