第82話
木嶋は、会社の送迎バスに乗り、空いていた座席に座り、富高さんが来るのを待っていた。
腕時計で時間を確認した。
「午後5時12分か…。もうそろそろ来る頃かな?」木嶋は、落ち着いていた。
富高さんが、バスに乗ってきた。
周りを見渡し、木嶋が座っている座席を見つけ、隣りに座った。
富高さんが、
「木嶋君、危うく残業になりそうだったよ!間一髪の所で仕事が終わったよ。何か…今日は、寒いよね。」木嶋に声をかけたのだ。
木嶋は、
「富高さんが来るのか?本当に心配でしたよ。」富高さんに話していた。
富高さんは、
「自分も、麻美さんに会いたいから必死だったよ。」
「麻美さんに、会うのは随分、久しぶりに感じるよね。」木嶋が、富高さんに尋ねていた。
富高さんも、
「木嶋君が言う通りだよね!麻美さんと会うのはどれくらいの期間が空いていたのだろう!」木嶋に話したのだ。
木嶋は、いつも背負っているリュックから黄色の手帳を取り出し、パラパラとページをめくっていた。
「麻美さんと会うのは…夏前ぐらい…かな?いや、春先かな?随分、長い期間、会っていないね!」富高さんに話していた。
富高さんは、
「えっ、そんなに期間が空いていたの?」木嶋に驚いた表情を見せたのだ。
木嶋は、
「このところ、はるかさんのいるクラブ『H』に行く機会が多かったのは事実だね。もっとも横浜駅から近いからどうしても、そっちに行っても仕方ないと思うよ。」富高さんに話していたのだ。
会社の送迎バスが、最寄り駅に着いたのだ。
富高さんは、先に、座席を立ち、バスのステップから降り、木嶋が来るのを待っていた。
木嶋は、バスの運転手さんに、
「ありがとうございました。」声を掛けて、バスから降りて、待っていた富高さんと一緒に、最寄り駅の階段を降りて、コンコースに立ち止まった。
木嶋は、
「どっちのルートで行こうか?」富高さんに尋ねていた。
富高さんは、
「木嶋君、今日は、市営地下鉄で行こうよ!」木嶋に同意を求めていた。
木嶋は、安心したように、
「市営地下鉄で行きましょう。」
動きが止まっていた時計の針を回し始めたように、再び、歩き出したのだ。
コンコース内を歩いていた木嶋と富高さんは、売店があるのを見つけた。
「木嶋君、飲みながら行こうよ!」富高さんが、木嶋に声を掛けたのだ。
「OKです。飲みながら行きましょう。関内まで地下鉄に乗っている時間は長いですからね。ビールは、買って来ますよ。」富高さんに話し、木嶋が、売店に歩いて行ったのだ
「アサヒスーパードライ…2本下さい。」若い女性スタッフに声を掛けたのだ。
若い女性スタッフは、
「スーパードライですね。」木嶋に確認していた。
木嶋は、
「そうです。」Gパンのポケットから財布を取り出したのだ。
若い女性スタッフは、手慣れた手つきで、ビールをビニール袋に入れ、木嶋が、500円玉を渡し、お釣りを受け取り、
売店前で待っていた富高さんと合流したのだ。
木嶋は、市営地下鉄の料金表を見上げた。
「関内までは、料金は…350円か…意外に高いな!」再び、ポケットから財布を取り出したのだ。
財布の中を覗くと、小銭になく、
「先程、ビールを買ったときに遣ったんだ。」自分自身に言い聞かせるように、1000円札を取り出し、キップ券売機に投入して、お釣りを受け取ったのだ。
自動改札機を通り、改札内にいた富高さんと一緒にプラットホームに降りて行くのだった。