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「新聞部の新入部員って私たちの知ってる人?」と朋子が聞いた。

「えっ、私たちの知りあい?」とあかり。

「実は…」と瑠々は言葉を溜めた後、

「人体模型さんでした」と両手を人体模型にかざす。

 どことなくソワソワ、モジモジしてる人体模型。

照れているのだろうか…。

何という精巧なロボットであろう。

人間の感情を再現できるロボットなんて、AIで管理しているにしても聞いたこともないレベルである。

ひとみは謎の部活、「ロボコン同好会」への興味がさらに高まっていた。

竜ケ崎が絡んでいるのは間違いない。

実は竜ケ崎が最高顧問で軽音部を介してロボコン同好会に多額の部費が投入されてるのではないか。

軽音部はそのための竜ケ崎のトンネル部。

軽音部で資金洗浄された部費がロボコン同好会に開発費として流入されているのではないだろうか。

だからこそ竜ケ崎先輩は軽音部に拘りを持っているのでは…。

大体この旧校舎自体がかなり怪しいではないか。

遠藤周作の「海と毒薬」の舞台も側にある。

アメリカ人捕虜たちを監視する場所だとしてもおかしくない。

捕虜たちを使って人体実験を行っていたとしたら、その頃の話が時を超え、幽霊話に変わっていたとしても不思議ではない。

それこそかつての日本軍がここでロボット開発をしていたとしても不思議じゃない。

しかしももち浜学園はカトリック系の学校なのだ。

GHQに占領されたあとはアメリカ軍の駐屯地になっていたかもしれない。

「謎は謎のままにしておいた方がいいこともあるのよ」と竜ケ崎がひとみの肩を叩く。

いつの間に部室に入ったのだろう。

竜ケ崎こそまるで幽霊のようではないか。

本物の幽霊を操る女。

「でも新聞部にはしてやられたわね」と竜ケ崎。

何をしてやられたのだろう。

この校舎の秘密を知られたのだろうか。

まさか、竜ケ崎は証拠隠滅のために殺し屋を派遣したのでは…。

「結局今度の騒動で一番得したのは新聞部でしょ。新入部員も増えたみたいだし…」

なんだ、人体君のことか。

瑠々を殺しに行くのかと思った。

「でも新聞部はやっかいな存在ね」と竜ケ崎は虚空を見上げる。


瑠々は人体君が新聞部に入部してからご機嫌である。

鼻歌を歌ってひとみの髪をまとめている。

新入部員の獲得がそんなにも嬉しいのだ。

部活動に参加する生徒の減少は深刻で人気コンテンツである校内新聞ですら、存続の危機を迫られていた。

三年生が辞めると、新聞部は同好会に格下げになってしまう。

だからこそ瑠々はホッとしたのであろう。

「ももち浜学園のリベラルは滅んではいけないの」と瑠々は言う。

校内新聞のほとんどは娯楽性の高い記事で埋め尽くされているが、必ず一つB4などの特権階級を批判する記事が書かれている。

最近は特権階級ではないひとみがB4の存在を脅かしていることを面白可笑しく揶揄していた。

蛭子が部長になって以降、B4を揶揄する記事が増えていた。

つまり竜ケ崎たち生徒会は新聞部とは対立関係にあるのだ。

瑠々が新聞部に入部した時はすでに蛭子が部長だったのでその変化に瑠々は気がついてはいなかった。


生徒会室に二年生のB4であるマリアンとアーネットが飛び込んできた。

「大変です。テニス部が…」とマリアンは言葉を詰まらせる。

「マリアン、何やってるの」とアーネットが続きを喋る。

「テニス部で暴動が起こりました」

その日ももち浜学園のテニス部によって、一つの革命が起こったのだ。

テニス部の女生徒たちが「女生徒は膝上十五センチのスカートに反対します」と宣言をしたのである。

テニス部女子のスカート反対運動を新聞部が取り上げたことにより、学校中から不満の声があがった。

「スカートが短すぎて恥ずかしい」とか、「男子生徒の目が気になって勉強に集中できない」などの不満が新聞に取り上げられた。

のちに「テニスコートの誓い」と呼ばれた反対運動は生徒会の議題にのぼることとなる。

元々テニス部の女子の不満はスカートの丈にあったわけじゃない。

テニス部だけが独占してきたスカートのチラリズムを制服に取り入れたら、それまでテニス部員だけが独占していたチラリズムの権利を脅かされると反対運動が起きたのであった。

それを瑠々は学校中の女子の気持ちだと拡大解釈して記事にしたためたのだ。

その作戦が功を奏し、生徒会は妥協案の提出を余儀なくされた。

「スカートの丈は膝下十五センチのまま。ただし、必ずスカートに下に白のフリルのついたアンダースコートをはくこと」と校則が変わったのであった。

新聞部の大勝利である。

こうして女子はスカートの丈を気にすることなく学園生活を送れるようになった。

男子の中には不満を持つものも多かったのだが、誰もそれを口にせず代替案を受け入れた。

女子テニス部員もなんとか男子の視線を取り戻せたことにホッとした。

新聞部ってももち浜学園にとっては厄介な存在になったわねと竜ケ崎は思った。


そして蛭子が生徒会室を訪れた。

「成功したわね」と竜ケ崎は笑う。

「生徒会長が情報を流してくれたおかげです」と蛭子はニヤニヤしている。

「いいことあったの?」

「ありました」

「何?」

「裏カジノを知ってますか?」

「もちろんよ。蛭子君はかなりハマってるそうじゃない」

裏カジノは生徒会が運営する機関である。

そこで得た利益を各部活動に部費として振り分けている。

しかしその配分に関しては生徒会長が決めることになっていた。

竜ケ崎はそのほとんどをロボコン同好会に振り分けていた。

「ええ、もう負け続けてて、借金で首が回らなくなりそうでした」と常連の蛭子は本音を漏らす。

「つまり今度のスカート問題で大儲けしたわけね」

「そうです。ほとんどの生徒が竜ケ崎先輩は妥協しないと予想したおかげで、一人勝ちの大儲けです」

「そう、それは良かったわね」

「おかげで借金がゼロになりました」

「でもまたやるんでしょ、カジノ」

「もちろんです。これからが勝負です。必ず大儲けしますよ」

そう言って蛭子は生徒会室を立ち去った。

ほんとう、いいカモだ。

生徒会が運営するカジノにいっぱい金を落としてくれる。

今回の件は借金で首が回らない蛭子君を駒にして私の野望を実現しようとしただけのことよ。

B4に集中するももち浜学園の権力の弱体化を私がいるうちに必ず実現させるわ。

竜ケ崎は不敵な笑みを浮かべてる。

でもアンダースコートのチラ見せは大ヒットね。

私の萌えを刺激するわ。

本当、瑠々って私の可愛いを理解してる。

いつか私の補佐にしたい存在ね。

でもそのためにはB4の存在が邪魔だわ。

瑠々はB4ほど成績も良くないし、B4がいる限り生徒会の補佐にするわけにもいかない。

ひとみの存在がキーワードになりそうね。

ひとみが生徒会長になれば、B4以外からの初の生徒会長が誕生する。

そうしたら瑠々を私に側に呼べばいい。

生徒会がB4じゃないといけないなんて考え方が終わりを告げるのよ。

こうして新聞部が仕掛けた陰謀がテニス部に革命を起こさせ、B4の地位の弱体化への引き金がひかれることとなった。

瑠々、可愛い子。

もうすぐよ。もうすぐ私の側に置いてあげるわ。


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