第861話
木嶋は、
「お母さんの言う通りだね。」説得力のある言葉である。
確かに、父親は•••
自転車で出掛けてしまうと、方向音痴になるときがある。
転倒して、《ケガ》をしたりするので、家族としては、《ハラハラ》する。
そうは言っても、家にずっと•••閉じ込めてしまうのも、お父さんには、酷である。
母親は、
「お父さん、自転車で出掛けたか?解らないから駐輪場を見て来て。」木嶋に話していた。
木嶋は、すぐに家のドアを開け、階段を降りて、駐輪場に向かった。
駐輪場までは、そんなに、時間は、かからない。
すぐに、自転車を止めている場所に着いた。
「お父さん、自転車を使わずに、歩いて散歩に出掛けたか。そんなに、遠い場所までは、行っていない。これで、安心できるかな?」偽ざる心境であった。
家に戻り•••
「お母さん、お父さん•••自転車を使わずに、歩いて散歩に出掛けたよ。」母親に答えていた。
母親は、
「お父さん、歩いて散歩に出掛けたの?それも、心配だね。お酒を飲んで帰って来なければいいけどね。」
「主治医の先生から、キツく言われているからね。さすがに、飲まないと思うよ。」木嶋は、母親に伝えたのであった。
母親は、
「お父さん、お酒が嫌いじゃないからね。以前、自治会の会長に迷惑を掛けている。今回も、同じことが起きても、不思議じゃないよ。」木嶋に告げた。
木嶋は、
「お母さん、念のため•••この敷地内を、歩いて見てくるね。酒を飲んでいたら、その場で捨ててきます。」母親に話し、ドアを開け、父親を捜しに出掛けたのである。
母親の不安が、的中するとは、限らない。
木嶋としては、当たらないことが最適である。 敷地内を見ていたら、父親が歩いていた。
右手に何かを持っている。
木嶋は、
「お父さん。」父親に声を掛けた。
父親は、
「何だ•••歩いていたのか!」木嶋に言葉を返した。
木嶋は、
「お母さんが、心配しているよ。お父さん、お酒でも、飲んでくるんじゃないかってね!」父親に答えていた。
父親は、
「右手に持っているのは、《缶の甘酒》だよ。」木嶋に告げた。
木嶋は、
「《缶の甘酒》ね。酒だったら捨てようかと思っていたよ。」父親に話していた。
父親は、
「お母さんに、心配かけさせたくないからね。お父さん、少し•••《ベンチ》で休んで帰るから、先に、戻っていいよ。」木嶋に答えていた。
木嶋は、
「お父さんでも、お母さんのことを、気にしているんだね!」父親に伝え、その場を離れて行った。
家のドアを開けた。
母親は、
「お父さん、どの辺りにいたの?」木嶋に問いかけていた。
木嶋は、
「《商店街》近くで、お父さんと会ったよ。」母親に話したのである。
母親は、
「お父さん、お酒を飲んでいなかった?」
「酒は、酒でも•••《缶の甘酒》だったよ。」木嶋は、母親に伝えた。
母親は、ホッと•••胸を撫で下ろしていた。