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ひとみは今はただ軽音部に籠り、テナーサックスを吹くだけの日々を過ごしていた。

 たまに部室を出てテナーサックスを吹きながらひとみが歩くと、後ろを人体模型とタコがついてくる。

 ひとみには見えていないが、そのあとを麗華や李愛もついてきていた。

 さらにエリーゼのためにを弾く少女、トイレの佳林ちゃんもついてくる。

幽霊と怨霊の大行進。

ハーメルンの笛吹きと呼ばれる原因はそこにあった。

ひとみはたまに立ち止まっては木の枝で地面にマスを書き、中に数字を書いている。


「ねえ、ひとみ、大丈夫?」と佳林が駆け寄ってきて声をかける。

「何が…」

「最近変だよ」

 まさか佳林に言われようとは思わなかった。

「佳林の方が相当変だよ。小2病でしょ」

「中2病ね。わたし、赤ちゃんじゃありませんでしゅ、タラちゃんでちゅ」とふざけ出す。

「そういうとこ、小学生だし」

「うんち、うんち」と佳林は一人ではしゃいでる。

「子供だ」とひとみは笑う。

「ああ、笑った。笑ったほうが負けだからね」

「にらめっこだったの」

「そう」と佳林は勝ち誇った顔。

「どう考えても佳林の方が変でしょ」とひとみは再びマス目に数字を埋め始める。

その様子を佳林はじっと見てる。

何を描いてるんだろう?と頭を抱える。

そして急に不機嫌になって、「わー」と叫び出しひとみを突き飛ばす。

「その変じゃないよ。様子がおかしいの変だよ」と佳林は適当な数字をマス目の中に描きまくる。

「変?私が…」

佳林はなんのことを言ってるのだろうか?

ひとみはじっと自分の手の先を見つめる。

数字か…。

これもまた数学者に対する偏見みたいなものなのか…。


「さっきから何を描いてるの?」と佳林が落書きを指差して聞いた。

「これは魔方陣よ」と、佳林の埋めた間違った数字を訂正していく。

「魔方陣ってファンタジーアニメなんかによく出てくる模様のこと?」

「アニメに魔方陣なんか出てくるんだ?」

「アニメなんかでほら、悪魔を召喚したり、封じ込めたりするときに模様描くじゃない。あれが魔方陣よ」

「へえ…、日本のアニメって進んでるね」

じっと佳林は魔方陣を見てる。

そしてハッと顔を輝かせた。

「これ、数独じゃないの?」

「近いかも」

「でもこれ、何桁」と佳林は数字を数える。

「1・2・3………9桁もある。全部合ってるの?」と佳林は一番上の数字を足していく。

「ああ、分かんなくなった」と佳林は頭を抱える。

「魔方陣って言ったら、これでしょ。縦横斜め、どこを足しても同じ数字になるように1から81の数字を埋めていく」

「難しすぎない…って、やっぱ天才だ、ひとみって」

「数独との違いは一言でいえば、数独は全て一桁だけど、この魔方陣は1から81だってこと」

「魔方陣にそんな深い意味があったんだ」

「日本のアニメってすごいじゃない。魔方陣って結構難問よ」

「これじゃ…、悪魔も逃げ出すわ」

「逆にこれに魔除けの力があるとは知らなかった」

 ひとみはやっと佳林の間違いを訂正し終えて、手の汚れを払う。

「でもなんか違うのよね」と佳林は魔方陣を見ながら思った。

アニメの魔方陣って数字なんか描いてなかったような…。

星みたいなのが描いてあって円かったような気がするんだけど…。

「これって本当に魔方陣?」

「魔方陣って他にあるの?」とひとみは聴いた。


突然、佳林は魔方陣の上に手のひらをのせて、

「悪魔、召喚」と言った。

すると一面に光が満ち、ランドセルを背負った黄色い帽子の女の子が地面の中から浮き上がってきた。

何、何…と佳林は少女を見つめる。

小学生の女の子。

「誰?」と佳林が聞くと、「私はちゆり」と答えた。

とちゆりは地べたにペタンと座り込み、

「何、この数字。私、算数大嫌い」と泣き出した。

「出して、出して」とちゆりは泣きじゃくる。

ひとみがちゆりに手を差し伸べる。

ちゆりの手を握りしめ、思いっきり引っ張った。

「痛い、痛い」とちゆりが声をあげる。

魔方陣の外枠に光の壁がそびえてる。

ちゆりはその壁に遮られて中から出てこれないのだ。

痛がるちゆり。

ちゆりの頬が壁でつぶれてオタフクみたいになる。

ひとみはそれでもちゆりの腕を引っ張る。

ストッキングをかぶったみたいに顔が潰れたまま、少しずつ頭が抜けていく。

すると壁を抜け、ちゆりが魔方陣の外に出た。

「私、おねえちゃんのこと、嫌い」とちゆりは怒る。

「せっかく助けてやったのに」とひとみ。

 ちゆりはすっかりそっぽを向いてしまう。

ひとみはご機嫌をとろうと、テナーサックスを吹き始める。

すると今度はちゆりは耳を塞いで嫌がる。

「なんなの、この子。私が召喚した悪魔なの」と佳林はじっとちゆりのことを見ていた。

「おねえちゃんの下手くそ」とちゆりは叫ぶ。

 そしていつの間にかいなくなっていた。

「ねえ、今の何?」と佳林はひとみに聞いた。

「さあ?どうして校庭に小学生の女の子がいたんだろうね」とひとみは佳林の質問と違う答えをする。

「学校に突然迷い込んだ犬みたいね」とひとみは笑う。

そしてひとみはテナーサックスをまた吹き始める。

すると佳林もまた音につられてあとをついていく。

今のっていわゆる悪魔狩りよねと佳林はワクワクしていた。

中2病じゃないんだ、今の…。

本物の悪魔祓いを初めて目の前で見た。

ひとみって魔法も操れるんだ、きっと。


と佳林はひとみの長く伸びた影が西洋の絵画の悪魔に似ていることに気が付いた。

やばい。悪魔が憑りついたんじゃないの。

「ねえ見て」と佳林はひとみの影を指さす。

「大丈夫?ひとみ………」

「なにが…」とひとみは戸惑う。

「ひとみの影見なよ、悪魔みたいだよ」と佳林は小声で呟く。

ひとみはじっと影を見る。

「本当だ。悪魔みたい」と笑う。

「ねえ、変でしょ」

「大丈夫だよ」とひとみはテナーを吹きだした。

「絶対変だって…」と佳林はひとみの影を踏みつける。

偶然?と佳林は影をじっと見つめる。

さっきの小学生がひとみに乗りうつってるんじゃないだろうか。

何度となく踏みつけるが、何も起こらない。

「何、影踏みしたいの?」とひとみは笑う。

「しようよ、影踏み」と佳林は大喜び。

それから陽がおちるまで幽霊たちと一緒に影踏みをした。


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