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「はい!赤執事のサフォークです」と真っ赤なタキシードを着た長身の男が画面の中で挨拶をした。

「昨日はお嬢様の護衛でオーストリアに向かっておりました」と、昨日の地上戦の様子がダイジェスト映像で流れる。

それはまさにハリウッド映画ばりの映像であった。

誰もがそれが現実に起こった出来事だとは思わないであろう。

どうやって情報を消去したかは謎であるが、ありとあらゆるメディアに事件の報道は流失しなかった。

唯一、赤執事の動画のみが映像作品として世界中に拡散していった。

ザルツブルクの街は一体どうなったのか。

ザルツブルク市民のSNSからも現状を探ることが出来なくなっている。

とんでもないAIがSNS上にあがる関連映像を消去してるのだろう。

そんな中赤執事の映像だけが消去されないというのも不思議な話である。

何者かが意図的に赤執事の映像だけを流布させて、現実に起こった出来事をCG映像と信じ込ませようとしているようであった。

赤執事が人体模型をお姫様抱っこでヘリに向かって走ってくる映像がスローモーションで再生される。

ジョン・ウーが監督しているのではと書き込みが多々見られる。

後ろの方では爆薬が破裂して炎があがってる。

ジェット機に乗り込む赤執事の映像。

赤いタキシードはカズレーザーのようであるが、顔はガクトよりである。

映像にはひとみの姿はまるっきり映っていない。

カッコよく敬礼をする赤執事。

映像は五分ほどに編集されてユーチューブにあがっていた。

「なんだよ、このナルシスト動画は」と執事仲間が愚痴っている。

その映像はまるでハリウッド級とバズっていた。

たった一日で再生数が500万再生を超えていた。

それまでの最高が10万再生にも届いていなかった赤執事のユーチューブチャンネル。

そこからの大躍進である。


その映像を見ながら、緑執事のカラクルが呟いた。

名前が示すように緑色のタキシードを着ている。

「いいな、レッドだけ………」と唇を噛んでいる。

「妬くな、妬くなよ、グリーン」と黄執事のメリノが言った。

やはり黄色のタキシード姿。

しかし赤も緑も黄色も微妙にデザインが違ってる。

「だってイエロー………、レッドだけってズルくない」とグリーンは愚痴をこぼす。

「我々はお嬢様の執事だ。お嬢様の身の回りのお世話をするのが本来の仕事だ」

 青執事のムフロンが静かな声で言う。

「そして最も身近にいて、護衛も兼ねているのはレッドだけだ」

「ちぇっ、くそ真面目」とグリーンは渋い顔をする。

グリーンが執事としてお屋敷に勤めるようになった時にはすでに四人の執事が奉公していた。

通称四葉のクローバー。

元々みんな黒一色の出で立ちだったらしい。

なんで今のように色分けされたかについてグリーンは聞いたことがない。

 グリーンの青執事の印象は真面目で口うるさい先輩と言った感じである。

 青執事は髪もブルーに染めてるせいで全身ブルーであった。

と、イエローはスマホで動画をグリーンに見せる。

「ブルーはグリーンが思ってるほどお堅くないから………」


「はい!ブルーです」とユーチューブ動画。

「ブルーな執事のけだるさ」というチャンネルである。

「見たことある。ブルーがただ愚痴を呟いてる動画だろ」

「それは相当前だな。今は結構いい感じの動画に仕上がってるよ」

ブルーの登録者数はそれほど多くないのだが、他の執事たちの恩恵を受け、レッド、ピンクについで、三番目である。


「今日はお嬢様のモーニングルーティンをお見せしたいと思います」

ひとみが目覚める。

「背伸びをして、大きなあくび………。アホ毛が立ってます」

青執事はひとみの朝活を解説する。

「変身!」

ひとみがまるでプリキュアに変身するかのように映像が処理されている。

可愛い声の歌が流れ、長靴が突然足に装着されると、キラリという効果音が鳴ったり、手に持った投網がまるでフリルのスカートがヒラヒラ舞うかのように拡がって、星がいっぱい煌めいてる。手に持った釣り竿が魔法のステッキのように輝いて、頭に巻いたハチマキはティアラのように光ってる。そして雨合羽姿のひとみがポーズをきめる。

「あっという間に雨合羽に着替えました」

ひとみがパジャマから雨合羽に着かえるだけなのにCG処理されてキラキラ増し増しの映像に仕上がっている。

「おっと、お嬢様が戻ってまいりました。どうしたんでしょう」

ひとみはUVクリームを手に持ち、

「最後にお嬢様は日焼けしないようにUVクリームをぬってお終いです」

「さあ、今日も朝日が昇る前に軽トラに乗りこんで………」

投網を投げるひとみ。

「今日も大漁のようです」とクーラーボックスを開ける。

「さあ、これから学校です。お迎えはいつだって軽トラ」とひとみの朝活が短く編集されていた。


「この映像がブルーの………」とグリーンは驚く。

レッドと並ぶイケメン執事であり、情に熱い熱血漢である。

面白いことをあまり口にしないつまらない先輩である。

この動画しか知らない人は印象がまるっきり違うであろう。


「というか、よくこんな映像が撮れたな」とグリーンはお嬢様の寝室で撮られた映像にビックリしていた。

 いつの間にお嬢様とそんな関係になったんだと、グリーンは軽い嫉妬を覚えた。

グリーンにしてみればお嬢様はそもそも手の届く相手ではなく恋愛感情さえ持ってはならない存在である。

ピンクならとにかくとあの男っ気の無いお嬢様がブルーを寝室にいれたことが衝撃だった。

「竜ケ崎さんの提供映像だから………」とブルーは言う。

なんだ、そうかとグリーンは少しだけホッとする。

「さすがはお嬢様。三十万回を超えてるじゃないか」とイエローが口をはさむ。

「私の映像処理のおかげです」とブルーは何となく自慢げである。

 それがグリーンには鼻についた。

プリキュアのパクリじゃないかとグリーンは思った。

大体後ろで流れてる音楽にしたって、プリキュアの変身シーンで流れてる音楽と似てるし、歌ってるのはお嬢様じゃないだろう………。どうせ初音ミクみたいなソフトでつくったに決まってる。

「どうだ。自分ナンバーワンのお気に入りの音楽が後ろで流れてるんだ」

「メロディー、そのまま………」とグリーンは呟く。

「変奏だ。プリキュア風のメロディーをあえて使用した」

「つまらないね。わざと効果音もそれっぽくしてるだけだし………」

グリーンは噛みついてく。

「自分のユーチューブにお嬢様を出すってズルいだろう」とグリーンはブルーに掴みかからんばかりである。

「いいだろ、視聴者のみなさんが欲しがってるんだよ」

「なんだよ、そんなに再生数が欲しいのかよ」

「別にそんなわけじゃ………」

「まったくあなたたち、仲良くしなさい」と桃執事のドリーが口をはさむ。

「またピンクの小言だ」とグリーンは完全に気分を害してる。

というのもグリーンのユーチューブチャンネルは圧倒的に人気がないのだ。

グリーンという色担当の立ち位置もあって、足利家の森の散歩動画だったり、大豪邸のエコ活動を紹介していたりするのだが、全然再生数が伸びていない。

燃えないゴミと燃えるごみの分別作業をしてる動画を永遠と映してるだけだったり、面白みに欠ける動画ばかりである。

そんな中十万再生だったり、百万再生だったりという他の執事の数字を見ると嫉妬しかわいてこない。

最近は気分が落ち込むからと他の執事の動画を一切見なくなっていた。

特に気に入らないのがピンクであった。

ユーチューバーとしても知名度ではレッド以上で、インスタではさらに人気者になっている。

そこが気に入らない。

自分が必死に動画をつくっても再生数が伸びないのに、最近のピンクの動画はただ筋トレをしてるだけの動画である。

それが遥か彼方の殿上人なのだ。

おかしいだろう。

執事なんだから筋トレするのは日常ではないかと普通の執事論とは違う哲学を持っている。

「女なんだから黙ってろよ」とグリーンはピンクに突っかかる。

「それは女性蔑視ですよ」とピンクは冷静である。

「戦隊ヒーローにだって必ず女性が混じってるじゃないですか」

「なんだよ、おとこおんな。女ならメイドでいいだろ」とグリーンは日頃から感じてることを口にした。

「その発言、かなりのレベルで許せませんよ。レッドゾーン突破ですよ」

「なんだよ、その表現、オタクっぽいな。池袋に戻ってブサイク女たちを癒してろ!」

「今の発言、日本中の腐女子を敵に回しましたよ」

「どうせ、チームアニメートだろう。家で粘土でも練ってろよ」

「オタクはブスばかりというのはかなり偏っていますよ」

「だってブスばかりじゃん」

「実際にコミケに参加したことありますか?」

「あるか、気持ち悪い」

「行ってみてください。思ったより美形女子がいますから」

「女子の可愛いとか信じられないんだよ。女子に紹介してもらうと嘘だろッと言いたくなる連中ばかりだ」

「どういうトラウマがあるかは知りませんが、良かったら私の友達を紹介しましょうか?」

「遠慮する。話も合わないし」

「そうですか、じゃあー、ナイトプールにでも行ってナンパしてください」とピンクはふくれっ面である。


「なんでお前たち喧嘩してるんだ。俺たちはチームなんだぞ。仲良くしろよ」とブルーが口をはさむ。

突然、レッドカーペットが伸びてくる。

そしてその上をレッドが投げキスをしながら、登場する。

「全くお前たちはなんでそう仲が悪いんだ」とレッドは言いながら、なんとなく決めポーズをしている。

何をしてるんだろうとみんなが疑問を感じてると、

「日本のジョン・ウーの登場だぞ」とジョジョ立ちをしている。

「インタビューがあったら、一人三十秒だけだぞ」とレッドは鼻高々である。

あれだ。あれだとみんなが顔を見合わせる。

「ユーチューブ、再生数二千万回を突破しました」と自分で拍手する。

調子に乗ってる。

間違いなく調子に乗ってるなとみんなは再び顔を見合わせる。

「いやあー………、昇りつめたな………」と自分に酔いしれていた。

と、四方からスポットライトが当たる。

わざわざ雇ったの?とピンクは呆れる。

「BTSの背中を捕えたな………。あとは超えるだけだな」とため息をついた。

「しかしこのままあっさりBTS越えしたら目標を見失うな………」と。

酔ってやがる。

間違いなく勘違いしてる。

みんなが呆れているのに、赤執事は、

「で、なんでお前たち、揉めてるんだ」と言う。

「お前が原因だろ」とピンクはレッドに蹴りをいれる。

「元はと言えばレッドのせいだろ」とグリーンが言うと、

「そうだ、そうだ」とイエロー。

「なんで俺様なんだよ」とレッドはなぜ険悪な雰囲気になっているのか理解していない。

「一人だけいつもバズって面白くないんだよ」

「そうだ、そうだ」

「なんだ、そんなことで揉めてたのか」とレッドは笑ってる。

「勝者の余裕ってやつかな………。いや、敗者の戯言か………。お前らはまだ敗者だから揉めるんだ」

「悪かったな、敗者で」とグリーンが声を荒げる。

「イエローは大食い動画をあげても十万回もいかないのにね」とピンクは軽い気持ちで言ったのだが、イエローはムッとした。

「そうそう。ピンクなんかムキムキになるフィットネス動画をあげてるのに、再生数はパッとしないし………」とイエローが反論する。

「私はインスタで頑張ってるから」とピンクは不満げである。

「大体なんでいつもレッドなんだよ」とグリーンはモゴモゴと呟く。

「それはしょうがない。俺様が一番イケメンだからだ」とレッドは悪びれずに胸を反らす。

「はあ?俺の方がイケメンだ」とブルーが声をあげる。

「正直どうなの?」とイエローがピンクに聴く。

「私的にはみんな低レベル。初めてレッドに会った時はリアル黒執事だと思ったんだけど………、最近はそうでもないかな………」

「そんなもんなんだ」とイエローはレッドをじっと見る。

「最低でも佐藤健であってほしいし」

「贅沢。鏡を見ろよ」とグリーン。

「結局ピンクは流行りに流されやすいってことだな」とレッドが言う。

佐藤健よりはイケメンだとレッドは思っていた。

「レッドって私的にはちょっと古いのよね。平成っぽい………。令和じゃないのよね」

「ああ、もうやめだ」とレッドが一喝する。

「チームが一つにならないと大切なお嬢さまを守れないだろう」とレッドは懐中時計を見る。

その仕草はレッドの癖みたいなものである。

いつも時間に追われてます的な印象を漂わせたいようで、自分ではかっこいいと思っているらしい。

ピンクにはそれが不思議の国のアリスに出てくるウサギに見えてしょうがない。

ディズニー映画では、「忙しい、忙しい」と大きな懐中時計を持っているウサギは赤いタキシードを着ている。

ピンクは秘かにその仕草を見てはニヤニヤしてしまう時がある。

そもそもレッドに赤いタキシードを着せようと思ったのも、時計を見る癖が発想の源であった。

 レッドはサッと右手を前に出し、「じゃあ全員で一つの映像を撮ろう。そうすれば再生数で揉めることもないだろう」と言う。

「えっ?面倒くさい」とピンクが思わず声にした。

「いいか、俺様がトップユーチューバーになれば当然お前たちにだって恩恵が舞い降りる」

「そんなものなのか」と急にみどりはレッドの話に食いついた。

「そりゃそうだろ、俺たちは仲間なんだ。みんなで上にあがっていこうぜ」とレッドは拳を突き上げる。

「日本のスピルバーグが言うんだ」とスピルバーグに変ってる。

グリーンとイエローはすぐさまレッドの手に手を重ねる。

するとブルーも手を差し出す。

仕方なくピンクも手を合わせる。

「五人そろって動画をつくるぞ」とレッドが言うと、みんなが「おおー」と言う。

 ピンク一人だけ渋い顔をしている。

ピンクは思った。

ああ、どうしてタキシードを色分けしたんだろうと………。

「俺たち、アベンジャーズだ」とレッドが言う。


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