第79話
はるかの後を追い掛けるように、木嶋が歩いていた。
はるかのブーツの足音が、
「カッ、カッ、カッ」冬の乾いた夜空に響いている。
はるかが、橋の袂にある、セレクトショップの中に消えて行った。
木嶋は、はるかと買い物に出かけると、ショップの近くで待っているのが定番になっていた。
木嶋は、携帯を取り出しはるかに電話をしたのだ。
「プルッ、プルー、プルー」呼び出し音が鳴っている。
はるかが、電話に出たのだ。
「もしも〜し、はるかですが…」
「木嶋です。自分が、セレクトショップの2Fに行くより、表通りのシューズショップで靴を見ていていいかな?その方が、はるかさんは良いのではないでしょうか?」
はるかは、
「木嶋さんが、セレクトショップのブランドコーナーに来ずらいかも知れませんね!一度、2Fに上がって来てはいかがですか?」木嶋に伝えたのだ。
木嶋は、
「分かりました。セレクトショップの2Fに行きますよ。」はるかの待つブランドコーナーに上がって行ったのだ。
はるかが、木嶋を手招きしている。
「木嶋さん、この商品です。」
ブランドコーナーの店員さんが手袋をして、『HERMES』のバックを木嶋に見せたのだ。
木嶋は、
「はるかさんが、『HERMES』のバックを持ったときの、《イメージ》が湧かないので、外に出て、頭を冷やしてきます。」はるかに伝えたのだ。
はるかは、
「分かりました。まだ、見たい商品があるので、木嶋さんに電話しますね!」木嶋に話したのだ。
木嶋は、
「了解しました。」はるかに伝え、セレクトショップの近くにあるシューズショップに入って行った。
「最近、靴を買っていないなぁ〜。NIKEやadidas、pumaか…靴も何気に高いな!そうだ…確か…もう一軒、シューズショップがあるはず…そっちに行って見よう。」
ボヤきながらも、相鉄ジョイナスの2F辺りにあるスポーツショップに歩いて行ったのだ。
はるかが、買い物をするときは、時間が掛かるのは、木嶋は、分かっていた。今日は、イラついても仕方がない。
はるかが、クラブ『H』に出勤するまで、時間はまだある。
それを逆手に取れば、待つだけに没頭するよりは、自分の趣味で、時間を有効活用すれば良いのだ。
木嶋は、相鉄ジョイナスの2Fにあるスポーツショップに着いたのだ。
このスポーツショップは、以前から知っていて何度か来たことがあったのだ。
1990年代の木嶋は、陸上をやっていた。
元々、小さいときから走っていたので、走ることには違和感などなかったのだ。
木嶋が、靴を見る時は、ランニングシューズに目が行ってしまう。
会社の代表で、一年に一回、毎年、5月に、長野県の富士見高原の大会に出場をしていたのだ。
「郷田さんたちは、どうしているのかな?会っていないな!」木嶋は、思い更けていた。
2001年11月10日以来、会っていなかったのだ。
木嶋は、振り返ると、はるかと一緒に時間を優先するために、今まで、木嶋を支えてくれていた、陸上の仲間たちに、
【裏切り行為】と思える行動をしていたと思わずにいられなかったのだ。
会社内でも、良く飲みや遊びに行っていた仲間たちが、昇格や結婚するたびに、焦りの色が段々と濃くなって行くのだ。
「果して今のままで良いのだろうか?いずれ、はるかも自分の元から消えて行く日は近い。出会いのチャンスもそんなに多くはない。身近に、同年代は麻美さんや玲さんか…富士松さんもそうだし…同年代は大切にしないとマズイかな!」木嶋は、この日が一つの転機になるのかと感じ始めていても不思議ではなかったのだ。