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ひとみは相変わらず暇を見つけてはライン引きで魔方陣を描いてる。

しかし一日が終わるとせっかく描いた魔方陣は消えている。

ペンキで描いた絵は消されないのに、運動場とかに描いた魔方陣は体育の授業や部活のたびに消されてしまう。

これではいたちごっこである。

これといった改善策を思いつかないまま、ひとみは使命感から魔方陣を描き続けていた。

するとたまに李愛や由愛が魔方陣の中から出られなくなってもがいてる。

捕まるのは悪霊だけとは限らないようである。

それを救出する手間が増えてしまった。

しかしれいちゃんだけは罠にかからない。

なぜだろうと考える。

幽霊部員の中で唯一、女神なのは麗華だけである。

神様は罠にかからないということだろうか。


ひとみは魔方陣を描きながら、バスケットをする木本を見ていた。

木本の手は次の日には生えていた。

もちろんロボコン同好会が義手に変えたせいであろうが、その手が義手だと分かる人はあまりいないのではないだろうか。

木本のプレイになんら変わるところはなかった。

むしろ機械化したことで握力も増え、パワーも増えてるかもしれない。

だとしたらドーピングになりはしないだろうか。

シューティングの精度は元々かなり高かったのだが、あの日以降、シュートを外しているところを見ていない。

3ポイントシュートがどんどん決まる。

やはりこれは問題だ。

機械が人間の能力を超えている。

パスはボールを見失うほどに早く、ボールにとんでもないスピンがかかったりしてる。

ドライブシュートに関しても3ポイントなのに、まるで軌道を無視したようにその方向を変え、ゴールに刺さってる。

ボールは右へ左へ上へ下へとまるでドローンで操作しているかのように曲がってく。

ちょっといくら何でもやり過ぎだ。

さすがに疑問を持たれ試合中に審議にかけられるだろう。

そして義手と分かれば失格になりかねない。

進み過ぎた技術はやっかいだ。

これではパラリンピックにしか出られまい。

いや、義手になった時点で普通の試合に出られないのでは………。

ひとみの横にロボコン同好会のシュン君とロビンが立っていた。

パソコンを叩きながら、木本を呼んだ。

シュン君がSDカードを義手に差し込んだ。

木本がバスケットをすると、限りなく元々の技量に戻っていた。

力を制御し微調整をしているのだろう。

そこはルール違反にならないように以前の能力に戻す作業をしているようだ。

しかしたとえ元通りになったとしても、果たして義手であることを隠して試合に出れるのだろうか?

これは問題になりそうなじたいである。

とはいえまだまだ技術は優勝を狙えるレベルではない。

それに部員も四人だ。

公式戦にも出れない。

それならここは目をつむってもいいんではないだろうか。

それこそ優勝を狙うレベルとかでもないのだ。

今のままじゃ試合にも出れないだろうし、出たところで勝ち上がっていけば当然ルール違反という高い壁にぶち当たる。

もちろん木本が出ないという選択もある。

木本をのぞいて五人になれば試合には出られる。

ここは静観する方がいいのかもしれない。

しかし木本が無敵になっていたせいなのか、さらに他の選手たちの技術もあがっている気がする。

上手い人と練習すると技術が向上する。

それを彼らは実感しているのかもしれない。

木本がシュンの元に駆け寄り、「さっきのスーパーマッスルシステムに戻してくれ」と言う。

ひとみは思わず吹き出した。

何というネーミングセンスの無さだろうか。

「分かった!じゃあー、さらにスペシャルなエクセレントスーパーマッスルシステムをインストールするよ」と、シュンは木本のSDカードを取り出して、SDを書き換えている。

それはズルするつもりではないと信じたい。

全体の技術の向上。

これが木本の狙いであろう。

ロビンが木本に眼鏡を渡す。

「なんだい、これは?」と木本が眼鏡をじっと見る。

それはいわゆるロイド眼鏡というやつだ。

しかもフレームが太い。

丸眼鏡でもかなりダサい感じの眼鏡である。

「それは人の動きを感知し、どういうルートを選択すると一番得点に結びつきやすいかという道筋を支持してくれる眼鏡だ」

「なるほどね」と木本は眼鏡をかける。


ひとみは魔方陣を描きながら、バスケット部のことが気になってしょうがなかった。

毎日毎日シュンとロビンがいる。

ということは毎日、義手の精度を調整しているのは間違いない。

「ロボコン同好会に任せて良かった。腕を失くした時は絶望したが、希望が出てきたよ」

シュンは無言で頷いている。

無口なのだろうか、それとも喋ると体力を消耗するからだろうか………。

「あの眼鏡は最高だな。自分が今どこにいるべきか、仮想の自分が先回りして動いてる。俺はただその影を追いかけるだけで知らず知らずのうちに最高のポジショニングが身についているよ」

木本が日々うまくなっているのをひとみは感じていた。

しかもみんながみんなあの不思議な眼鏡をかけている。

がり勉集団にも見えなくない。

「しかしロボ田もそうだが、最高のエンジニアだ」

ひとみはロボ田と聞いて、それが中田のことではないかと思った。

やはり中田はロボットだったのか。

だろう………。

あの動きのぎこちなさはロボットと言われても仕方ない。

ロボットだと思えばかなり精巧につくられている。

すでに技術は世界レベルではないか。

ロボコンに出たら、日本だけでなく世界さえとれそうである。

「ロボ田のアップロードはそろそろできそうかな?」

シュンはパソコンを打ちながら、

「今、SDに書き込んでいる」と答えた。

中田がアップロードされるのか。

あのぎこちない動きが制御されるのだろう………。

と、シュンはSDカードを木本に渡す。

木本は中田の方へ駆け寄る。

「できたのか?」と山根が叫ぶ。

「ああ、完成だ」

「ロボ田をアップデートだ」と木本は中田とハイタッチ。

そして一年生を呼ぶ。

一年生の首にSDカードを指す。

しばらくじっと待っていると、

「アップロードが終了しました」と一年生が声をあげる。

 その声はいわゆるシリやアレクサに似ている。

「ロボ田、さっそく実践だ」と山根がボールを投げる。

すると一年生がボールをキャッチ。

そのままドリブルをしてシュートを決める。

みんなはシュンの方を見ていいねのサイン。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」と驚いたのはひとみである。

一年生がロボットだったの?

確かに今までちゃんと見てなかったけど…………。

ロボットじゃないの。

ロボ田は見るまでもなくロボットであった。

その姿はずんぐりむっくりした丸っこい姿。

アシモに似てなくもない。

なんでこんなにロボットロボットしてるのに、気が付かなかったのだろう。

背は低いが小回りがきく一年だと思ったら、ロボットだったなんて………。

「ロボ田」と木本が呼ぶ。

「動きはどうだ?」と聞くと、

「絶好調です」と答える。

「何、喋れるの?」と思わずひとみは声をあげる。

「なんだよ、足利さんいたんだ………」

何、この可愛い私に気が付かないなんてどういうことよ。

まあ木本は前からみゆしか見てないからしょうがない。

推しかぶりだし、ある意味ライバルでもあるから私の可愛さも見落とすんだ。


そんなことより、ロボ田よ、ロボ田。

「一年生って最初からロボットだったっけ?」

「そりゃそうだろ。最初から見た目は同じだ」

「そ、そうなの………」とひとみはとぼける。

全然気が付かなかった。

普通に新一年生が増えてるとしか思わなかった。

でもよくよく見ると、普通にロボットじゃないの。

アハ体験だ。

私って注意力散漫すぎるでしょ。

「アップロードしたんだ」

「そうなんだよ。これで俺たちの実力はさらに上がるぜ」と木本は笑ってる。

ひとみは中田をじっと見た。

「ところで中田君って、人間なの?」

「はあ?」と木本。

「中田君って人型ロボットじゃないの?」とひとみは確信をついた。

中田はうな垂れている。

「俺は人間だ!」と中田は突然走り出してその場を逃げ出した。

「おい、おい。今のは禁句だぞ。中田はヒョロヒョロしてるけど、人なんだからな」

「改造したりしてないの?」

「何、改造人間って言いたいわけ?」

「そう」

「仮面ライダーじゃあるまいし………」

「タカアシガーニーとか言うんじゃないよね………」

「それは言いすぎだぞ」と木本は言う。

 そんな中田がロボットじゃないなんて………。

人間がロボットに支配される日はすぐそこかもしれない………。

「でもロボ田はすごいと思わないか」と木本は興奮気味に言う。

それはそうよ。

人類は量産型ロボ田に支配されるんだ、きっと………。

そうなってからじゃ手遅れよ。

ああ、人はついにそんな恐ろしいものを造り上げてしまったのね。


と、ロボ田がひとみに近寄ってくる。

そして、「あなたはなんて可愛らしいのでしょう」と言い、手の中からバラの花が飛び出した。

「くれるの?」とひとみは目をパチクリさせてる。

「はい」と言う。

ひとみはバラの花を受け取る。

産まれて初めての告白がロボットなんて………。

どこかの国の王子様だと思ったのに………。

でも………。

よく見ると、ロボ田は可愛い。

人間の男子より近寄りやすい。

コミ障でも普通に付き合えそうではないか。

ロボットは孤独な人を癒してくれる存在になるのかもしれない。

これは人類にとって明るい未来になるかもしれない。


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