15
最近になって人体くんがやたらとひとみについて回る。
一度旧校舎の外に出してからというもの、毎日のように学園をフラフラしている。
人体くんの姿を見ない日がない。
その姿、さまようゾンビだわ。
学校中で叫び声が上がる。
そしてついにひとみたちの教室にもついてくるようになった。
ここ最近は元々みゆが座っていた席に座り込んでいる。
それを見てもクラスメイトは誰も何も言わない。
朝、「おはよう」と人体くんが手をあげると、みんなも「おはよう」と手をあげている。
ひとみがあかりや朋子と喋っている時も普通に側に人体くんが立っている。
なんとも不自然である。
みんなにも人体くんは人体模型に見えているはずである。
人体模型が歩いてたら、普通は驚くはずである。
なのに人体くんはいつの間にかひとみのクラスに溶け込んでしまっていた。
これは明らかにももち浜学園の七不思議のなせるわざ。
いや、瑠々の調査の結果によると学園の七不思議はそれほど知れ渡っていなかったはず。
とは言え、新聞部のおかげで今では知名度があがっているのだろう。
誰一人、人体君を見ても驚かない。
ところでももち浜学園の七不思議って、そもそもなんだろう。
ひとみは改めて知りたいと思った。
「ねえ、ももち浜学園の七不思議を教えてよ」とひとみはいきなり切り出した。
「ダメよ」と瑠々が遮る。
「どうして?」
「七不思議の話をするとバチが当たるらしいから…」
っていうか、瑠々が有名にしたんでしょ、七不思議。
「瑠々は大丈夫なわけ?」
「実は…、もう呪われてるんだ」と瑠々の右手首がポロリと落ちる。
「きゃー」と悲鳴がおこる。
あかりと由加が机の上で立ち上がっている。
「どきなさいよ」
「狭いわよ」と二人は机の上で押し合いこをしている。
ひとみは一瞬固まった。
と、落ちた手の袖から別の手首が出てきた。
「な、なに…。手品?」
「びっくりさせないでよ」とあかりは机から飛び降りる。
「本当に手が落ちたかと思ったじゃない」とあかりは手首を持ち上げる。
「よくできた、手だね」と上から下から眺めてる。
「だって…、本物だもん」と瑠々。
「またまた。ちゃんと右手、ついてるじゃん」とあかりは笑う。
瑠々は左手で右手の義手を外す。
「だって私の右手、義手だから」と瑠々が言うと、あかりは悲鳴をあげて瑠々の手を投げ捨てる。
それをひとみがキャッチ。
ひとみは手を撫でながら、「冗談でしょ」と聞く。
「おかしいんだよね…。七不思議の記事書いたあと、手首がポロリと落ちたんだ」と笑う。
「それって笑えないでしょ」とあかりは震えてる。
「へへへ」と瑠々は頭をかいている。
瑠々ってそんなキャラだっけ?と由加があかりの耳元で囁く。
すると、あかりはキャッと声をあげる。
「もう、脅かさないでよ」と由加を突き飛ばす。
「それって七不思議の呪いか何か?」とひとみが聞くと、瑠々は首を傾げてる。
「実はさ、柚子先生に相談したら、竜ケ崎先輩を呼び出してくれて、そのまま保健室のベットで寝落ちしたの」
「変なことされなかった?」とひとみは問いただす。
「されたよ」
「されたんだ」とひとみは肩を落とす。
瑠々も竜ケ崎先輩の毒牙に…。
「あんなことや、こんなことされたのね」
「多分…」
「多分って何?」
そうか、眠らされてたんだ。
やりたい放題じゃないの。
「目を覚ましたら、手に義手がついてて…」
うん?これは手術をしたということか…。
「人工皮膚だから普通の手にしか見えないの」
「なるほど…」
「でね、竜ケ崎先輩がお祓いをしてたんだ」となんとも瑠々は能天気。
「除霊もセットになってるのね」と由加。
「いくらとられたの。一億円、二億円?まさかそれを餌に身体の関係を…」
「ただでいいんだってさ」
「ただ?つまりゼロ円ってこと」
「そう」
「よっ!太っ腹」とあかりがチャチャを入れる。
どうしてただなのよ。そんな大手術しておいて…。
「竜ケ崎ロボット株式会社が全て出してくれたの…」
「それってまさかロボコン同好会…」とひとみは絡んだ糸が一つ解けていく気がしていた。
「ももち浜学園の外部機関らしいわ」
「怪しくない?」
「大丈夫でしょ。キリスト教の学校なんだし…」と瑠々。
確かにいろんな宗教に富める者が弱者を救うという喜捨と呼ばれる考え方がある。
「戦争や事故で手足を失くした人を助けたいんですって」
何、ロボコン同好会って慈善団体だったの…。
「でもおかげで助かっちゃった」と瑠々は舌を出す。
全然助かってないでしょ。
手を失ってるんだし…。
もう失った手は戻らないんだ、きっと…。
「義手の使い勝手はどうなのよ」とひとみは興味津々である。
その性能が気になるのは宿命だろうか。
高校生の部活がどこまでやれるのかが気になった。
「それがさ、結構違和感ないのよね…。それに握力…」と瑠々はリンゴを取り出した。
そして片手で握りつぶす。
「握力が強くなったのよね…」と。
そりゃそうだ、機械なんだから…。
「たださ、たまにパソコン打ってると、キーボードが割れちゃうのよね。気を付けないと、ドジっ子になっちゃうんだ」と笑う。
すごい技術力だ。
ロボコンに出たら優勝できるんじゃないだろうか。
出したいロボコン。
仮入部………、したところで私に手伝えることはない。
知識を入れて手伝うことはできるだろう。
しかしそれじゃ…、私が優勝した気がしない。
ダメだ。このプランは却下だ。
ひとみは瑠々の手を触ってみる。
シリコンかな?
かなり精巧だ。
一肌のぬくもりも感じられるではないか。
どれほどの技術力だ。
オブザーバーに誰かついているのだろうか?
少なくともももち浜学園のOBにそんな有名な技術者はいない。
と、瑠々の手を撫でながら、ハッとなる。
ヤバい、竜ケ崎先輩って金の亡者というわけじゃないんだ。
いい人なの…?
これじゃ生徒会を吊るし上げることできないじゃないの…。
「でもね、竜ケ崎さん、ちょっとヤバい気がするの」と瑠々。
ひとみは急に眼をキラキラさせる。
「新聞部だからいろいろ調べてたんだけど…」と言葉を濁す。
やっぱり裏があるのね。じゃなきゃおかしい。
って私、竜ケ崎先輩をどんな人だと思ってるんだろう。
普通にいい人じゃないの。
私、竜ケ崎先輩が悪人であることを期待してる。
完璧すぎる人間のあら探しをしてしまう。
私ったらヤキモチ妬いてるんだろうか。
足利基金がしたいことを先にやられて軽くジェラシックパーク。嫉妬心が芽生えてるみたい…。
「で、どうなの。どんな悪巧みをしてるわけ」とひとみは瑠々を問い詰める。
「これで世界征服よとか………」
何、子供?小学生?
悪の組織?人造人間?秘密基地?
「世界中の女の子の制服をみんな萌え系に変えてやる!とか独り言をブツブツ言ってるの」
なあーんだ、いつものやつじゃん。
「萌え萌えっくパークを秋葉原につくりたいのとか…」
そうか、瑠々にしてみれば意外な一面なのかもしれない。
本当、竜ケ崎先輩が男でなくて良かったと思う。
女だから許されると言うわけではないが、男子だったらあまりにも欲望むき出しのエロエロ生徒会長ではないか。
権力にモノを言わせてハーレム生活を送りかねない。
いや、待てよ。
私がもし女の子好きで本当に可愛い子ばかりで生徒会をハーレムにしたいとしたら、何をするだろう。
B4とは頭がいいだけの天才集団だ。
生徒会はそのB4だけで固められてしまう。
本当は可愛い子を側近にしたいのに、B4がいるせいで採用できない。
だとしたらB4の連中は竜ケ崎先輩にとって邪魔な存在ではないだろうか。
学園内でハーレムをつくりたいと考えた時、私ならB4ルールをぶち壊す。
そして本当に自分が可愛いと思う女子だけを学力に関係なく採用するに決まってる。
そうか!
分かった、竜ケ崎先輩の野望はB4支配の学園制度の解体ではないだろうか。
ヤバいじゃん、私。
めちゃくちゃ可愛いし…、竜ケ崎先輩のお気に入りだし…、頭もいいし…。
竜ケ崎先輩からご指名あるんじゃない。
って言うか、何となく誘われてるし…。
狙われてるじゃん。
やっぱ生徒会長選挙、出るのは止めよう。
B4がいるし、B4に目を付けられるのも面倒だし、私はルンルンな学園生活を送りたいだけだし。
地位とか権力とかにはまったく興味もないし、それに目立つじゃない。
目立ったら、モテるでしょ。
今まで私のことに気が付いてない男子にも見つかるし………。
そいつらが告ってくるに決まってる。
いちいち面倒くさいことになりそうだし………。
どうせフルに決まってるんだし、そんなことでいちいち落ち込んでられたりしたら私のメンタルだってやられるし…。
共鳴するのが一番嫌なんだからね。
私は誰も傷付けたくない平和主義者なのよ。
フラれて傷付いて私を苦しめないでよね。
ほんと、ヤバいんだから…。
「ほんと、ヤバいでしょ」と瑠々は続ける。
「慈善事業家として有名になって、世界中の貧困層に萌え萌え制服を寄付してやるのよとか叫んでるの」
瑠々が話す竜ケ崎の話はいつもの竜ケ崎と一緒だった。
「世界萌え萌え化計画。そのための資金作りなんだって…」
そんなことがモチベーションになっていたのか。
「きっと冗談なんだろうけどね」
冗談じゃない。本気だ、竜ケ崎先輩は。
少しでも信じた私がバカだった。
竜ケ崎先輩は自分の欲望に素直なだけだ。
慈善事業家という仮面をかぶってまでも欲望を満たそうとするエロエロ慈善家なのだ。
しかしそれで救われる魂があるのも事実だ。
これは否定したくてもできはしない。
天使の顔をして、悪魔の欲望を隠している。
イケメンがカツラを落とした時ぐらいの破壊力。
とは言え無理やり関係をせまるわけでもなく、ただ見守ることに喜びを感じている。
これは偽善なのか。
ウィンウィンの関係にしか見えないではないか。
私は竜ケ崎先輩を見守りたい。
それが欲望まみれでしかないとしても。
苦難の時には私が救いの手を投げ出したいとさえ思う。
竜ケ崎先輩がもし途中で夢かなわなくとも安心してください。
私が必ず引き継ぎます。
この足利家次期当主候補の私が資金援助を続けさせてもらいます。
ただ、ごめんなさい。
生徒会長選挙だけは、拒否させてください。
私は自分の操を守りたいので、ごめんなさい、すいません。その誘いだけはきくことが出来ません。
でも安心してロボット開発を続けてください。
私も竜ケ崎先輩を見守っていくと誓います。