第640話
木嶋は、相鉄線に乗り…はるかの待つ横浜駅に向かった。
いつもと同じ車両に乗り、夕刊紙を読んでいた。
電車の中で、新聞を読むのは、日課になっている。
それは、仕事が…定時間の5時で終わったときに…
極稀に、帰りの電車の中で寝てしまうこともある。
それは、日頃の疲れなのかは判らない。
夕刊紙も、一通り…読みあさってしまうと、見る価値が、半減してしまう。
【バブル景気】の《絶頂期》(ぜっちょうき)…
電車の棚の上に、新聞や雑誌が、無数放り投げ出されていた。
それを、持ち帰って読んでいた人も、木嶋の会社の中にいた。
木嶋が、まだ…20代の頃…
他人が…読んだ新聞や雑誌を、手に取って読み、それを、元の位置に戻したりしていたときもあった。
他の乗客の人たち、新聞や雑誌を持ち帰っていた人も、見受けられた。
最近は、【景気の低迷】で、新聞などを…電車の棚の上に放り投げている人がいない。
「ここにも、不況の影響が出ているのか?」そう考えてしまうと、必然的に、ため息を漏らしてしまう。
木嶋の地元で、雑誌や週刊紙を、路上で売っている光景を、目にしたことがあった。
その多くは、電車の棚の上にあった物である。
最近、良く見られるのは、年配の人が…《ゴミ箱》から朝刊紙を、拾い上げている。
それを見た瞬間は、言葉が出なかった。
電車が、まもなく…中間点の駅に着く頃である。
木嶋は、毎日、この中間点で、急行電車に乗り換えて、横浜駅に向かうのである。
普通電車で行く方法もあるが、時間が掛かるため…中間点で乗り換えている。
木嶋は、携帯を取り出した。
「はるかに、横浜駅に着く時間を、メールで連絡しよう!」
中間点から横浜駅までの所要時間は、凡(およそ…15分である。
木嶋は、横浜駅に到着予定を記載して、はるかに…メールを送信した。
はるかは、時間にルーズである。
木嶋は、時間には…正確だ。
待ち合わせするたびに、【ヤキモキ】しているのは、木嶋の方である。
急行電車が横浜に着いた。
木嶋は、【フー】と息を吐いた。
相鉄線の改札口を出て、行きつけのコーヒーショップ『Y』に歩いて行く。
木嶋は、
「このコーヒーショップ『Y』に、随分長い期間来ているな!」自分で、自画自賛していた。
はるかと会うのは…2週間ぶりである。
木嶋に、新鮮な気持ちが生まれる。
それが出来るのは、かれんさんの存在であった。
いつものように、2Fに上がって行く。
座り慣れたテーブルに座った。
「ここで、はるかを待つか…何分で来るのだろう?」期待と不安が入り交じっていた。