第560話
木嶋は、着替えを終えて…炬燵の中で、スポーツ新聞を広げていた。
「今年は、自分として有意義な年だったのかな!」一人で頷いていた。
「なぜ、有意義な1年だったか…振り返れば、かれんさんと出会ったことだ。」
出会いと別れは、春に多いとされているが、木嶋の場合は、なぜか?
秋に集中している。
はるかであり、かれんさんであり、麻美であり、玲であった。
また、夏に苦い思い出しかない。
その思い出とは…夜間高校の後輩と、ケンカして別れたことである。
【振り返ると…自分自身が、未熟者だったのだ。それがなければ、今も、一人でいることはなかった。
「なぜ…あんなことをしてしまったのか?未だに答えが出ない。」
そんな状況で、はるかと出会ったことが、最大の幸せなのかも知れない。
もちろん…かれんさんと一緒に…
《X'masイヴ》にデート出来ることは、この上ない喜びである。
新聞を読み終え、掛け時計で時間を確認した。
【もう…こんな時間なのか?そろそろ、家を出ないと!】
木嶋は、炬燵から出て、長野オリンピックのレプリカモデルを着用…。
家族に…
《出掛けてくるよ。》声を掛け、外に出た。
《寒いな!手袋をして行こう。》
一旦!
家に戻り、リュックから手袋を取り出した。
《良し…これで完璧だ!》一人で呟いていた。
木嶋は、会社に通勤するときに、手袋を着用している。
《はるかが自分にくれた…《誕生日プレゼント》だ。》
それを大切に使っている。
背を丸くしながら、最寄り駅まで歩いていた。
木嶋の自宅から、桜木町駅までは、およそ…30分である。
普段から時間に余裕を見て、家を出ている。
待ち合わせ時間にルーズなのは、はるかである。
待ち合わせ場所で、散々(さんざん)待たされていて、時として…帰りたくなってくる。
あまりにも、待ち時間が多いと、木嶋が…痺れを切らして、
席を立ってしまうのは、一度や二度ではない。
「かれんさんは、時間通りに来ればいいな!」淡い期待をしていた。
改札前に待ち合わせと言っても、風が通り抜けて寒いのである。
この時期に、待ち合わせするのも、初めての経験なのだ。
木嶋は、最寄り駅に到着、京浜東北線のホームに降りて行く。
週末なのか?それとも…《X'masイヴ》なのか?
普段より混んでいる印象だ。
【良し…ここまでは、予定通りだ。あとは、何事もなく…順調に行けば…。】
京浜東北線に乗車した。
木嶋は、
《行き先は、桜木町止まり。空いていていいな!》
座席に座り、携帯を取り出した。
着信を知らせる…サインが出ていた。
【何だろう?】
疑問心を抱きながら…画面を覗いた。
「メールの着信だ。はるかからかな?」
差出人を確認して…
木嶋は、ホッ…とした。
「かれんさん」からであった。
「もう…待ち合わせ場所に到着しています。木嶋さん…早く来て下さい。」
木嶋は、
「予想より早いな!」とボヤきながら…
「もうすぐ到着します。」と、かれんさんにメールを送信したのであった。