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「ねえ、聞いた?」とあかりと朋子が話をしている。

「最近、学校に笛吹き女が現れて…」とあかりは話し始めた。

とそこまで聞いて、ひとみはもしかして自分のことではないかと聞き耳をたてた。

「その音色につられて、女の子が連れ去られる事件がおきてるんだって」

「ハメルーンの笛吹き事件でしょ…」と朋子は身を震わせた。

「笛の音を聴いただけで催眠術にかかったみたいに後をついていくんだって…」

「怖いー」と大声を出したのはさゆきであった。

聞きたくないのか、突然大声で歌い始める。

 もちろんコブクロの歌である。

学校のあちらこちらでハメルーンの笛吹き女の話をひとみは耳にする。

「タコの化け物に折り紙を折ってる女の子が連れ去られたのを見たわ」

話が歪曲しているが由愛のことであろう。

「着物を着た女の子を見たよ」

「髪はこけしみたいだった?」

「髪は長かったような…」

「座敷童子?」

「でも髪が長いんでしょ」

「夜中になると髪の毛が伸びる人形の話聞いたことあるじゃない」

「あるある」

「きっとそれよ」と噂は尾ひれをつけて学校中に広まった。

多分髪の長い女の子とはれいちゃんのことであろう。

そしてハメルーンの笛吹き女とは自分のことだろうとひとみは思った。

 ひとみが練習するテナーサックスが童話の「ハーメルンの笛吹き」を連想させたのであろう。

学校中をテナーサックスを吹きながら歩いていたせいだ。

しかし学校中で吹奏楽部員が楽器の練習をしている光景を見かけるのに、なぜ、ひとみだけ…。

きっとそれはひとみの後ろを由愛や麗華がついてきていたのだろう。

李愛もいたに違いない。

「私はトイレの花子さんを見たわ」

 佳林もいたのか…。

「連れ去られた女の子はみんな帰ってきてないみたいよ」

噂話は大きく誇張されていた。

ひとみには佳林しか見えないのだが、タコのパペットは相変わらず折り紙を折っているし、三人の幽霊部員が部室にいることは間違いないであろう。

「でもいいな。みんなには由愛ちゃんやれいちゃんが見えるんだ」と逆にひとみは愚痴をこぼす。


「でもさ、もっと怖いのが人体模型よね」

「見た見た。最近よく見るわよね」

「普通に歩いてるでしょ」

「気持ち悪すぎでしょ」

人体君も実は話題にのぼっていたようである。

考えてみると不思議な話である。

人体模型を見て驚かない人はいないだろう。

 その話を聞いた時、目の前の人体模型を見て、ひとみは「あっ」と声をあげた。

気が付かなかった。

何で人体模型が歩いてるのよ。

不気味すぎでしょ。

普通に接してたけど七不思議じゃないの、これって。

人体模型が歩いてるって。

そして私の目の前に座ってるのよ。

じっとひとみは人体模型を見つめた。

幽霊なの?

いつからだろう、人体模型が校内に現れたのって…とひとみは考える。

あの日だ。

みゆを軽音部に勧誘して、軽音部に連れてった日。

みゆが軽音部から逃げるように走り出したあの時ついて来たんだ。

あの日を境に人体君は私たちの周りに現れた。

元々はどこにあったんだろう?

確か旧校舎の踊り場でじっと立ったままホコリまみれになっていたはず。


今もひとみの横に人体模型が立っている。

すれ違う生徒たちに、「進撃の巨人だ」と指さされる日々。

「なんで君は突然動き出したの?」とひとみは部室で人体君に聴いてみる。

もちろん返事はない。

ひとみはじーと人体模型を見つめる。

 本物の巨人ならいっそバスケ部に入部させたい。

 その見た目は相手を威圧するだろう。

 アニメの巨人たちは城壁から顔を出せるのだ。

 バスケットボールのリングなんか椅子代わりになるかもしれない。

 ただ人体君の身長は138㎝しかない。

 進撃の小人なのだ。


最近は藤棚ティータイムの相手がみゆでなく、人体模型に変わっている。

「ねえ、人体模型よ、気持ち悪い」と最近はみんなも慣れたせいか、悪口

ばかりが耳につく。

これはいじめではないか。

確かに不気味だ。

だからと言って悪口を聞こえよがしに言うのは気に入らない。

何と揶揄されようともひとみは人体君を遠ざける気はなかった。

 人体模型は一言も言葉を発しない。

 喋れないのだろう。

藤棚の下でランチを食べていると竜ケ崎のテナーサックスの音が響いてくる。

うますぎて逆に目立ってる。

すると人体君は体を左右に揺らせて踊り出す。

きっと音楽が好きなのだろう。

竜ケ崎のテナーサックスに人体君はハンドクラップをしたり、ヘッドスピンをしたりとノリノリである。

ただそのたびに内臓が飛び散って、たまたま歩いてる生徒を襲撃していた。

ひとみは飛び散った内臓を拾い集めて人体君に手渡す。

すると人体君は自分で内臓をはめ込み、再びポップコーンからのランニングマンをきめる。

指さされた女子はみんな悲鳴をあげる。

それはかっこいいの声援ではなく、恐怖の叫び声であった。

ひとみは一日何度も心臓や肺を拾い集めてる。


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