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藤棚ティータイム

ひとみが毎日ランチをとる相手はすっかり人体くんになっていた。

というのも人体くんはずっとひとみにぴったりである。

「よっぽど好かれてるみたいね」とみんなが言う。

とは言えさすがに人体くんとイチャイチャする気にはなれない。

やっぱり不気味な見た目が気にならないかと言えば嘘になる。

ロボコン同好会に一言言ってやりたいことは、寄りにもよって人体模型を改良しないでいいのにという点だ。

クマのぬいぐるみとかいろいろあるのに……………。

どうせなら可愛い系の見た目だったら、みんなも気持ち悪がらないし、私だって抱き着いたりしたいと思うかもしれない。

どちらかと言うと、人体くんの方が私に抱き着いて来る。

そのたび腰が引け気味になるし、そのまま見上げられると目を反らしてしまう。

人型ロボットにこだわったせいだと思うが、せめてマネキンであってほしかった。

やはり筋繊維が見えてる姿はまるで皮を剥がれたみたいだし、骨格標本といい、趣味の悪さはピカ一である。

もっとリアル系でなく、ロボットロボットしてるといいのに………。

例えばスターウォーズのC-3POやR2-D2みたいなら、可愛げもあるのに………。


「それじゃ、そろそろ行こうか」とひとみは歩きだす

 ひとみのあとを人体くんはついてくる。

ひとみは片手に焼きそばパンを持ったまま、時々立ち止まっては数字だらけの魔方陣をチョークで描いていく。

最近のひとみは暇を見つけては学校中に魔方陣を描きまくっていた。

ところがしばらくするとせっかく描いた魔方陣が消されてしまう。

朝の掃除でひとみが描いた魔方陣はほとんど消されてしまうのだ。

「こら!落書きするな」と言われるが、学校が妖怪の巣になってからでは遅いのだ。

いつ狐に憑りつかれるか分からない。

数字の魔方陣の効果はちゆりとか言う小学生で試しただけだが………。

何もしないよりはマシである。

とはいえ風紀委員に注意され、次々に消されていく。

ひとみは簡単に消せないようにスプレー缶で魔方陣を描いていく。

学校の壁や床が魔方陣だらけになる。

描いては消されるの繰り返し。

リアル・スプラトゥーンである。

そんな落書きだらけの校舎を見て、

「最近、うちの学校も荒れてきたようだね」と校長が教頭と話している。

「みたいですね………………………」

「竜ケ崎さんの支配力が弱まってるのかね?」

「そうじゃありません。落書きをしてるのはたった一人の生徒なんです」

「誰だね、それは!」

「二年生の足利ひとみです」

「それは………、困ったね………」と校長の顔が曇る。

「そのうち、不良の巣になりますよ、校長」

「でもね、足利さんはヤバいね」

「武士の血筋ですからね、学校を焼き討ちにするかもしれませんよ」

「竜ケ崎さんは何をしてるのかね」

「特に気にしてないみたいです」

「しょうがないね。相手が足利さんでは強気に出にくいしな」

「じゃあ、黙ってますか」

「せめて落書きが目立たないようになればいいんだけどね………」


ひとみに白いスプレー缶が大量に届いた。

「白い壁には白いスプレーで描き給え」と数の子先生が言う。

「地面にはどうすれば………」

「ライン引きを使って石灰で描きなさい」

「なるほど………」

「君が数学の勉強をしてるのは分かる。とは言えここはニューヨークの地下鉄じゃないんだ。学校らしくしなさい」

どうもひとみが魔物除けで魔方陣を描いてることを理解してる人はいないようである。


「僕は君が数学のオリンピックで金メダルを取ると信じてるから、そのまま頑張るんだ」

「はい」とうまい棒をくわえたままひとみは答える。


「困るのよね、数の子先生」とひとみは人体くんに話しかける。

人体くんはラインを引きやすいようにメジャーを地面に当てている。

その上をラインカーで線を引く。


「確かに中学生の頃ジュニアオリンピックで銀メダルをとったけど………。数学って地味じゃない」とため息をついていた。

 まるで自分に言い聞かせるかのようにうつむいたまま呟く。

「オイラーは偉大よ。ガウスだって天才だと思うわ。私が数学上の未解決問題を証明したりしたらかっこいいと思うわ」

 独り言を呟いてるみたいに人体くんに愚痴をこぼす。

「でもP≠NP予想を証明したとしても、けして名探偵にはなれないし」

人体くんはうなずいてはいるが、ちんぷんかんぷんなようである。

「大体誰も理解できないから未解決問題なんだし………………………、ああ、分かるかな。わかんないよね………」とひとみは手を大きく広げ、足はジタバタしながら、人体くんに語り掛ける。

「つまり、数学の未解決問題って、殺人事件の迷宮入り事件を解決するよりとんでもなく専門的で難しいのよ」と人体くんに話しかける。

「分かってる?」とひとみは人体くんを懇願するように見つめる。

人体くんは無反応でひとみを見てる。

「だからって名探偵になりたいわけじゃないんだけど……………、つまり何が言いたいかって言うと………、コナン君は有名でもオイラーやガウスって意外と知られてないと思うわけ………」と愚痴る。

 すると人体くんは何度もうなづき始める。

うーん…………。外国人に日本語で説明するより難しそう…………。

ひとみは魔方陣のマス目を描き終えると、その中に数字を埋めていく。

何か呪文でも唱えたほうがいいのかな………。

陰陽師の呪文って…。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前(りん・びょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)でいいのかな?」

 ひとみは陰陽師の真似をして、呪文を唱えた。

するとマス目からメラメラと炎があがり、木枯らしのように渦を巻いて登っていく。

そして数字が青白く光り始めた。

一瞬の出来事であったが、これで良さそうな気がする。

と、人体くんが腰を抜かしている。

きっと驚いたのであろう。

驚いた?

まさかね………、機械なんだし………。人間の感情みたいなのがあるとは思えない。

単純に火が燃え移らないかと思ったとか………。

思う?それもまた人間的だ。

AIってそんなレベル………。

炎があがった時に風が舞ったのは確かだ。

風の勢いで倒れたのだろうか………。

ひとみはさらに人体くんと一緒に作業を続けた。

「結局数学のオリンピックで金メダルを取ったとしても名探偵コナンになれるわけじゃないのよ」

これって別に有名になりたいとかそう言うんじゃなくて、評価なのかな………。

「数学ってさ、その偉業を理解できる人って少ないじゃない。最近はお金持ちの数学者もいるけど、どっちかって言うと貧乏。天文学をやりながら数学をしたりして、日の当たらない学問なのに、とびっきり難しい……………」

人体くんはうなづいてるだけ。

とは言え、名探偵コナンという単語には反応があった。

急に顔をあげ、じっとこちらを見ているではないか。

偶然なのか?

それともAIが名探偵コナンという単語を理解してるのだろうか。

指示を出しているAIは下手な高校生よりは知識があるのは確かである。

身体の制御を保つにはとんでもない計算が繰り返されているはずである。

もしかしたら数学の話も理解できているのではとひとみは思った。

意外と独り言じゃないのかもしれない。

人体くんはその会話の内容を理解している可能性はないとは言えない。

ならば私の愚痴もなんとなく理解できているのだろうか?

ひとみはちょっとだけ嬉しくなった。


「名探偵コナンの中で隣のビルに車で飛び超えるシーンで数式が出てきたりするの知ってるかな?」

人体くんは何度もうなづいている。

これは理解してる気がする…………。

「『天国のカウントダウン』って映画の中で………」と言うと、人体くんはさらに大きく首を振り始めた。

「あれってそんなに難しい計算じゃないのに、見てる人は何となくしか理解してない」

 ひとみは人体君の様子をうかがいながら話す。

「ほとんどコナン君が言うんだから式は合ってると信じ込んでしまう。実際間違ってはいないけどね………」

 そうだ、確かにと人体君はうなづいているようである。

「結局コナン君の説明なんて理解せずストーリーを追ってると思わない」

数式なんて計算したくないと、ほとんどの人が計算が合ってるのかどうか確かめない。

分からないことは取り敢えず飛ばしてしまう。

映画を見ている人にとっては話の流れが一番大事で、計算が合ってるとか合ってないとかは気になっていない。

それでいいのだと思う。

それでも数学好きは式を解いてしまう。

答えが合っていようが、間違っていようが大した問題じゃないのに、数学好きはそれを解かずにいられない。

揚げ足を取りたいわけじゃない。あら探しをしてるわけでもない。

そこに数式があるから解きたくなるのが数学好きの性なのだ。

と、人体くんが木の枝を拾い上げ、何か書き始める。

やっぱり分からないみたいね。

まあ、そこまで求めるのは過大評価かもしれない。

 ひとみもコナン君が解いた計算がどんな式だったかすら覚えてない。

「でもたまに出てくるじゃない………、名探偵コナンに計算。あれは漫画家が数学好きでただ自慢したいだけだって思ってたの。だって必要ないじゃない、数式なんて…………」

 人体くんは相も変わらず何かを描いてる。

「でもそこが偏見。自分が理解できないことを自慢してるって感じちゃうのよね」

 ひとみはマスに数字を描きながら続ける。

「じゃあ映画を字幕で見てる人を、英語ができないと見下してると思う?」

 と、ひとみは顔をあげ、人体くんを見つめる。

「……………思わないじゃない。字幕がないと映画の内容が分からないからでしょと思うはず」

なんか人体くんはうなづいてくれるけど………………………。

「そこが数学に対する偏見の強さを表してると思わない」

人体君はじっとひとみの方を見た。

目で何かを訴えてるようにさえ見える。

「数式が出てきたら取り敢えず理解しないでとばしちゃうでしょ………、まあそれはそれでいいんだろうけどね………」

人体くんと話してると寂しい人って感じちゃうよ。

でもなんでだろう。

人体くんにはいろいろ喋りたくなるんだよね。

まるで人体くんが本当の人のような気がする時があるのよね………。

不思議………。


と人体くんが書いていた絵を覗き見る。

するとそれは数式であった。

どこかで見たことある数式………。

ひとみはハッとなった。

そうだ、これは名探偵コナンの映画に出てきた数式。

隣りのビルに車で飛び移る時の計算式………。

「すごい。天才ね。さすがAI。データーが残ってるんだ」

ってことは、私の言葉を理解してるってわけ………………………。

ディープランニング………………………。

コンピューター自身が学習しているのか………。

どんどん賢くなってるのかもしれない。

でも人間の感情は理解していまい。

基本、コンピューターは計算が得意なのだ。

記憶にしても人間のはるか上をいく。

だからひとみの言葉を認知してるだけで、理解してるわけではあるまい。

でもそれはそれで寂しいかもしれない。

人体くんとは一緒に歩くし、そもそもクラスメイトだしね。

「みゆの席に座ってるからみゆの代わりになってほしいくらい」

と人体くんの顔を見て、違うと思う。

みゆはもっと美人だし………。

だからって人体模型が気持ち悪いってわけじゃないんだ。

だって子供の頃好きだったし………。

硬すぎる抱き枕みたいなもんだったっけ………。

これはみゆのきれいさとは違う愛着というやつだろう。

ペットというより、ぬいぐるみ収集みたいなものかな………。

誰だってあるはず。女の子は特にね。

可愛いぬいぐるみが欲しいとか、一緒に寝たいとか、そういう願望………。

っていうか、意外と好きなのよね、人体模型とか………。

フォルム最高。

スタイル抜群。

生々しさがたまらないのよね。

蛙の解剖とか大好きだったし………。

生命の神秘って感じしない………。

アニメファンがネンドロイドを飾るようなものかな………。

フィギュアとして棚に並べたいくらい………。

人体くんは十分個性的だ。

生々しさや気持ち悪さは爬虫類と同じ可愛さ。

単純に可愛くない?

お嬢様みたいな服着せたら絶対可愛い。

うちの蔵にも似たようなのあるし………。

子供の頃は一緒に寝てたし………。

まあ、うちのは江戸時代にからくり義衛門という人形師がつくったやつなんだけど………。

これが最高に可愛いの。

私からするとクロミちゃんよりタイプかもしれないんだけど………。

これが意外と周りから理解されないのよね………。

でもさすがにみゆには似ても似つかないや………。

みゆのきれいさとは同レベルにはなれないな。

人とは違うよ、やっぱり………。

人にはぬくもりが感じられるから………。

ひとみは人体くんの手を握る。

するとなんというぬくもり。

一肌を思わせるぬくもりがした。

ヒーターなのか………。全身に電熱線を這わしてるのか………。

そこまで再現してるのか。


高低差20Mある隣の建物に

移動するときに必要な速度を出す為に

落下時間を合わせて考えた計算式。


2秒で60M進まなくてはならない場合、

1秒で30M進むに等しいと考えると、

時速108kmを出さなくてはならない。


コナン君はそれを映画で解きます。

あとは映画を見てください。



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