第862話
母親は、
「お父さんにしては、珍しく良いところがあるね。」にこやかな笑顔で、木嶋に話していた。
母親の笑顔を見て、木嶋も、一安心したのである。
家のドアが開いた。
「ただいま。」父親が帰ってきた。
母親は、
「お父さん、お帰りなさい。」普段と変わらない態度で、父親に接していた。
父親は、
「途中まで、捜しにきたよ。」母親に問いかけていた。
母親は、
「お父さん、自転車で出掛けたのかな?と思っていたからね。また、帰り道で迷って、警察のお世話になったら困る。不安だったよ。」父親に伝えた。
父親は、
「自転車で、出掛けようと思ったが•••以前のように、突然、方向音痴になってしまうと、怖いからね。近いところなら、迷子になっても、交番で聞けば教えてくれるし、帰って来れる。そう考えたんだ。」母親に答えていた。
母親は、
「そうだね。お父さん、家と反対方面に向かって行ったこともあるね。【土砂降りの雨】の中を帰って来たこともあるね。近くでも、自転車を停めた場所すら、覚えていなかったよね!」父親に話したのである。
父親は、
「痴呆症の始まりかね?」木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「お父さん、痴呆症の始まりだったら•••主治医の先生に相談しないと、いけないね。」苦笑いをするしかなかった。
母親は、
「あとは、お姉ちゃんが帰ってくればいいね。」木嶋に告げた。
木嶋は、
「お姉ちゃん、駅前に出掛けたんでしょう?お父さんと違って、方向音痴になることは、ないでしょう。それが、全くの《見ず知らずの土地》なら、判らないけどね。たまには、いいんじゃないの!」母親に話したのである。
父親は、
「お母さん、心配しなくてもいいよ。帰ってくるときは、家に電話をしてくるよ。」母親へ答えていた。
母親は、
「そうだね〜。うちの家族は、どこへ出掛けるにしても、帰るときは、電話をしてくるからね。あまり、遅いようなら•••対策を考えよう。」父親に伝えたのである。
木嶋は、
「さて、これから•••どうしようか?《バッティングセンター》に行って、身体を•••動かして来ようかな?」母親に尋ねていた。
母親は、
「《バッティングセンター》に行って来るの?連休で、身体が鈍っているだろうから、行って来なさい。」木嶋の提案に同意をした。
木嶋は、
「時間にして、30分ぐらいだと思うよ。【木製バット】を持って、《ストレス解消》に行って来ます。」母親に答えたのである。
父親は、
「《バッティングセンター》なら、【金属バット】があるんじゃないか?【木製バット】を持って行かなくてもいいと思うよ。」木嶋に尋ねていた。
木嶋は、
「【金属バット】よりも、【木製バット】で打ちたい。」父親に告げた。
父親は、
「【木製バット】を折らないように。また•••《軟式ボール》と言っても、《ヘルメット》を被らないと•••。」木嶋に話したのであった。