第94話
木嶋は、待ち合わせ場所に着いた。
階段を上がり、2Fの空いている座席を探していたのだ。
空いていたのは、コーナーサイドだった。
木嶋は、そこに座り、夕刊紙を広げ、
「後から1名来るので、2名で…。ケーキセットで…ケーキは、ショートケーキ。飲み物は、ホットアメリカンコーヒーでお願いします。」店員さんにオーダーをしたのだった。
木嶋は、
「いつものように、時間通りに来ないはず。ゆっくり寛ごう。」夕刊紙に読み更けていた。
はるかが、まともに時間通りに来たことなど皆無であった。
酷い時は、1時間以上も待たされることも【何度も】あるのだ。
木嶋も、人間である。怒りたいこともある。
「本人の自覚を、促すより方法がない。」木嶋は、左手に腕時計を見た。
待ち合わせ時間に、まだ猶予がある。
先ほど、オーダーしたショートケーキとホットアメリカンコーヒーが、木嶋のテーブルに運ばれてきた。
木嶋は、早速、コーヒーにミルクと砂糖を一杯入れ、スプーンで掻き混ぜて、一口、コーヒーを飲んだ。
夕刊紙を、パラパラめくっていると、クロスワードパズルがあった。
「最近、頭の体操をしていないから、短時間でやるにはいいかな!」チャレンジをしよう。
木嶋は、コートの中にあったボールペンを取り出し、クロスワードパズルを解き始めていた。
コーヒーショップ『Y』にある掛け時計が、午後5時の時報と共にメロディーが、
「ピリ-ン」鳴っている。
はるかからの連絡は、まだない。
ふと、腕時計を覗くと午後5時15分を過ぎていた。
「いつものことながら遅刻か…!」
木嶋は、携帯を取り出し、はるかに電話をした。
「プルー、プルー」呼び出し音が鳴っている。
はるかが、電話に出た。
「もしも〜し、はるかですが…」木嶋に答えたのだ。
「木嶋です。まだ時間が掛かりそうですか?」はるかに聞いたのだ。
はるかは、
「連絡をしなくて申し訳ありません。今、高島屋にいるので、もう少し見たいのですが良いでしょうか?」木嶋に聞いていた。
木嶋も、はるかにそう言われてしまうと弱いのだ。
「いいよ。せめて午後5時30分ぐらいまでには、コーヒーショップ『Y』の2Fコーナーサイドの席に来て下さい!」期待感を込めて、はるかに伝えたのだ。
はるかも、
「分かりました。そのくらいの時間までに行きます。もう少し、お待ち下さい!」木嶋に話して、電話を切ったのだ。
木嶋は、
「いつもながら、こっちから連絡をしないといけないから、嫌になる。」ボヤいているのであった。
「カッ、カッ、カッ」階段を上がってくる靴の音が聞こえてきた。
木嶋が、振り向いた。
はるかでは、なかった。
別人の女性であった。
どうやら、一人で来たみたいであった。
木嶋は、好きな女性のタイプではなかった。
スタイルは、背が高く、濃い栗色で、髪型がロング。化粧も濃かったのだ。今風の女性である。
灰皿を取り、煙草に、火を点けて、おいしそうに煙りを出していた。
木嶋の好きなタイプの女性は、知的な女性が好きなのである。
木嶋自身、煙草は吸わず、女性でも、吸う人は苦手であった。
はるかは、煙草を吸わない。魅力な部分は、どこにあるのかと、以前、麻美に聞かれたこともあったが、
【素直な心と瞳に惚れた】いつも、そう答えていたのだ。
再び、階段を、
「カッ、カッ、カッ」靴の音が聞こえてきた。
振り向くと、はるかが来たのであった。
「遅くなりました。」はるかが、木嶋に頭を下げ、席に座ったのだ。
木嶋は、
「麒麟のように、首を長くして待ちくたびれました。」はるかに話したのだ。
「それなら、トンカチで頭を叩かないといけませんね!」はるかが、木嶋に伝えたのだ。
木嶋は、
「コブが出来るじゃないの?」はるかに話し、
はるかは、
「プッ…と」笑っていた。
木嶋も、つられて、
「ハハハ」笑ったのだ。