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ひとみが久しぶりにバスケット部の様子を見に行くと、明らかな成長が感じられた。
中田の成長が著しい。
バックビハインドパス。
一見すると気持ち悪い動きをしているのだが、よく見ていると、ボールを奪いに行くとその動きに翻弄される。
足が長い分又抜きが得意らしく、ステップを踏んで踊ってるかのような動きの中で、足と足の間をボールが行き来する。
インサイドアウトレッグスルー。
気持ち悪い動きの原因は何だろう。
やってることは最高にかっこいいはずなのに、未完成のロボットがやっと立ち上がって起動しているかのようである。
見た目はかっこよくはないのだが、明らかに相手を翻弄している。
レッグスルーの成功率はほぼ百パーセント。背中に回した手で気が付くとボールが山根に渡っている。
いや、あれは単純なミスだ。
背中に回した手からボールがこぼれ落ち、それを山根がフォローして、あたかもトリックプレイのように繋いでる。
山根だけじゃない。
木本もうまく中田のミスを補っている。
中田は相変わらずミスが多いようだ。
ただそれをミスと感じさせないほど、周りがフォローしている。
ストリートバスケだ。
トリックプレイの連続だ。
中田はいろんなパスを覚えたのだろう。
上からだけでなく下からのパスにも気を付けないといけなくなっている。
背の高いだけのでくの坊がフォームこそ気持ち悪いものの正確さも身についてきた。
そのままボールを手渡しするだけのフェイクですら、その手の長さ、身長の高さのせいでかなり翻弄されてしまう。
果たしてこれは普通のバスケではルール違反にならないのだろうか…。
完全に目指しているのはストリートバスケだ。
3オン3で許されるプレイなのだろうか?
とは言えバスケットボールに限らずスポーツは日々ルールが変わっていく。
それまで違反であったものがオッケーとなることもある。
トリックプレイが観客を魅了すればルールが変わる。
そして何よりバスケの基本である普通のパスも中田が身につけたことは大きい。
戦力としてはかなりプラスになるはずだ。
そもそもチェストパスすらできていなかったのだ。
それがバウンズパスはトップスピンとバックスピンを使い分けている。
オーバーヘッドパスに関しては相変わらず狙った場所に球を投げだせてはいない。
ただそこを治すとかえってキラーパスが死んでしまうに違いない。
下手すぎた分、一番の成長が感じられるのが中田であった。
しかもフックパスは奇跡的にうまい。
挙どってるせいで、自然とノールックパスになっている。
クロスオーバードリブルは体幹がしっかりしてないせいか、ふらついた動きは大きく揺さぶられ、意識してないフェイクになってガードを抜いていく。
芸術的なプレイだ。
ガードはフラフラした揺さぶりで一瞬ボールが見えなくなると言う。
ところがその後がまだまだで、せっかくガードを抜いたのに、あっさりボールを奪われてしまう。
だから抜いてすぐボールをパスするしかない。
せっかくマークについた相手を抜いたのに、そこからの攻撃がダメダメである。
ただそこを覚えるとかなりすごいプレイに繋がりそうである。
伸びしろはまだまだいっぱいありそうだ。
新しく加わった一年生がいい味を出している。
2オン2でいつも中田を翻弄する役回りなのだが、小回りのきく相手に中田は右往左往している。
スポーツがしたい。
ひとみの想いは強くなる一方だ。
ひとみの頭の中には一つ試してみたいことがあった。
誰かに相談すれば反対されるようなことである。
まず足利家が反対するに違いない。
無謀と言われそうな危険な賭けでもある。
それはテニスで全国優勝を狙うことだ。
ももち浜学園はチャラついたテニス部だし、スカートのチラ見せで大騒ぎするようなナンパな連中である。団体戦なら無理かもしれない。
しかし個人戦なら十分狙えるはずである。
ひとみはかつて全米ジュニアで優勝した実績があるのだ。
ブランクがあるとはいえ十分に全国優勝を狙える可能性がある。
ただ心配事がないわけではない。
だからまだ決心が着かずにいた。
とは言え最初の一歩を踏み出したい。
ひとみは家に戻り、テニスラケットを手に取った。
そしてテニスコートでボールをコートすれすれに打ち込んだ。
ほとんどのサーブがコートのライン上に落ちる。
腕はおちていない。
スピードもきっと以前と変わってない。
テニスなら全国をきっと狙える。
ひとみが百本のサーブを打ち終えて、タオルで汗を拭いていると、
「お嬢様、テニスはいけません」と執事が現れた。
「二度とテニスをしてはなりませぬ」
ひとみは黙るしかなかった。
「テニスで活躍して宮殿庁に目をつけられたらどうするつもりですか」
足利家と王室が関係が悪いわけではない。
ただ王室より強いというのが問題になるかもしれないというのだ。
表向きの理由はそうなっている。
理由はそれだけではないのだが、ひとみはテニスを禁止されていた。