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ふとひとみが横を見ると、「俺聞いたことあるぜ」と木本は学園の七不思議の話をしている。

「何、教えて」とみんなが木本を取り囲む。

 どうしてこの手の話、みんな好きなんだろう。

「トイレの花子さん」の話を木本は熱く語ってる。

それ、きっと私だと佳林は思う。

「それな。聞いたことある」と男子も女子も夢中で意見交換をしている。

「でもそれ解決したらしいよ」と木本。

「何、陰陽師でもいるの、この学校」

陰陽師がいる。

実はそれもももち浜学園の謎とされていた。

「陰陽師が霊を祓ってくれたらしいよ」

佳林はやっぱり自分のことだと真っ赤になっている。

「陰陽師の正体って、どうも保健室の柚子先生らしいよ…」と木本が言うと、みんな、

「そうなんだ」とか、「ありそう」とかザワザワしてる。

 柚子先生は陰陽師ではなく、ただの中2病をこじらせてるだけなのだが、限りなく陰陽師に近いのも確かである。

「他には知らないの?」と木本は聞かれて、

「音楽室のピアノが誰もいないのに鳴り出すとか…」と木本は自慢話をするかのように上機嫌である。

 みんなが自分の話に夢中なことに興奮を覚えているのだ。

「それってよく聞くベートーヴェンの霊でしょ?」

「この学校にもいたの?」

ベートーベンの霊。

いわゆるオーソドックスな七不思議の定番。

「いろいろある中でド定番なのは、エリーゼのためにのやつじゃない」

「エリーゼのためにを4回聴くと死ぬとか言うやつでしょ」

と、校内放送が流れる。

その曲がエリーゼのためにである。

みんなが悲鳴をあげる。

1回目、2回目、3回目。

「次、聴いたら死んじゃうよ、みんな」と全員が耳を塞ぐ。

と、さゆきの歌う声が鳴り響く。

コブクロの蕾であった。

「良かった~」とみんなが肩を撫でおろす。

「ありがたやありがたや、さゆき様」とみんながスピーカーを拝む。


「でもベートーベンの霊の謎、すでに解かれてるんだ」と木本は自分の手柄のように話す。

「家にピアノがない女生徒が音楽室に忍び込んでピアノの練習をしてたんだ」

「なんだ、霊じゃないじゃん」と失望の声。

みんなの反応に木本はショックをうけた。

期待してたのと違うと強く思う。

もっと「おー」とざわついて欲しかったのだ。

「続きがあってね、その子、ピアノに指を挟んで指が十本ともなくなったんだって」

「じゃあ、音ならないじゃん」

「だから霊になって憑りついてるんだよ」

「でも解決したんでしょ。陰陽師もいるし…」

「その霊……、まだいるらしいよ、旧校舎に」と木本が言うと、女子が悲鳴をあげる。

その悲鳴に木本の興奮は収まらなかった。

「だから今も旧校舎に近づくと、エリーゼのためにが聴こえるんだって」と言うと、私、聴いたことあるとあちらこちらで声がする。

軽音部を見学で訪れたものなら誰もが耳にしたはずである。

みんなが震えだす。

「他にないの?」と誰かが言う。

木本はすでにネタ切れになっていた。

木本は頭をひねって、七不思議を思い出そうとする。

しかし出てこない。

知らないものは出ようがないのだ。

そこで、「数の子先生の好物が数の子じゃなくてカラスミらしいとか」と探りをいれる。

みんなの失望の顔。

木本は勝手に追い込まれていく。

何か言わなくちゃと焦れば焦るほど、思考がまとまらない。

そして、「じゃあ鼻毛先生の鼻血は青いとか…」と嘘をつく。

「ほんと、それ、カバじゃないの…」と野次が飛ぶ。

「もう知らないんでしょ」とあかりが批判すると、

「あとは…」と木本は、「女子バスケット部員が言ってたな。誰もいないはずの体育館でボールをつく音がするんだって」と話す。

 急に中田と山根の様子がおかしくなった。

「知ってる」と女子バスケ部員の声。

「片付けたはずのボールが散らばってる話でしょ」

「何言ってるんだよ」と山根は木本の背中を叩く。

「気持ち悪いのよ。お化けがいるんじゃないかって噂になってるの」と。

「男子バスケ部、あなたたちでしょ、犯人は」とひとみが声をあげる。

「そんなわけあるかよ」と木本は明らかに挙動不審である。

「いつも俺たちの練習見てるだろう」と木本は山根の方を向く。

「そうだ、夜中に侵入して練習なんかするかよ」と山根は声をあげた。

「あーあ…、ゲロったわ。夜中に練習してるんでしょ」とひとみと問い詰める。

「そうだよ、俺たちだよ、犯人は」と山根は逆ギレ気味である。

「ちゃんと片付けて帰ってよ」と女子バスケの子が言う。

「いつも私たちが怒られるんだからね」

やぶ蛇である。

「木本のやつ、スタンドプレイだ」

「女子にキャーキャー言われて調子に乗りやがって」と山根は怒る。

「羨ましい」と中田は呟く。


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